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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第二章

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第三十二話 「暇です」

 

 ミルが依頼消化の手伝いを始めてから二週間が経った。

 その間、私も一人で学園依頼を受けて、期末試験までの討伐点を稼いだりした。

 そんな点数稼ぎも昨日終わらせてしまったので、今日から放課後は暇人です。


「なーんもやることなーい」


 授業が終わってからしばらく教室の机でぼぉーっとしていたけれど、隙を潰す方法が何も思いつかない。

 ミルはやっぱり今日も依頼消化の手伝いに行ってしまったし、私には手伝いの声を掛けてくれなかったし。

 暇だから勝手について行っちゃえばよかったかな?

 でも、ミルはなんだか私に手を貸されることを嫌がっているように見えたので、それはさすがにやめておいた方がよさそうだ。


「……暇だ」


 友達とかが多ければ、放課後にどこか遊びに行ったりできるんだろうけど、いかんせんそんな友人は一人もいない。

 今まさに仲睦まじい様子で教室を出て行った二人の女生徒は、これから街の商業区にでも行って買い物でもしてくるんじゃないだろうか。

 と考えると、こうして机で項垂れているだけの私は、時間の使い方が下手くそな人間だと痛感させられてしまう。

 こうしていても仕方がないと思った私は、一人残った教室から重い足取りで立ち去り、当てもなく校舎を徘徊し始めた。

 普段往来している東棟だけでなく、特別棟である西棟にも足を運んで暇を潰す。

 しかし特に面白いこともなかったので、私はいよいよ校舎の近くにある図書館にまで来てしまった。

 ここならまあ、少しは時間を潰せるものがあるんじゃないかと思ったのだ。

 図書館は大きな円柱状の建物で、五階建てになっている。

 中央部分は吹き抜けになっていて、上階の様子も筒抜けになっており、すでにたくさんの生徒で席が埋まっていた。

 見ると生徒たちは静かに本を読んだり、ペンを走らせて勉強に勤しんでいる。

 その中で用もなく、ただ佇んでいるだけの私。

 妙な罪悪感というか劣等感に苛まれて、思わず目を両手で覆ってしまった。

 なんで私、こんなところ来たんだろう?

 何か面白い本でもあれば読もうと思っていたんだけど、そんな気分でもなくなってきてしまった。

 居た堪れなく私は、来て早々に踵を返して図書館を立ち去ろうとした。

 その時……


「あらっ、サチ様?」


「えっ?」


 突然呼び止められて、私は足を止める。

 そして振り返ってみると、そこには茶色のふんわり髪を揺らす見知った女子学生がいた。

 身体測定の魔力値測定では好成績を叩き出し、おそらく一学年において最高の胸囲を誇るマロンさんが。


「奇遇ですね。この時間に図書館でお会いするなんて」


「私もびっくりしちゃったよ。マロンさんってよくここに来るの?」


 真面目な印象を受けるので、図書館の常連であっても不思議ではない。

 という予想の通り、マロンさんはニコッと微笑んで頷いた。


「授業を受けて学習が不十分だと思った日など、よくここで勉強させていただいております」


「へ、へぇ。勉強熱心なんだね……」


 授業を受けて学びが足りないと思ったら、みんな図書館に来て勉強とかするんだ。

 私なら、その日は眠かったからしょうがない、くらいの気持ちでやり過ごしてしまうというのに。


「実技の方があまり得意ではないので、なんとか他の生徒の方々に置いて行かれないように、勉強だけはしっかりやっておきたいと思っておりまして……」


「えっ、マロンさんって魔法の実技苦手なの? 確か魔力値すごく高くなかったっけ?」


 たぶん、脅威の魔力値350を誇るミルに次いで、二番目に高かった気がする。

 あれだけの魔力値があって実技が不得手とはどういうことなのだろう?


「魔力値だけなら胸を張れる数値だとは思いますけど、反対に運動神経が壊滅的で、ここから女子寮に帰るだけでも息を切らしてしまうくらいです」


「へぇ、なんか意外だね」


 勉学と魔法とスタイルについては優秀なマロンさんでも、さすがに欠点の一つくらいは持っているのか。

 運動が苦手、ね。

 何が運動の妨げになっているかは、言うまでもなさそうだけど。


「なるほどね。だから実技で差が出ちゃう分を勉強で補おうってわけか。確かにこの図書館なら調べ物もできるし、静かに勉強もできるもんね」


「そうなのですけど、今日はまた別の理由でこの図書館に来たのですよ」


「別の理由?」


 首を傾げると、マロンさんは逆にこちらに質問をしてきた。


「サチさん、どこかでポワールさんをお見かけしませんでしたか?」


「ポワールさん? って、あの黄色帽子の友達だよね」


 マロンさんと同じでかなり高い魔力値を叩き出した女の子。

 黄色いナイトキャップみたいなとんがり帽子を被っていて、いつも授業中に居眠りをして注意されている金髪少女だ。

 私は脳内で勝手に寝不足少女と呼んでいるクラスメイトだけど、実際に話したことは一度もない。


「私と同じ寮部屋で暮らしているルームメイトなのですけど、一緒に女子寮まで帰る約束をしていて、今日もそのはずだったのです。ですが放課後、私は職員室に用事があったので、ポワールさんには教室で待っていただくことになって、用事を済ませて教室に行ったら……」


「ポワールさんがいなかった、とか?」


「は、はい」


 マロンさんは心配そうな面持ちでおもむろに頷く。

 教室に最後まで残っていたのは私だったけど、確かポワールさんは早い段階でいなかったような気がする。

 途中までは自分の机で寝ていたのを見かけたような気がするけど、あんまりよく覚えていないなぁ。


「何か用事ができて先に寮部屋に帰っちゃったとか? 置き手紙とかも用意する時間がなくて、マロンさんには何も伝えられなかったとかさ」


「あの、その、こういうことを言うのは友人としてどうかとは思うのですけど、ポワールさんは基本的に“一人では何もできない方”でして……」


「んっ? 何もできない?」


「朝は誰かに起こしてもらわないと永遠に眠っていますし、着替えも他の人が用意しないと寝巻きのまま登校しようとしますし、そもそも道案内がなければ満足に学園に辿り着くこともままならなくて……」


「えぇ……」


 絵に描いたようなダメ人間じゃん。

 まさかポワールさんが生活能力皆無の人間だとは思っても……

 いや、案外簡単に想像ができてしまう。

 同じ寮部屋でマロンさんが色々とポワールさんの面倒を見ている光景が。


「それで無事に登校できたとしても、授業の教材はいつも私が準備していますし、移動教室は私が手を引っ張っていかないとずっと机で眠っていますし、そ、その……花摘みの際には、私が連れて行ってあげないと場所すらわからずに……」


「も、もういいよ。充分わかったから」


 まるで幼児の面倒を見る母親のように、甲斐甲斐しく世話を焼いているということだ。

 そうしないと、ポワールさんはまともに生活ができないから。

 それくらいの壊滅的な生活能力だとすると……


「つまり、一人で寮部屋に帰った可能性はないってことだね。なら他の友達と一緒に帰ったんじゃないの?」


「ポ、ポワールさん、私以外に親しい方はいなくて……」


「おぉ……」


 ますます教室から姿を消した理由が謎めいてくる。

 一人でも帰れない、友達もいない、それなのに教室からはいなくなっている。

 まるで誘拐でもされたような消え方だ。


「そもそも部屋の鍵を持っているのは私だけなので、今部屋に戻っても入ることができないのですよ」


「それじゃあまだこの学園のどこかにいる可能性が高いってことか」


「はい、おそらくは。前にも一度寝ぼけて一人でふらっと別のクラスに行ってしまったり、他学年の階に行って迷子になることがありましたから」


 だから私にポワールさんを見ていないか尋ねてきたわけか。

 で、マロンさんは今、ポワールさんを探して学園内を彷徨っていて、この図書館に辿り着いたと。

 そういう事情があるなら、ここは私の出番ではないだろうか。


「私も一緒に探してあげるよ」


「えっ? よ、よろしいのですか?」


「うん、今日はもう特に予定もないし、私って探し物とか得意だからさ。私と一緒にポワールさんを探せば、意外と早く見つかるかもしれないよ」


「で、でしたら、是非よろしくお願いいたし……」


 と、言いかけたマロンさんは、不意に言葉を途切れさせる。

 次いで私の周りに視線を泳がせると、彼女はきょとんと首を傾げた。


「本日は、ミル様とご一緒ではないのですか?」


「えっ、ミル?」


「いつもお二人で一緒にいるところをお見かけしますので……」


「あぁ、あの子だったら先生に頼まれて、一人で学園依頼を受けに行ってるよ。私も手伝うって言ったんだけど、なんか一人でやりたいんだってさ」


「頼まれて、学園依頼……。そうですか、でしたらあの“お噂”はやはり……」


「噂?」


 何やら引っかかる言葉がマロンさんの口から出てくる。

 噂。誰かがミルのことを噂でもしているのだろうか?

 でもどういう噂を? と疑問に思っていると、マロンさんが僅かに声を落として続けた。


「歩きながらお話しいたします。最近生徒の一部で流れている、ミル様のお噂について」


「あっ……う、うん」


 何のことだがさっぱりだったけど、私たちはポワールさんを探すために図書館を後にした。

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