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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第一章

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第十八話 「交友」

 

 ミルと二人で小鴉(シュカ)の討伐依頼を終わらせた後。

 再び身体強化魔法を使って移動し、なんとか日が暮れる前に学園に戻って来ることができた。

 依頼受付所で討伐証明となる小鴉(シュカ)の角を提示して、依頼の報告を終わらせる。

 そして学生寮に帰宅すると、ちょうど夕食の時間になったので、急いで手洗いを済ませて夕食の席についた。

 その後、自室で体を休めながら、ルームメイトのミルにため息混じりの声を掛ける。


「討伐点は今日のでたった1点かぁ。先が長すぎて気が遠くなるね」


「ですね」


 今回の『小鴉(シュカ)の討伐依頼』は受付さんのお情けでもらったようなもので、討伐点はたったの『1』だ。

 期末までに『100』もの点数を稼がなければいけないのに、この調子では到底目標を達成できないだろう。

 しかも二人で受けたものなのでどちらか一方にしか加点されないし。

 ちなみに今回の討伐点をどちらのものにするか、それなりにミルと言い争いになった。

 と言っても傍から見ていたら穏やかなもので、二人してお互いに点数を譲ろうとして口論になったのだ。

 そこで仕方なく公平にコイントスで決めることにした。

 勝った方が討伐点を自由にできるというルールで。

 結果、勝ったのは私だった。


『いえーい! また私の勝ち! じゃあ今回の討伐点はミルのものってことで、おめでとうミル』


『なんだか素直に喜べません』


 というわけで討伐点は強制的にミルのものにした。

 私、コイントスとかトランプで負けたこと一回もないんだよね。

 まあ相手は全部マルベリーさんだったんだけど。

 これもおそらく幸運値999の効果だと思われる。

 この手は今後も使えるだろうから、何かあった時はこうして揉め事を解決することにしよう。

 すぐバレちゃいそうだけど。


「討伐点をたくさんもらえる依頼を受けることができれば、それで悩みは全部解決するんですけど」


「そうなんだよねぇ」


 問題はそこだけなのだ。

 他の貴族の生徒たちと違って、平民の私たちでは好条件の依頼を紹介してもらえない。

 根っこのその問題さえ取り除くことができれば、こんなに悩むこともないんだけど。


「平民の私たちでも実力を示せる方法って何かないかな? 『私たちは本当は強いんだぞ!』って」


「しばらくは難しいのではないですか? 期末試験までこれといった行事もないみたいですし、実技的な授業もなさそうですから」


「うーん……」


 確かに実力を見せる機会はなさそうだ。

 直近であるとすればやっぱり学年ごとに合同で行われる期末試験だけど。

 その期末試験を受けるために討伐点が必要なんだよね。


「いっそのこと魔術学園に超巨大魔獣が攻め込んで来てくれたりしないかなぁ。それを私が倒せば一躍大英雄になれるのに」


「物騒なこと言わないでくださいよ」


 でもそれくらいしないと平民の私たちじゃまったく依頼を受けさせてもらえないじゃん。

 それに今日の討伐依頼を受けてわかったけど、たぶん私は小型の魔獣をちまちま狩るのに向いていないと思う。

 得意魔法の即死魔法は、単体の魔獣になら絶大な威力を発揮するけれど、複数体いる場合はその限りではない。

 複数の相手に即死魔法を掛けることができる【地獄への大扉(ヘルズ・ゲート)】もあるにはあるが、まだあまり上手に使いこなせないし。

 むしろそういうのは単純に魔力値の高いミルが、広範囲の攻撃魔法を使った方が効率は上だろう。

 最後の方なんて私、即死魔法を使わずに身体強化魔法で純粋に鳥を殴っていたくらいだからね。

 だから私としては単体で脅威となる超巨大魔獣とかを相手にしたいところなんだけど、結局平民の私たちじゃそんな討伐依頼を受けさせてもらえるはずがない。

 くそぉ、私なら一撃でどんな魔獣も殺せるのに。


「こうなったら、この学園で一番強そうな“学園長”とかに戦いを仕掛けてみよっかな……」


「サチさんってたまにとんでもないことを口走りますよね」


 いや、冗談だよ冗談。

 さすがの私でもそんな無謀なことはしないって。

 でも、もし学園内で強い人との戦いに勝って、実力を示すことができたら、平民の私たちでも難しい依頼を紹介してもらえるようになるよね。

 割と悪くない作戦だよなぁ、なんて思いながら、私はふとあることを思い出した。


「そういえば、学園内で模擬戦みたいなのやってる生徒とかいたよね」


「あぁ、いましたね。制服の差し色からして二年生だったかと」


 王立ハーベスト魔術学園の制服は、学年ごとに僅かにデザインが違う。

 男子がジャケットとロングコート、女子がブラウスとスカートとミニマントで、黒を基調としているという点は同じだが、制服の節々に学年ごとの差し色が入っているのだ。

 一年生は青。二年生は緑。三年生は赤。

 この差し色は入学から三年間固定されるもので、新入生は前の三年生が使っていた差し色を与えられるらしい。

 そうやって三色を一周させているとのことで、差し色を見ればその生徒が何年生なのかわかるようになっているのだ。

 ちなみにこの学園の服装規定についてなんだけど、かなり自由が利くようになっている。

 最低限制服としての形を保ち、学園の生徒として認識できればどれだけ着崩したり改良したりしても許されるようになっているのだ。

 そもそも制服発注の段階で色々と注文を出すこともできて、コートの丈をいじったりミニマントをロングマントに変えている生徒もいる。

 ミルもあの『青ずきんちゃん』というスタイルにこだわりでもあるのか、ミニマントをフード付きにして真っ青にしているし。

 まあ学園の生徒は魔獣との戦いが日常茶飯事になるので、いちいち整った服装なんて維持していられないだろう。

 模擬戦をやっていた二年生の二人も、制服のまま魔法を撃ち合っていたのでひどい格好になっていたから。


「あの模擬戦って何か意味があったりするのかな?」


「元は貴族と平民の隔絶を無くすために、軽い手合いを始めたのが起源だって言っていましたよ。誰でも平等に魔法を学ぶ環境を整えたくて、大昔に学園側が推奨した伝統だとか」


 へぇ、そんな起源があったんだ。

 確かに身分の差がない平等な環境を作るなら、遠慮を無くすという意味でも模擬戦はぴったりのように思う。

 実に魔術学園らしい発想だ。


「今ではそれが力試しの試合だったり、揉め事を解決するための決闘として行われているみたいです。って、入学式で説明されたじゃないですか」


「いやぁ、入学式で座った椅子は、とても寝心地がよかったでありますからぁ」


 戯けたようにそう言うと、ミルは膨れっ面でこちらを見てきた。

 入学式は本当に穏やかに寝させてもらいました。

 ミルはすごく真面目だから、『ダメじゃないですか』と言いたげな顔をしている。

 入学式もきちんと起きて話を聞いていたらしい。

 ともあれ、学生同士が模擬線をやっていた理由はわかったので、話を戻すことにした。


「まあ、ぐだぐだ言っててもしょうがないよね。好機はいつか訪れるだろうし、焦らずじっくりと気長に待ってみよっか」


「……ここまでずっと一緒にいて思ったんですけど、サチさんはなんだかとても“楽観的”というか、自分が幸せになることを疑っていない人ですよね」


「うん。だって私、幸運値999の超絶幸運娘だからね! 幸運値0の超不幸少女のミルとは大違いなんだから!」


「余計なお世話ですよ!」


 “ま、なんとかなるでしょ”。

 それが私の座右の銘なのだ。




 翌日。

 その好機は、意外にも早く訪れた。


「もしよろしければ、私たちとご一緒に討伐依頼を受けてみませんか?」


「んっ?」


 午前の授業が終わり、お昼休憩が始まると同時に……

 一人の女生徒が、私の席までやって来て声を掛けてきた。

 ふんわりとした茶色の三つ編みと、おっとりとした童顔が特徴の女の子。

 ふわふわとした印象の通り、話し方ものんびりゆったりとしている。

 上品な言葉遣いからも、いいところのお嬢様の雰囲気が出ていた。


「えっと、あなたは同じクラスの……」


 一番おっぱいが大きい子……じゃなくて。

 名前……名前……あれ、名前なんだっけな?

 と思い出すのに苦労していると、それを悟ったように茶髪少女はニコリと笑った。


「私の名前は、マロン・メランジェと申します」


「あぁ、そうだマロンさんだ。ごめんね、私って人の名前覚えるのすごく苦手で……」


「私の席は廊下側の一番前で、サチ様からは一番遠いですからね。顔を合わせる機会も少ないので仕方ないですよ」


 ふふっと微笑みながらなんとも微妙なフォローをしてくれる。

 しかしその言葉の節々から聖母のような優しさが滲み出ていて、この人の気立ての良さが話しているだけでも伝わって来た。

 そういえばクラス内でも色々と噂になっていたっけ。

 失くした学生証を一緒に探してくれたとか、時間がない時に掃除を手伝ってくれたとか、ぶつかってジュースを掛けちゃっても嫌な顔一つせずに許してくれたとか。

 まだ入学からあまり時間が経っていないというのに、すでに多くのクラスメイトの口から美談を聞いている。

 だからもうそれなりに友達も多いみたいだ。

 逆にまったく友達のいない、むしろ周囲から避けられ気味の私に声を掛けてきたので、クラスのみんなが不思議そうな視線でこちらを見ている。

 なんだか居心地が悪い。ていうかなんで話しかけて来てくれたんだろう?

 優しそうに微笑んでいるマロンさんを無下にすることもできずに、私は覚悟を決めて彼女に尋ねた。


「それで、一緒に討伐依頼を受けるってどういうこと?」


「昨日ですね、実は依頼受付所でサチ様たちのすぐ後ろに並んでおりまして、お話しを全部聞いてしまったのです。家章がないせいで、討伐依頼をほとんど紹介してもらえなかったですよね」


「あっ、あの時マロンさんいたんだ」


 全然気が付かなかった。

 ていうかあの場面を見られていたと思うと、なんか恥ずかしい。

 だってあの時、たった二つしか依頼を紹介してもらえていなかったし、随分とかっこ悪い姿を見せてしまったんじゃないかな。


「盗み聞きするつもりはなかったのですけど、たまたま聞こえてしまい……。それで私でも何かお役に立てないかと思いまして、一緒に討伐試験を受けることを思いついたのです」


「一緒に? あっ、そっか……」


 確かあの時受付さんは、『他の貴族の人と一緒に依頼を受けるなら多くの依頼を紹介することはできる』と言っていた。

 家章持ちの名家生まれの生徒が一緒なら、その分依頼達成の確率は上がるからだろう。

 それを聞いていたマロンさんは、私たちに気を遣って声を掛けて来てくれたのだ。


「私の家はメランジェ家と言いまして、少しはこの学園でも融通が効きます。昨日もそれなりに依頼を紹介してもらえたので、よろしければご一緒に依頼を受けてみませんか? ついでにお昼ご飯も同席させていただけたら、とても嬉しいなと……」


「あっ、是非是非お願いします」


 願ってもない話だった。

 見るとマロンさんの席には、他にもう一人の女子生徒がいて、こちらに向かってゆったりと手を振っていた。

 マロンさんと同じくぽわぽわした感じの女の子……というかウトウトしている少女。

 ナイトキャップのような黄色のとんがり帽子を被っていて、その隙間から艶やかな金色の長髪が覗いている。

 終始眠たそうに目をとろんとさせていて、確か授業中もうたた寝を繰り返して先生に注意されていたっけ?

 私は勝手に脳内で『寝不足少女』と呼んでいた彼女は、どうやらマロンさんの友達らしい。

 彼女も含めて依頼を受けようと誘って来てくれたのだ。

 しかもお昼まで一緒!

 王立ハーベスト魔術学園の生徒たちは、基本的に園内の食堂にて昼食を取っている。

 私とミルも同様で、いつも二人して食堂の端っこの席で細々とご飯を食べているのだ。

 本当はクラスの人たちともっと仲良くなりたいから、どうにかしてどこかのグループに混ざれないかと考えているんだけどね。

 それが如何せん上手くいかない。しかもどうもミルが乗り気ではないのだ。

 一緒にクラスの人たちに話し掛けに行こうと誘っても、決まってミルは……


『……サチさんお一人でどうぞ』


 なんだか拗ねたようにそう言ってくるのだ。

 人見知りな性格というのは知っているけれど、何やら露骨にクラスの人たちを避けている様子。

 だからと言ってそれで私だけで話し掛けに行くのは壁が高いから、結局今日まで二人ぼっちで昼食を取るしかなかった。

 でも今日、クラス内で人気のあるマロンさんにお昼に誘ってもらえた。

 私は内心で激しく高揚しながら、隣の席のミルに声を掛けた。


「ねえミル。ミルも一緒に討伐依頼受けようよ。マロンさんたちが手伝ってくれるなら、かなり討伐点の高い依頼も紹介してもらえるだろうし、期末試験までに目標点まで稼げると思うよ。何よりお昼も一緒に……」


「……」


 と、興奮して饒舌になっている私とは正反対に……

 ミルは何を思っているのか、完全に口を閉ざして俯いていた。

 一向に返答がない。

 具合でも悪いのだろうかと思って、ミルの顔を覗き込もうとするけれど……


「……ミル?」


「……私は、遠慮しておきます」


 ミルはそのまま目を合わせることもなく、席を立って教室を出て行ってしまった。

 私とマロンさんはその背中を呆然と見届けることしかできなく、思わず二人して怪訝な顔を見合わせてしまった。

 ……なんで?

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