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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第三章

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第五十二話 「感想」


 魔術師の暴走事件に巻き込まれた翌日。

 私とミルはお昼休みの時間に、担当教員のレザン先生に声を掛けられた。


「昨日のことを聞かせてもらったよ」


「ふぁい?」


 中庭のベンチでサンドイッチを齧っていた私は、間抜けな声を漏らしながら首を傾げる。

 しかしすぐにあの事件のことだと察して、サンドイッチを手早く片付けてから先生に返した。


「“昨日の”って、商業区で起きたあの事件のことですよね? もう学園まで伝わってるんですか?」


「昨夜に軍の方から報告を受けてな。学園の生徒が騒動を収めてくれたと、感謝状までもらってしまったからね。しかもそれが君たちだとは本当に驚かされたよ」


 手回しが早い。

 衛兵さんたちも忙しそうだったし、学園への通達はもう少し日が経ってからだと思っていたんだけど。


「よくやってくれたな。担当教員の立場としても、君たちを誇りに思うよ」


「い、いやぁ、そんな直球で褒められると照れちゃうなぁ……」


「サチさん、本当に大活躍でしたからね。私も近くで見ていて感動しちゃいました」


 称賛の矢が嵐のように降ってきて、私は思わず頬を緩ませてしまう。

 “いやいやそんなことないっすよぉ〜”と嬉しさを隠し切れない謙遜をしていると、レザン先生が西棟の校舎の四階を指差しながら私たちに言った。


「実はその件で二人に話があるから、放課後に学園長室まで来てもらえないだろうか?」


「学園長室?」


 そういえば特別棟とも言われている西棟の最上階に、学園長さんの部屋があると聞いた。

 研究室に行く以外で、あまり西棟を訪ねる機会はなく、上の階の方なんて滅多に行くことはないから見たことはないけど。


「アナナス学園長が、事件の時のことを詳しく聞きたいらしい。それと二人にちょっとした頼みがあるとのことだ」


「た、頼みですか……? まあ特に予定もないので……」


「わ、私も大丈夫です」


「そうか。それなら授業終わりに一緒に学園長室まで行こうか。アナナス学園長の様子からして、そこまで深刻な頼みでもなさそうだから、変に身構える必要もないと思うよ」


 それじゃあ宜しくな、と言って、レザン先生は立ち去って行った。

 私はミルと顔を見合わせて、お互いに首を傾げる。


「頼みってなんだろうね?」


「さ、さあ……? でも、これで私は学園長さんから頼み事をされるのは二回目です」


「あっ、そっか。そういえば期末試験の前に、滞留してる学園依頼の消化をお願いされてたもんね。今回もそんな感じのお願いなのかな?」


「でも最近は、学生たちの調子もいいみたいで、学園依頼も滞りなく捌けているって聞いていますよ」


 じゃあどんな頼みをされるのだろうか?

 それは定かではなかったが、ともあれ私とミルは放課後に学園長室を訪ねることにした。




 時計ぐるぐる回って、早くも放課後。

 私とミルはレザン先生に案内される形で、東棟から西棟へと向かっていた。

 学園長室は教室が集まっている東棟ではなく、職員室や研究室がある西棟の四階にある。

 初めて訪れたそこには、他の教室とは違って、明らかに豪華な装飾の金色の扉があった。

 ミルは一度訪れているのでさほど驚いた様子はないが、私は初めて見たのでそれなりに肝を抜いている。

 これが学園長さんのお部屋。

 じろじろと扉を観察していると、レザン先生がコンコンコンとノックして、部屋の中に声を掛けた。


「アナナス学園長、失礼いたします」


「うむ、入ってよし」


「……?」


 なんだか幼い声が返って来た気がして、思わず首を傾げている。

 直後、開かれた扉の向こうを見て、私は驚きを隠すことができなかった。

 学園長室の奥の立派な席に、五、六歳程度に見える金髪幼女が、得意げな顔をして座っている。

 金色の髪を一つの団子状に纏めていて、時折それを気にするように触っている。

 先ほどの声の感じからしても、おそらくこの幼女が返事をした学園長本人で間違いあるまい。

 私が口を開けて呆然と固まっていると、幼女は呆れたようにため息を漏らしていた。


「……そっちのミルティーユ・グラッセがここに来た時と、まるで同じような反応じゃな」


「へっ……?」


 ミルもこんな反応をしたの?

 いや、それも無理はあるまい。

 だって学園長さんって、私の記憶が正しければ、杖をついているシワクチャのおばあちゃんだったはずだ。


「学園長さんは少しでも貫禄を付けるために、幼い見た目からお婆さんの姿に“擬態”をしていたんですよ」


「ぎ、擬態……? ってことは、この可愛い幼女の見た目が、学園長さんの本来の姿ってこと?」


「誰が可愛い幼女じゃ! そう言われるのが嫌じゃから擬態しているんじゃろうが!」


 顔を赤くして怒った幼女は、行儀悪く椅子の上で地団駄を踏んだ。

 その後、腕を組んでドンと小さな胸を張る。


「とにかく、ワシがこの魔術学園の学園長のアナナス・クロスタータじゃ。久しいなミルティーユ・グラッセ。依頼消化の件、遅ればせながら礼を言わせてもらうぞ」


「い、いえ……」


「それと初めましてじゃな。サチ・マルムラードよ」


「は、初め、まして……」


 いまだに呆気に取られたまま放心していると、学園長さんはさっそく話を始めた。


「今回二人を呼んだのは他でもない、先日の魔術師暴走事件について話を聞きたいと思ったんじゃ。それとワシから一つ頼み事を聞いてもらえないかと思ってな」


「じ、事件のことでしたら、もうすでに軍の方から色々と聞いているのではないですか?」


 固まり惚ける私に代わって、ミルが学園長さんに問い返す。

 すると学園長さんは、再び椅子に座り直して肩をすくめた。


「事件発生時の詳しい状況や、犯人の素性といった概要はな。ただワシが知りたいのは、実際に魔法を交えてみた者としての感想じゃ。何か違和感を覚えたり、不思議に思ったことなどなかったか、君たちには聞きたいと思っているのじゃよ」


「は、はぁ……」


 確かに戦った感想は、実際に犯人と魔法を交えた私たちにしか聞けない。

 なぜそれを知りたがっているのかはわからないけど、ようやく硬直を解いた私は学園長さんに頷き返した。


「まあ、私たちの話でよければ……。でも衛兵さんたちに聴取された以上のことは、あんまり話せないと思いますけど」


「それでよい。犯人と戦ってみた感想を述べてくれればそれで充分じゃよ。で、実際に戦闘を終えてみてどうだったかな?」


「えーと……」


 私は先日の戦いを鮮明に思い返してみる。

 学園長さんがどんな答えを期待しているのかはわからないけれど、とりあえず率直な感想を伝えてみることにした。


「かなり手強かったと思います。炎魔法も強力だったし、正直大きな怪我とかした人が出なかったのが奇跡だと思うくらいです」


「わ、私も、まさか自分の魔法があんなにあっさりと破られるなんて思いませんでした。一般市民を巻き込んだ行為は到底許されることではないですけど、あの方の炎魔法は素直にすごいものだったと思います」


 ミルも同じくあの魔術師の実力には感心を覚えていたようで、私と似たような返答をした。

 それを聞いた学園長さんは、『ふむ』と言って再び腕を組んで考え込む。

 レザン先生も見守る中で、しばしの沈黙が屋内を支配すると、やがて学園長さんが納得したように頷いた。


「うむ。目撃者たちの話からも、犯人は国家魔術師と遜色ない実力を有していたと噂になっておる。実際に戦って暴走を止めた君たちもそう言うなら、犯人の実力は疑いようもないものなのじゃろうな。しかし……」


 学園長さんは、耳を疑うような情報を明かしてきた。


「例の事件の犯人――アブリコ・グリヤードは、国家魔術師どころか魔術学園の入学試験にも落ちている、魔術師として落第評価を受けた人物なんじゃよ」


「「えっ……」」

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