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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第三章

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第四十六話 「星華祭」

 

 星華祭(せいかさい)

 それは、世界最高峰の魔術師養成機関、王立ハーベスト魔術学園の一大イベントの一つである。

 一言で言えば、魔法の使用を前提とした競技祭。

 魔法を使った“かけっこ”。魔法を使った“綱引き”。魔法を使った“玉転がし”。

 そういった数々の種目にて、生徒同士が競い合い、クラス単位で勝敗を決める学園行事となっている。

 魔法同士が衝突することにより、幻想的な景色が広がるようになっていて、まるで空に瞬く星々が地上で華を開くように見えることから、この祭典は『星華祭(せいかさい)』という名前が付けられた。


 そんな星華祭には、クラスごとに『代表者』を選出する決まりがある。

 星華祭は三日間に掛けて行われる行事で、基本的に生徒は一日一つの競技にしか参加することができない。

 しかしクラスの代表者に選ばれた生徒は、何度でも競技に出場することが許されている。

 そのため代表者はクラス内でも“屈指の実力者”が選ばれるのが通例で、二年C組の代表者もその例に漏れることはなかった。


「珍しいね。マイス君がこういう行事に協力的になるなんて」


「……」


 二年C組の代表者――マイス・グラシエール。

 彼はクラス内どころか、学年でも指折りの魔力値と魔法センスを持つ秀才である。

 加えて抜群の容姿とカリスマ性を備えているため、主にクラスの女生徒たちから圧倒的な支持を得て、二年C組の代表者に選ばれた。

 星華祭の結果は成績そのものにも反映されるようになっているため、多くの生徒たちが星華祭の勝ちに拘っている。

 他にも成績に繋がるような行事は数多くあれど、マイスは毎回そういった行事には興味を示してこなかった。

 しかし今回、マイスは珍しく代表者を引き受けた。

 そのため彼は現在、滅多に受けることのない学園広報部の取材を受けている。


「マイス君って、いつも行事ごとには無関心だったでしょ? なんで星華祭は少しやる気になってるのかな? 何か特別な理由があるとか?」


「……別に、言うほどのことでもない」


 マイスは相変わらずの態度で、広報部の女生徒に素っ気ない返しをする。

 だが、その冷たい雰囲気が数多くのファンを生み出す要因になったため、教室の隅でそれを見ていた女生徒たちは黄色い声を上げていた。


「まあ、ただの気まぐれでも、代表者になってくれたことをクラスの人たちは感謝してると思うよ。これでほぼ確実にクラス上位を狙えると思うからさ」


「……」


 マイスは机に頬杖を突いて、つまらなそうに話を聞き流す。

 マイスは別に、クラスのために代表者を引き受けたわけではないからだ。

 彼の目的は、もっと別に存在する。

 星華祭は、学園内の生徒たちだけではなく、王都や周りの町からも大勢の観客が集うようになっている。

 星華祭はいわば、魔術師としての才能を見込まれた原石たちがその才を振るい、自らの実力を示していく盛大な催し。

 そのため大陸一の見世物としても有名で、その期間は学園も一般開放されるようになっているのだ。

 加えて、業界に名を馳せている"著名な魔術師”たちも、未来に花開く蕾たちの観察に訪れる。


(界隈にグラシエール家の名前を示すまたとない機会だ。これを利用しない手はない)


 著名な魔術師たちが見守る中で、実力を示すことができる絶好の機会。

 代表者になれば常に競技に参加することができるため、単純に名前を広められる機会が多くなる。

 競技祭そのものに興味はなかったが、マイスは自分の存在と家名を業界に知らしめるために、代表者を引き受けることにしたのだ。


「クラス上位になれば、クラスの生徒全員に学術点と内申点が振り分けられるようになってるし、きっとマイス君の活躍に期待してる人たちも多いと思うよ。かくゆう私も広報部として、いい記事が書けるんじゃないかって今からわくわくしてるよ。マイス君のことは記事に書いちゃってもいいんだよね?」


「……好きにしろ」


 マイスがつまらなそうに承諾をすると、広報部の女生徒は「よしっ」と言って拳を握った。

 見せもののようにされるのは気に食わないが、広報部の記事も宣伝材料の一つになる。

 気乗りしないとしても、ここで断るのは勿体ない。

 そう、すべては……


(……グラシエール家のために)


 マイスは人知れず決意を抱いて、星華祭への士気を高めた。

 すると、その時……


「んっ?」


 机の上に置かれている、広報部の女生徒が持ってきた記事の一つがマイスの目に映る。

 そこに書かれている生徒の名前を見た瞬間、マイスは僅かに瞳を見開いた。

 その様子を見ていた広報部の女生徒が、その記事を手に取りながら首を傾げる。


「あれっ? マイス君、もしかしてこれ気になるの? 平民一年生の大逆襲劇」


「平民の一年?」


「この前、一年生同士が模擬戦をやったみたいなの。その時に名門シフォナード家のご子息が、五年ぶりに学園に入って来た“平民”の女子生徒に負けちゃったんだって。それも結構一方的だったみたいだよ。その平民一年生の名前が『サチ・マルムラード』っていうの」


「……」


 サチ・マルムラード。

 マイスは静かに目を細める。

 脳裏に銀髪の幼い少女の姿を思い浮かべて、マイスは密かに鼻を鳴らした。

 くだらないことを思い出してしまった。


「この記事、気になるの? もしかしてどっちか知り合いとか?」


「いいや、ただの気のせいだ。なんでもない」


 あいつがここにいるわけがない。

 どうせ同名の別人だろう。

 奴の魔力値はたったの“1”だったのだから。

 ここは、魔術師の才覚を認められたものだけが入学を許された、王立ハーベスト魔術学園。

 だから、あの出来損ないの“妹”が…………"サチ・グラシエール”がいるはずがない。


「結構学園内でも話題になってたんだけど、マイス君は知らなかったのか。まああんまりそういう話題に興味も無さそうだからね。でももしかしたら、星華祭でも要注意人物になるかもしれないよ。よかったら今から情報とか資料とか集めてあげよっか?」


「いや、別にいい。誰が相手だろうと、私はやるべきことをやるだけだからな」


「おぉ、さすがはマイス・グラシエール……!」


 教室の隅から再び黄色い声が聞こえる中、マイスは気にも留めることなく窓の外に目を向けた。

 星華祭まで、残り一ヶ月。

 マイスの脳裏には、ひと月後、多くの歓声を浴びて名前を轟かせている自分の姿が浮かんでいた。




 時を同じくして、一年A組の教室。

 そこにも、星華祭へのやる気をみなぎらせる女子生徒が一人いた。


「私も、星華祭の代表者になりたい!」


 幸運値999の激運の魔術師――サチ・マルムラードである。

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