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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第二章

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第四十話 「不幸は慣れっこ」

 

 開始地点がサチと近いことがわかって、自分は思わず安堵してしまった。

 そしてサチが、協力するのが当たり前のように話す素振りを見て、また甘えたくなってしまった。

 でも、これではダメだと思った。

 試験の突破を目指すなら、もちろんサチと行動を共にした方が堅実だろうけど、それではまたサチの幸運値に助けられてしまう。

 自分一人だけでやらなきゃ、意味がない。

 この先ずっと、同じようにサチに頼り続けてしまっては、自分はきっとどこかで躓いてしまうと思う。

 そう思ったから学園依頼の消化もたった一人で行い、サチの手助けも遠慮したのではないか。


 パンッ!


 開始地点で気持ちを改めていると、遠くから何かが炸裂したような音が聞こえてくる。

 それは試験担当を務めるヒィンベールからの、試験開始の合図だった。

 横に見える生徒たちは各々、自分の開始地点から森の中へと入っていく。

 それに倣うようにミルも森に足を踏み入れて、実技試験に取り掛かった。

 きっと自分一人だけでも試験を突破できると証明してみせる。


「……暗い」


 森の中に入ると、話に聞いていた通り内部は真夜中のように暗かった。

 外は昼下がりの晴れ晴れとした空が広がっているというのに、陽光がすべて木々から生えた葉によって遮られてしまっている。

 日知(ひし)らずの森とはよく言ったものだと、ミルは密かに感心してしまった。

 と、立ち尽くしている場合ではないと、ミルはすぐさま口を開く。


「【闇夜のひと時――燦然たる灯火――正道を照らす導となれ】――【一筋の光明(エスポ・ワール)】」


 右肩の近くに、明るい光を放つ灯火が浮かび上がった。

 おかげでほとんど何も見えなかった森の中が、僅かに明るく照らし出される。

 すると同じタイミングで、右や左の方にも仄かな光が灯るのが見えた。

 近くにいる別の生徒たちも、光源を確保するために魔法を使ったのだろう。

 明瞭になった森の道を改めて見つめて、ミルは意を決したように走り出した。


(今いるところは森の東側。到着地点は反対の西側なので、このまま正面を進んでいれば……)


 懐から方位磁針を取り出しながら、ミルは真っ直ぐに森の道を突き進んでいく。

 今回の試験は日知らずの森の踏破。

 森の東側からスタートして、西側のゴールを目指すというものだ。

 複雑なことは何も考えず、ただひたすらに到着地点を目指して進めばいい。

 制限時間は三時間で、転移魔法を使ったり、やむを得ない事情以外で森から出るのは禁止となっており、その辺りを注意していればさほど難しい試験ではない。

 森の中には危険な魔獣や未知の災害が眠っていると言われたが、それらも培ってきた戦闘経験を生かせば対処が可能だ。

 懸念があるとすれば、やはり自身の、神にでも嫌われているのではないかというくらいの不幸体質くらいだろう。


「私一人でも、きっと試験を突破してみせます……!」


 今まで数え切れないほどサチに助けられてきてしまった。

 その状況を打開するために学園依頼の消化も自分一人だけで行い、なんとか片をつけることはできた。

 しかし結局、研究会に入るときにまたサチに頼ってしまった。

 たった一人で魔道具研に入るのが不安で、知らず知らずのうちにサチの腕を掴んでいた。

 自分はまだ、心のどこかでサチに甘えてしまっている。

 この先ずっと、サチが隣にいてくれるわけでもないので、一人でなんでも乗り越えられるようにならなければいけない。

 そうしないときっと、国家魔術師になんてなれるはずがないから。


「シャアァァァ!!!」


 森を走りながら決意を改めていると、横の茂みから突然、大きな影が飛び出してきた。

 ミルは咄嗟に身を引いて、目の前に佇む影を注視する。

 そいつは、森の暗闇に溶け込むように漆黒の鱗を纏った、巨大な蛇だった。

 大人の男性を有に超える大きさの蛇は、長い尻尾をバネのように巻き取る。

 瞬間、力強く地面を蹴って、凄まじい勢いで飛びかかってきた。


「【冬季の来訪――透き通る氷柱――熱に浮かされた愚者を穿て】――【冷酷な氷槍(シャンデル・グラース)】!」


 ミルは慌てずに後ろに下がりながら、口早に魔法詠唱を終えた。

 刹那、彼女の周囲に巨大な氷柱が十数本生成され、大蛇を迎撃するように飛来する。

 こちらに迫ってきていた勢いも合わさり、大蛇の鱗に深々と氷柱が突き刺さった。


「シャ……アァ……!」


 漆黒の大蛇は地面に倒れて、そのまま動かなくなった。

 絶命したことを確認したミルは、小さく息を吐いて周囲を見渡す。

 この暗闇の中から突然襲いかかって来られたら、さすがに反応が遅れてしまう。

 感知魔法を張っておいた方がよさそうだ、と判断したミルは、即座に詠唱を始めた。


「【忍び寄る影――虫の知らせ――隠されし悪意を炙り出せ】――【風の便り(ぺルフェ・アラート)】」


 体内の魔素を活性化させて、感覚を研ぎ澄ませることができる魔法。

 主に魔獣が宿している独特な魔素の反応を嗅ぎ取ることができるようになる。

 これで暗闇から襲いかかってくる魔獣の気配を、事前に察知することができる。

 今戦った魔獣の感じからして、手も足も出ないほど強い魔獣はいないと思うので、よほどの失敗をしなければ問題なく森を突破できるだろう。

 ただ、そのよほどの失敗を招く要因が、ミルには一つだけあった。

 再び歩き始めようとした矢先……


「きゃあっ!」


 木の根に足を取られて、『ビタンッ!』となんとも不細工な転び方をしてしまう。

 その拍子に手に持っていた方位磁針が弾け飛び、遠方の暗闇の中に消えて行ってしまった。

 急いで飛んで行った方に駆け寄ってみるが、方位磁針はどこにも落ちていない。


「さ……最悪です……」


 頼みの綱である方位磁針を失くしてしまい、ミルはドバドバと冷や汗を流した。

 あれがなければ、目標地点の位置がまったくわからない。

 闇雲に森を進んで辿り着けるとも思えないので、貴重な制限時間をある程度潰しても、あれだけは絶対に回収しなくては。


「相変わらず、ついてないですね……」


 自分が不幸体質であることは、もう重々承知していることだった。

 しかし今回改めて、自分がとんでもない不幸少女だということを理解した。

 いつもはサチが隣にいてくれたから、不幸体質が薄れていたけれど、一人になった途端この様である。

 だが、めげている暇もなかったため、ミルはすぐに方位磁針を探すことにした。

 木の根の裏や茂みの中、手近な木の上にも登って探してみる。

 しかしまったく見つからず、焦る気持ちがぐんぐんと大きくなっていく。

 やがて制限時間の三十分ほどが経過するが、それでもミルは支給された方位磁針を見つけることができなかった。

 このまま時間切れで退学、なんて悪い予感を抱いていると……


「あんたが探してるのはこれよね?」


「えっ……?」


 暗闇の中から唐突に、緑髪の女生徒が出てきた。

 着崩した制服と派手な装飾品が目を引く、ミルとは正反対の印象の人物。

 彼女の手には、自分が三十分近く掛けて探していた方位磁針が。

 ドクッと心臓が高鳴って、思わずそれに飛びついてしまいそうになるが、ミルはすぐに踏みとどまる。

 これ見よがしに方位磁針を掲げる少女は、不敵な笑みを常に浮かべていて、どことなく近寄り難い雰囲気を醸し出している。

 不穏な空気を感じ取って、ミルはじわりと冷や汗を滲ませながら、緊張した面持ちで問いかけた。


「ひ、拾って、くれたんですか?」


 震え声の問いかけに、緑髪の少女はますます笑みを深める。


「近くを通りかかったら、たまたまこれが私の足元まで転がってきたのよ。あんた、ついてなかったわね(・・・・・・・・・)


 ついてなかった。

 それはどんな意味が込められた言葉なのだろうと、ミルは言い知れぬ不安を感じた。

 単純に方位磁針を失くしたからついてなかったのか、それとも……


「ひ、拾ってくださって、ありがとうござ……」


 お礼を言いながら、方位磁針を受け取ろうとした瞬間――




 パリンッ!




 そんな儚げな音が、ミルの耳を虚しく打った。

 見ると、緑髪の少女の手元からは方位磁針が消え、代わりに彼女の足元に金属の欠片がまばらに散っていた。

 言われずともそれが、自分が受け取ろうとしていた方位磁針の残骸であると、すぐにわかった。

 何より、ミルの瞳には確かに、目の前の少女が方位磁針を振り上げて、地面に叩きつける姿がありありと映されていた。

 放心するミルをよそに、緑髪の女生徒は軽やかに長い髪を掻き上げる。

 そして不気味な笑みを深々と頬に刻み込むと、まるで勝ち誇ったような声でこう言った。


「はい、退学けってーい」


「……」


 明らかな敵意と悪意をぶつけられて、ミルは思わず背筋を震わせた。

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