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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第二章

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第三十八話 「魔道具の研究」

 

 研究会に入った翌日から、私とミルは時間があれば研究室を訪れるようになった。

 学園依頼の消化も終わり、お互いに討伐点も充分に稼いだので、それなりに余裕ができた結果である。

 期末試験の勉強もしなければならないけど、それは研究室ですればいいだけの話だし。

 何よりその一年時の試験を乗り越えた先輩がいるわけだから、困ったらすぐにピタージャ先輩に相談することができるのだ。

 おまけに他の誰もいなくて静かだし、ここは最高の勉強空間と言っても差し支えない場所である。

 それに魔道具研究会の研究室にいると、退屈しない。


「ははっ、やっぱり私は天才だ! またとんでもない物を発明してしまったよ!」


「えっと……手に持ってるそのペンがそうですか?」


「その通りだとも! サチ君たちが勉強しているところを見て、ハッと思いついてしまったんだ!」


 研究会に入ってから数日、この白衣姿の先輩のことも段々とわかってきた。

 ピタージャ先輩は、魔道具に対して並々ならない愛情を抱いている。

 そして寝る間も惜しんで研究と製作に没頭してしまい、いつも目元にクマを作っているのだそうだ。

 しかしながらなんとも残念なことに、ピタージャ先輩の思考回路……というかセンスは、悪い方に若干傾いてしまっている。


「暗い場所でも勉強を続けることができる光るペンだ! 火も使わずに点灯が可能となっていて、操作もペン尻のボタン部分を押すだけなので子供でも簡単に扱える代物だぞ!」


「……普通に照明に頼ればいいのでは?」


 とは言うものの、とりあえず私は試してみる。

 ポチッとな。

 すると先輩が発明したペンは、ペンそのものが照明になったかのように明るく光った。


「おぉ、確かにこれは明るくていいですね。訳あって照明を使えない時なんか、とても重宝する気が……」


 と、言いかけたところで、遅まきながら気が付く。

 ペンを持つ手が、まるで焼きごてを押し当てられているかのように、強烈に熱くなっていた。


「あっづっ!!! なんですかこのペン! めちゃくちゃ熱くなってるんですけど!?」


「えっ? いや、そんなはずは…………あっづっ!!! 発光させるために使った魔獣の鱗が、光と同時に熱まで放ってしまっているみたいだ!」


 当然そんなもので勉強ができるはずもなく、私は投げ捨てた光るペンを憐れみの目で見て、勉強に戻った。

 とまあこんな感じで、ピタージャ先輩はいつも失敗作ばかりを生み出してしまう研究者なのだ。

 ごく稀に実用的な魔道具が完成することもあるらしいけど、基本的にはほとんど欠陥品だらけである。


「いい案だと思ったんだが、結局また失敗してしまったか。仕方がない、これも他の失敗作と同じように、自らに対する戒めとして研究室の棚に飾っておくとしよう」


「棚の中に並べられてる埃被りの道具って、全部今までの失敗作ですか」


 どうりで名称不明な不思議道具がたくさん置かれているわけだ。

 初見では本当に何の道具かわからなかったし、そもそも魔道具ということすら気付くことができなかったくらいだ。


「これらはすべて私の発明品、いわば子供みたいなものだよ。この子たちを糧にして、私はいずれ革命的な魔道具を生み出し、天才発明家として歴史に名を刻んでみせる」


「革命的な魔道具って……魔道具にできることは、大抵の魔術師にならできてしまうって言ってませんでしたか?」


「普通の魔道具ならね。だが世の中には魔術師の常識すら打ち破る、説明不可能な魔道具だって少なからずあるんだよ。次にそういう革命的な魔道具を作るのは、きっと自分になるだろうと私は疑っていない」


「……この失敗作の山を積み重ねてる先輩が、ですか」


 思わずこぼれてしまったその台詞に、ピタージャ先輩はガクッと膝から崩れ落ちた。

 申し訳なく思って、『ごめんなさい』と言いながら駆け寄ろうとすると……


「……私は、ピタージャ先輩の魔道具、結構好きですけど」


「んっ?」


 私の隣で静かに教材を読んでいたミルが、ぼそりと声をこぼした。

 途端、彼女は『あっ』と言って口を押さえてしまう。

 思わず出てしまった言葉なのだろう。

 すると落ち込んでいた先輩は、それが励ましの声に聞こえたのか、顔を上げて丸眼鏡の奥の瞳をうるうるとさせた。


「お、おぉ、ミル君にはこれらの良さがわかるのか……! やはり魔道具製作の心意気を同じくする者同士、通じ合うものがあるということだな!」


「い、いえ、別に……」


 素っ気ない様子を見せるミルとは正反対に、ピタージャ先輩は感激のあまり感涙を滲ませている。

 やがて先輩は気を取り直したように笑みを浮かべると……


「ミル君のおかげで、ますますやる気が出てきたよ! また新しい製作に取り掛かるために、さっそく素材の調達に行かなければ!」


 颯爽と研究室を飛び出して行ってしまった。

 その後ろ姿を見届けながら、私は頬杖を突いて苦笑を滲ませる。


「本当に魔道具製作が好きなんだね、ピタージャ先輩。でも先輩は期末試験の勉強大丈夫なのかな……?」


「さあ、どうなんでしょうね」


 まあ、二年生に上がっている時点で、それなりの成績を収めているということなので、変に心配する必要はないのかな。

 というわけで私も自分の試験勉強に戻ることにする。

 ピタージャ先輩がいなくなって、一層の静けさに満たされた研究室で、ミルと二人勉強に勤しむ。

 やがて私は横を向いて、教材に目を落とし続けているミルを見つめながら、思わずまた苦笑いをしてしまった。

 その視線に気付いたように、ミルがチラリとこちらを一瞥する。


「……な、なんでしょうか?」


「うんにゃ、別に何でもないよ。ただ、もう少しピタージャ先輩と親しくしてもいいんじゃないかなって思っただけ」


 と言うと、ミルは弱いところを突かれたと言わんばかりに顔をしかめた。

 やっぱり意図的に素っ気ない態度をとっていたんだ。


「私と話す時と違って、明らかにピタージャ先輩とは距離をとろうとしてるよね。直接顔を合わせて話そうとしてないし、話しかける時は大体私越しに声を掛けるってことが多いし」


「……私と拘ってしまうと、その相手を不幸にしてしまいますから」


 相変わらずそのことを気にしているんだ。

 過去に友達を不幸にしてしまった経験があるから、今でもそのことが気がかりで不安に思うのはわかる。

 それにピタージャ先輩がいい人だからこそ、ミルはますます接しづらくなっているんだろうな。


「じゃあどうしてこの研究会に自分から入るって言ったの? ずっと気になってたことなんだけど、ピタージャ先輩を不幸に巻き込む可能性もあったのに、何か特別な理由があるとか?」


 人との接触を避けてきたミルが、それでも研究会に入った理由がずっと気になっていた。

 誰とも関わり合いたくないというのなら、どこにも所属せずに大人しくしている方が絶対にいいはずなのに。


「ピタージャ先輩にも言った通り、父が魔道具製作家をしていて、私も魔道具製作に興味があったっていうのは本当ですよ。先輩を不幸に巻き込んでしまう可能性も確かにありましたけど、そこはあまり先輩と接しなければ大丈夫かなと……」


「同じ研究会にいるのに接しないのは無理があるでしょ」


 もはやそれは研究会ではなく、同じ部屋で別の研究をしているただの他人だ。

 ただまあ、親しくした相手を不幸にしてしまう以上、そうする以外に選択肢はないもんね。

 そう聞かされた私は、唐突にハッと思い出した。


「もしかして、そのために私を研究会に引き入れたんじゃ……」


「いや、その、サチさんとも一緒に魔道具の研究ができたら、とっても楽しいかなと……」


 なんだそのテキトーな言い訳は。

 先輩と二人きりだと気まずいから、あの時私の腕をガシッと掴んできたんだろ。

 極力先輩を無視する形を取るために、私を壁役として引き入れたというわけだ。

 ジトッと細めた目でミルを見つめていると、彼女は話を逸らすように続けた。


「あ、あとは、たった一人で黙々と魔道具製作に取り掛かる先輩が、生前の父と重なって見えたので、何か研究会を盛り上げるお手伝いでもできたらいいなと思ったんですよ。それとこれが一番の理由なんですけど……」


 ミルは不意に懐に手を入れて、そこから小さな布の包みを取り出す。

 それが広げられると、中にはガラスの欠片のようなものがキラキラと輝いていた。


「これの修繕ができればいいなって、前々から思っていたので」


「それ……」


 あの憎き貴族のおぼっちゃま、カイエン・シフォナードに踏み潰された、ペンダントの欠片だった。

 ペンダントと呼べるような形は保たれておらず、砕かれた破片のみが大切そうに包みにまとめられている。

 あの時、ペンダントを壊されてしまった後、彼女はそれをちゃんと拾い集めていたようだ。


「専門の魔道具店とかに頼めば、直してもらえるとは思いますけど、できればこれは自分の手で元通りにしたいなって思っていて……」


「だから魔道具研究会に入って、魔道具製作の仕方とか学ぼうって思ったわけか」


「はい。そのために、サチさんを利用するみたいに引き入れてしまったのは、本当に申し訳ないんですけど……」


「あぁ、いいよ別にそれくらい。私も魔道具研究会には少し興味があったし、先輩の話聞いて何か手伝いたいって思ったのも同感だから」


 そんな大切な訳があるなら、ちゃんと話してくれたらよかったのに。

 ミルがどれだけそのペンダントを大事にしているかは、私はもう充分知っている。

 それを直すために魔道具研究会に入りたいというのなら、喜んで私も付き合うよ。

 何より、マルベリーさんのとんでもない魔道具を目の前で見てきた身として、魔道具製作に興味があったのは本当だからね。


「でも、本格的に魔道具の研究に打ち込めるのは、期末試験を無事に乗り越えてからになりそうだけどね」


「ですね。もしもそこで退学にでもなってしまったら、研究会に入った意味がなくなってしまいますね」


 というわけで一層、私たちは試験勉強に集中したのだった。

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