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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第二章

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第三十三話 「噂」

 

 場所が変わり、再び校舎の中。

 ポワールさんを探すためにマロンさんと外を歩いていたんだけど、なんだか見つかる気配がまるでしなかったのだ。

 そして私の勘が校舎内にいると訴えかけてきたので、あまり人の残っていない校舎に戻ってきた次第である。

 マロンさんと二人で廊下を歩く最中、私は彼女の先刻の言葉が気になって問いかける。


「それで、さっき言ってたミルの噂ってどういうこと?」


 マロンさんは少し複雑そうな面持ちで、少し声を落として話し始めた。


「近頃、一部の生徒の方々が、学園依頼に失敗してしまうというお話しを聞いたことはございませんか?」


「依頼の失敗? あぁ、なんか受付さんとかが言ってたかも。そのせいで滞留してる依頼が多くなってきて、その消化のためにミルが手伝いしてるって話だったような……」


「やはり、そうだったのですね」


 マロンさんはますます表情を曇らせる。

 ミルが依頼の消化をしているのがそんなに都合の悪いことなのだろうか?

 確か学園長さんから直々に頼まれて、依頼の消化を手伝っているって話だったような。


「え、えっと、それがなんかまずかったりするの?」


「い、いえ、ミル様には何も非はありません。ただ少し、ある生徒の方々からは反感を買ってしまっているみたいで……」


「反感?」


 マロンさんは改めて確認をとるように、こちらに問いかけてくる。


「現在ミル様が受注している依頼は、すべて他の生徒の方が失敗してしまったものですよね」


「う、うん。そう聞いてるけど……」


「話によりますと、依頼を達成できなかった方たちの多くが、もう一度同じ依頼に再挑戦しようとしているみたいで、受付所を訪れるということがあるらしいのです」


 まあ、それは大いに納得できた。

 討伐依頼の再挑戦。私ももし一度失敗したとしたら、また挑戦したくて受付所を訪れるかもしれないし。

 だって単純に悔しいだろうし、魔術師として名前に傷が付くわけだから。

 その汚名を返上しようと再挑戦を試みているというわけだ。

 しかし一度失敗してしまっているので、受付さんからその依頼を託してもらえることはまずない。

 それでもダメ元で依頼受付所を訪れる人が多いということなのだろう。


「ですけど、それはすでに別の生徒……ミル様によって達成されていて、それを知った方々はどう思いますでしょうか」


「えっ……」


 少し考えて、その人の立場になってみてようやくわかる。


「なるほどね。ミルに後始末をしてもらった……ていうか尻拭いでもされた気分になったわけか」


「……よく思わなかった生徒の方々が、大半だと聞いております」


 依頼に失敗しました。

 悔しいからもう一度受けに行きました。

 でもその依頼はもうミルが解決しちゃいました。

 その事実を受ければ、悔しさの熱はますます跳ね上がることだろう。


「ましてや自分の尻拭いをしてくれたミルが、家章も持たないただの平民で、事実上の一年生のトップである特待生だもんね。そりゃ好意的な視線が集まるはずもないか」


「それで気分を悪くした方々が、ミル様の良くないお噂を流すようになったと聞いております」


「良くない噂って、具体的にどんな?」


 マロンさんはとても言いづらそうな様子で、それでも頑張って教えてくれた。


「『平民の娘が貴族の自分から依頼を横取りした』とか『特待生の称号を利用して依頼を根こそぎ奪っていった』とか……」


「……ははっ、サイテー」


 思わず乾いた笑いが漏れてしまう。

 代わりに依頼を達成されて悔しいからって、そんな陰湿な方法をとってまでミルを貶めるなんて理解できない。

 特待生の称号をもらった時から、敵対的な視線を集めてはいたけれど、よもやここまでの嫉妬心を生徒たちが宿しているとは思ってもみなかった。


「今はまだほんの一部の生徒間にしか伝わっていないお話で、ミル様を直接攻撃するような動きは見えておりませんけど、お噂の広がり方を見るに、いつ事が大きくなってもおかしくはないかと……」


「うーん、あからさまな意地悪に発展しそうなら、レザン先生に相談するのが一番いいかな」


 そうはならないでほしいと祈るばかりである。

 でもあの子の不幸体質なら、そんな展開を招いてしまったとしても不思議ではない。


「教えてくれてありがとね、マロンさん。あと嫌なこと話させちゃってごめん」


「いいえ、ご参考になったのならよかったです。私も身近な方々にお噂が流れてきましたら、すべて出任せだと伝えておきますね」


「うん、よろしくね」


 マロンさんがいい人で本当によかった。

 そんな彼女に恩返し、というわけでもないが、助けになるようにポワールさん探しに一層のやる気をみなぎらせる。

 私は周囲の気配を感じ取るように、くんくんと鼻を揺らしながら、廊下の先を進んでいった。


「なーんかこっちにいる気がするなぁ……」


「えっ、そっちですか?」


 廊下の最奥にある、上階に続く階段を登っていく。

 二階、三階、四階と上がっていき、息を切らしながらついてくるマロンさんに足を合わせながら、さらに上へと向かって行った。


「サ、サチ様、この先は……」


 本来であれば四階で終わりのはずの階段には、少しだけ先があり、そこには一つの扉があるだけだった。

 鍵の掛かっていないそこを開けてみると、新鮮な風が私たちの横を通り抜けていき、屋上の景色が目に飛び込んできた。

 僅かに日が落ちて、橙色に染まりつつある空の下に出ると、すぐに「すぅ……すぅ……」という控えめな息遣いが聞こえてくる。

 くるりと後ろを振り向くと、入ってきたばかりの扉の真横に、壁に背を預ける形で眠っている女生徒を見つけた。


「あっ、やっぱここにいた」


「ほ、本当にこんな場所に……。よくわかりましたね」


 まあ、完全に勘で見つけただけだけど。

 でも私の勘は、やっぱりバカにできない。

 これからも“探し物”は特技の一つとして自慢させてもらうとしよう。

 マロンさんが名前を呼びかけながらポワールさんに歩み寄ると、眠っていた彼女はゆっくりと目を開けた。

 そして寝ぼけ眼を擦りながら、目の前に迫ったマロンさんをぼぉーっと見上げる。


「んっ、マロン……? どう、したの?」


「どうしたのって、ポワールさんを探していたのですよ。一緒に帰るって約束していたじゃないですか」


「そう……だっけ?」


 聞いているこちらの方が眠たくなるような声を漏らしながら、ポワールさんは首を傾げる。

 次いで彼女は少しだけ眠気が飛んできたのか、改めて周囲を見回して、ますます頭上に疑問符を浮かべる。


「あれ? ここ……どこ?」


「どこって、ご自分でここに来たのではないのですか?」


「よく、覚えてない。教室で寝てたのは、覚えてるけど」


 その口ぶりからするに、寝ぼけて無意識のうちにここに来てしまったみたいだ。

 マロンさんいわく、今までも寝ぼけて別のクラスに行ってしまったりもしていたみたいなので、それと同じ感覚で屋上まで来てしまったんじゃないかな。

 やっぱりなんか不思議な子だなぁ、なんて思いながらマロンさんの後ろからポワールさんを見ていると、不意に彼女と目が合った。


「んっ、あなたは、えっと……」


「あぁ、そのぉ、同じクラスのサチだよ。マロンさんと一緒にポワールさんのこと探してたんだ」


「……」


 ポワールさんは不意に頭を下げて、思わぬ台詞を返してくる。


「ごめんなさい。うちのマロンが、迷惑かけて……」


「う、うん? どっちかって言うと、迷惑かけてんのポワールさんじゃない?」


 するとマロンさんが、ポワールさんのほっぺをぷにっと摘み、それをびよーんと伸ばしながら少し尖りのある声を掛けた。


「その通りですよ。勝手に教室からいなくなって、とっても心配したのですからね」


「ご、ごへんなはい……」


 なんかこうして見ていると、本当に面倒見のいいお母さんと手の掛かる娘にしか見えないなぁ。

 穏やかな景色すぎて、いつまでもこれは見ていられそうである。

 ともあれ無事に見つかってよかった。


「この度はどうも、ご迷惑をおかけしました。サチ様のおかげでポワールさんを見つけることができました」


「ううん、いいよ別にこれくらい。こっちもミルの話聞かせてもらったし」


 役に立てたならよかった。

 こっちも役立つ話、というか貴重な話を聞かせてもらったからね。


「それではサチ様。私たちはこれで……。あっ、もしよろしければ、この後ご一緒に寮まで帰りませんか?」


「あぁ、うん、そう……だね。迷惑じゃなければ、一緒させてもらおうかな」


 というわけで私は、マロンさんとポワールさんの二人と一緒に、女子寮まで帰ることにした。

 帰り道、二人が実は幼馴染だという話を聞いたり、逆に私とミルの出会いを話したり……

 入学以来、初めて複数人での下校を経験した後、寮部屋に辿り着いた私は、いつも以上に部屋の静けさに寂しさを覚えた。


「…………早く帰ってこいよぉ」


 ルームメイトの帰宅を待ち望むように、私はベッドで横になりながら、部屋の扉をじっと見つめ続けた。

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