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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第二章

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第三十七話 「入会」

 

「い、今、そこの青髪の子、魔道具研究会に入るって……言ったかい?」


 先輩は、私の背中に隠れるように座るミルに、前のめりになって問いかける。

 それに圧を感じたのか、ミルは萎縮した様子で、それでも頷き返した。


「……は、はい。言いました」


「ほ、本当に? 本当に魔道具研に入ってくれるのかい? あんな話聞いた後なのに?」


「……ご、ご迷惑でなければ」


「ど、どうしてまた……?」


「魔道具製作には、元々興味がありましたし。父が魔道具製作家だったので、自分も少しやってみようかと……」


 先輩は驚いたように目を見張り、しばしパチクリと瞼を開閉する。

 そのままノロノロと歩いて私の真横を抜けていくと、突然バッと両腕を広げてミルに飛びついた。


「ありがとう青ずきんちゃん! 本当はたった一人で心細かったんだよぉ!」


「わ、わわ、私が自分で決めたこと、なので! お礼を言われる筋合いはないかと……!」


「あのぉ、先輩、ミルは極度の人見知りなんで、放してくれると助かるんですけど……」


 そう伝えると、先輩は慌てた様子で、顔を真っ赤にするミルから飛び退いた。


「す、すまない! 新入生が入ってくれるとわかって、つい興奮してしまったよ!」


「……い、いえ」


「他の魅力的な研究会に、ほとんどの新入生を取られてしまったから、もう誰もうちには入ってくれないんだろうなって半分諦めていたんだ。でもじっと待っていて本当によかったよ」


 すると先輩は、ハッと今まさに思い出したように言った。


「そういえば自己紹介がまだだったね。私はピタージャ・インサラータ。二年生だよ」


「わ、私は、ミルティーユ・グラッセ、一年生……です」


「なるほど。だからミルと呼ばれているわけか。よろしくミル君」


 差し伸べられた手を、ミルは逡巡しながらもおもむろに掴み取った。

 突然の展開に、私の意識だけが取り残されてしまう。

 あのミルが、自ら研究会に入りたいと申し出た。

 これまで誰かと拘ることを極力避けてきたミルが、この学園で最も他人との交流の機会が多いだろう研究会という場に、自分の足で踏み入って行ったのだ。

 傍から見れば大した場面ではないように見えるかもしれないが、私の目には大きな一歩に映ってしまう。

 密かに感動を覚えていると、ピタージャと名乗った先輩は、次にこちらに視線を振ってきた。


「もしよかったら、君もどうかな?」


「えっ、私?」


「魔道具研究会の悪いところばかり話してしまったから、あまり魅力を感じないかもしれないけど、迷惑じゃなければ研究会を盛り上げる手伝いをしてもらえないかなと思って……」


「うーん、私は……」


 瞬間、ガシッとミルが右腕を掴んできた。

 振り返ってみると、ミルはまるで怯える小動物のような瞳で、懇願の視線を送ってきていた。

 自分で入ると言ったが、思った以上に先輩が前のめりに来たので、屏風になれる人がほしいということじゃないかな。

 何より一人で入るより、知人と一緒の方が確実に安心できるし。

 まあ、他に入りたい研究会もなかったし、別にいいか。


「じゃ、じゃあ、私も入らせてもらいます」


 というわけで私も、その場の流れで魔道具研究会に入っちゃいました。

 ミルの困り顔にはどうも弱い私である。

 まあ、確かに活動実態がいまだに不透明なので、魔道具研に入るのは少し不安に思うのはわかるけど……


「これでようやく、念願の後輩が……! 研究会続けてて、本当によかった……!」


 ピタージャ先輩はいい人そうだから、これでよかったんじゃないかな。

 研究会には複雑な決まりもないみたいだし、学園生活にも支障は出ないと思う。

 半月後には大切な期末試験もあるので、他の研究会に入って余計な時間を取られる方が悪手になるだろう。

 と、そこで私は、『そういえば』とあることを思い出す。


「あの、ピタージャ先輩」


「んっ? 何かね後輩君? さっそく先輩の私に何か質問かな?」


「……え、えっと」


 嬉しそうにしているピタージャ先輩に、気になっていたことを尋ねてみた。


「ピタージャ先輩が一年生だった時、一学期の期末試験ってどんなことをしたんですか?」


「期末試験?」


「筆記の方はまあ、大体想像はできるんですけど、実技試験ではどんなことしたのかなぁって」


 半月後に迫った、魔術学園の第一の篩の場となる期末試験。

 その対策をするために、二、三年生の先輩から話を聞けたらと思っていたので、この機会にピタージャ先輩に聞いてみた。

 過去の試験内容を知ることができれば、いくらか対策ができるかもしれないからね。


「そういえば何をやったかな。その頃から研究会を盛り上げることしか考えていなかったから、あまり意識とかはしていなかったな」


「でも、試験を突破できたから二年生に進級することができたんですよね。そんなに難しくなかったんですか?」


「いや、簡単ってことはなかったかな。筆記も実技もみんな大変そうにしていたし、退学者もそれなりに出ていたからね」


 やっぱりいたんだ退学者。

 そりゃそうだよね。毎日楽しく学園生活を送ってはいるけど、あくまでここは世界最高峰の魔術師養成機関だし。

 試験で悪い成績を出したら、魔術師としての適正なしと判断されて厳格に退学処分を下すだろう。

 そんな期末試験が、もう半月後に迫ってきたのだ。

 改めてそのことに不安を覚えていると、ピタージャ先輩がハッと目を見開いた。


「あぁ、思い出した思い出した! 私が初めて受けた期末試験の実技は、先生との追いかけっこだったよ」


「お、追いかけっこ?」


「先生を逃亡者に見立てた追跡試験でね、国家魔術師になれば犯罪者を追って捕まえることもあるから、それを見越した試験だって言っていたかな」


 国家魔術師の仕事は多岐に渡る。

 世間に知れ渡っている主な仕事は、魔獣の討伐、魔法の研究、未開拓領域の調査、そして犯罪者の捕縛である。

 その役目が務まるかどうかを確認するためにも、試験内容に“逃亡者の追跡”を選んだのは納得できる。

 世の犯罪者の中には、国家魔術師級の魔法の使い手がいるとも聞くので、対魔術師の戦闘に慣れておくのはとても重要なことだ。

 それじゃあ私たちの期末試験もそんな感じになるのかな?


「あぁ、でも、二学期の期末試験では普通に魔獣討伐の試験だったし、前の年の試験ではまったく違うことをやったらしいから、前年の試験内容はあまり参考にならないんじゃないかな」


「あぁ、やっぱりそうですよね」


 さすがに同じ試験を実施する愚行はしないか。

 となると対策は難しそうなので、ぶっつけ本番で当たる他なさそうである。

 とまあ、聞きたいことも聞けたし、外の日も落ちかけてきたので、そろそろお暇させてもらうとする。

 その後、少しだけ研究会の説明を受けて、私とミルは研究室を後にしたのだった。

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