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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第三章

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第五十話 「狂戦士」


「靴、ですか?」


「そそっ。競技用の運動靴欲しいんだよね。私が出る競技、走り回るのばっかりだし」


 星華祭の出場競技が決まったその日、私はミルを誘って買い物に行くことにした。

 場所は王都ブロッサムの商業区。

 多くの商業施設が集まった地区で、魔術学園の学生たちも放課後に雑貨屋やカフェなどをよく利用しにやって来る。

 王都で一番賑わっている場所と言っても過言ではないその場所には、行商人も頻繁に訪れて掘り出し物や希少品などを多く見かけたりするのだ。

 魔法の触媒から競技用の運動靴まで、様々なものが揃っている。

 この機会にここを利用しない手はない。

 そして商業区に辿り着くと、相変わらずの人混みと喧騒が私たちに襲いかかって来た。

 それに参りながらも、私たちは商業区を進んでいく。


「ミルも何か星華祭に向けて買っとけば? 魔法の触媒とかさ」


「確かに用心しておくのはいいかもしれませんね。星華祭ではクラスのみんなの迷惑にはなりたくないですし。ですけど私には……」


 ミルは懐から、先っぽに青い宝石があしらわれた小杖(ワンド)を取り出して微笑む。


「ミュスカさんからもらった“これ”がありますから、わざわざ新調する必要はないかと」


「あぁ、そういえばそうだったね」


 ウェーブがかった緑髪と、派手な装飾品の数々が印象的だった女子生徒。

 のちにミュスカ・フェルマンテという名前がわかったその女子生徒とは、期末試験にミルと一悶着があったらしい。

 その時の非礼を詫びるという意味で、触媒研究会に属しているミュスカさんから小杖(ワンド)をもらっていた。

 かなりの上等品らしいので、確かに新たに触媒を調達する必要は無さそうである。


「競技用の靴も、特に新しく用意する必要はないですかね。私が出場する競技は、どれも激しく動き回るわけではありませんし」


「じゃあ今回は私の買い物だけってことか。ごめんね、一方的に付き合わせちゃって」


「いいえ、後で一緒にカフェでも行って、甘いものでも食べましょう」


 ミルとそんな話をしながら商業区を進んで行き、私たちは買い物と寄り道を楽しんだ。

 すると触媒屋の前を通りかかったところで、ミルが唐突に尋ねてくる。


「そういえば、サチさんは触媒を持たないんですか?」


「えっ? わたし?」


「魔法を使う時、いつも何も持たずに素手で使っていますよね? 私も最近まではそうでしたけど、それはただ金銭的な問題があっただけなので……」


 今は学園依頼の収入があって、それなりに貯蓄もある。

 魔法の触媒を買うくらいなら余裕なはずなので、私がいつまでも触媒を持たないことを不思議に思っていたようだ。


「うーん、私は別に必要ないかなぁ。触媒って簡単に言えば、魔力値を上げて魔法を強めるものでしょ?」


「体内の魔素が宝石に反応して、魔力値が上昇すると言われていますね。一説によると魔素は、宝石などの光り物が好物みたいで、それが近くにあると興奮して体を膨らませるのだとか」


「宝石とかが好きって、なんか魔素って女の子みたいだね」


 宝石好きの男の子もいるだろうけど。

 という話はともかくとして、魔力値は魔素の大きさに応じて決まるようになっている。

 だから魔素の体を膨らませると魔力値が上昇して、私たちが使う魔法の威力も上がるようになっているのだ。

 けれど……


「あっ、サチさんの場合は……」


「そっ。私が主に使ってる魔法は『確率魔法』で、魔力値じゃなくて幸運値に依存してる魔法だから、触媒は必要ないんだよ。魔力値1の私が、今さら触媒を持ったところで大した魔法も使えないだろうし、これからも触媒は持たないかなぁ」


「な、なるほど」


 まあ、見た目的な話をすると、すごく魔法使いっぽく見えるから持ってみたい気持ちはあるけどね。

 触媒を振って巧みに魔法を操る魔術師とか、めちゃくちゃ憧れるし。

 でも、私の場合は見せかけだけのただの装飾品(オシャレアイテム)にしかならないから、やっぱり持たないかな。


「あっ、でも、幸運値が上がる触媒とかあったらちょっと欲しいかも」


「それ以上幸運値上げてどうするつもりなんですか……。ていうかそんなものがあるなら私が欲しいくらいです」


 と、不幸少女のミルは、私がテキトーに言ってみた幸運触媒を熱望するように空を見上げていた。




「きゃあああぁぁぁ!!!」




「「――っ!?」」


 そんな何気ない会話をしながら商業区を歩いていると、突如どこからか女性の悲鳴が聞こえてきた。

 直後に通りの奥から大量の人が流れて来て、私とミルは人波に揉まれる。


「おい! 早く逃げろ!」


「ちょっと押さないでよ!」


「全員この先に行くんじゃねえ!」


 そんな喧騒を耳に受けながら、私とミルは思わず戸惑ってしまう。


「ちょ、なになになにっ!? これどういう状況!?」


「と、通りの向こうで何かあったんでしょうか!?」


 ミルと離れ離れにならないように手を繋ぎながら、なんとか人波をやり過ごすと……

 やがてがらんとした通りが目の前に映った。

 先ほどまで賑やかだった商店通りには、今は半壊した出店やらゴミクズなどが散乱している。

 その光景に思わず呆然としていると……


「んっ?」


 通りの先に、“一人の男”を見つけた。

 男は、唸り声を上げながら“炎の剣”を振り回していて、辺りにあるものを手当たり次第に壊しまくっている。


「……うわぁ、危ない人いるじゃん」


「ど、どうしてあんなことしているんでしょうか?」


 見るからにあの男が騒ぎの原因だと思われる。

 炎の剣はおそらく魔法。遠くから見ていても微かな熱を感じるほど強烈な代物で、あんなものを突然町中で振り回したら騒ぎになるのは当然だ。

 目的は定かではないが、じきに治安維持活動をする国家魔術師や衛兵が飛んで来るので、彼が捕まるのも時間の問題だろう。

 とりあえず私たちも巻き込まれないように離れているとしよう。と、ミルに声を掛けようとした、その瞬間――

 視界に、信じがたいものが映り込んだ。


「だ、誰か、助けてください……!」


「「――っ!?」」


 男が暴れ回るすぐ近くで、一人の女性が脚に怪我をして地べたに座り込んでいた。

 声の感じからして、先ほど悲鳴を上げたのは彼女だろうか。

 騒ぎの中心にいたこともあってか、不運にもそれに巻き込まれてしまったらしく、立ち上がれずに助けを求めている。

 その光景を見た私とミルは、咄嗟に顔を見合わせた。

 このままでは、あの男の暴走にさらに巻き込まれてしまうかもしれない。

 “助けなきゃ”。視線だけで意思疎通をさせると、私とミルは同時に口を走らせた。


「【覚醒の時は来た――内なる怪力――窮地を穿つ鍵となれ】」


「【喧騒で満ちているーー青龍の息吹――この地に安息と静寂を】」


 声を重ねて、ぴたりと魔法を発動させる。


「【火事場の馬鹿力(グラン・ディール)】!」


「【凍てつく大地(ニブル・ヘイム)】!」


 身体強化魔法を付与した私と、ミルの足元から走った氷が、同時に通りを並走していく。

 先に現場に着いたのは私の方で、暴れ回る男に注意しながらへたり込んでいる女性に飛びついた。

 すかさず彼女を抱え上げると、地面を蹴飛ばして危険な場所から助け出してあげる。

 直後にミルの氷が現場に辿り着き、暴れ回る男を押さえつけるように足元を凍りつかせた。

 この間、およそ三秒。

 遠巻きでそれを見ていた人たちは、一瞬の出来事に言葉を失っている。

 暴れ回っている男もこの早業には反応ができなかったようで、遅れたように凍りついた自分の脚を見下ろした。

 これで奴はもう動けないはず。

 と、思った束の間……


「う、があああァァァ!!!」


「――っ!?」


 男は雄叫びを上げながら、地面に炎の剣を刺して氷を破壊した。

 瞬間、爆発的な熱気がこちらまで届いて来て、私は思わず顔を覆ってしまう。

 ミルの氷魔法をいとも簡単に破壊するなんて、相当な威力の炎魔法だ。

 よくよく見ると、氷を破壊したというよりかは、猛烈な速度で溶かして割ったような痕跡がある。

 あれほどの炎魔法が使えるとなると、相当な魔力値を有していると思われる。

 加えて魔素の色が赤色で、得意魔法が火系統ならば説明もつく。

 しかし、あれほどの魔力値を持っているとなれば、凄腕の魔術師としてそれなりに名前が知れ渡っていないとおかしい。

 高品質の触媒を持っている様子もないし、本来の魔力値であれなら国家魔術師の資格を持っていても不思議はないほどだ。

 でも、まったく見覚えのない人物である。


「全員、オレのことを……バカに、しやがってェ……!」


 男は見えない誰かに怒りをぶつけるように、そこらにある街灯や柱を炎の剣で斬りつけていた。

 目は血走り、口の端からは涎を垂れ流していて、時折全身をガクガクと痙攣させている。

 明らかにおかしいその様子に、思わず首を傾げていると、私が助けた女性が声を震わせながら教えてくれた。


「あ、あの人がいきなり、通りの真ん中で暴れ始めて……! 何かを言いながら、近くにいる人たちを斬りつけて……」


「……なんつー迷惑な」


 女性もそれに巻き込まれてしまったらしく、脚を火傷していた。

 なんとか一人でも歩くことができるみたいだったので、彼女を逃がしてあげてから私は男の方に視線をやる。

 まだ国家魔術師や衛兵が到着する気配はない。

 男は目についたものを手当たり次第に斬りつけて暴れ回っている。

 見ると、先ほどの女性の他にも、近くの商店にはまだ何人か逃げ遅れた人たちがいて、このままでは男の暴走に巻き込まれてしまう可能性が高い。


「……ただ買い物しに来ただけなんだけどなぁ」


 私はため息をこぼしながら、男が暴れているところに近づいていく。

 ここは大人しく国家魔術師か衛兵が来るのを待っているのが吉なんだろうけど……


「私たちの買い物を邪魔したこと、存分に後悔させてあげるよ」


 これ以上、無駄な被害を出さないために、私は奴を止めることにした。

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