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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第一章

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第十六話 「身体強化魔法」

 

 とりあえずミルと一緒に、受けた討伐依頼を片付けることにした。

 私たちは学園を出て、校門前にて改めて依頼内容を確認する。


「『煙岩山(えんがんざん)での小鴉(シュカ)の討伐』、だって。小鴉(シュカ)ってどんな魔獣か知ってる?」


「黒い鳥の魔獣です。角が生えているのが特徴で、凶暴性はそこまでないんですけど、とても俊敏で人間の持っている持ち物を奪い去っていく習性があります」


「ほほぉ……」


 それは確かに討伐しないとダメだね。

 ただ、凶暴性がそこまでないらしいので、あまり難しい依頼にはならないと思われる。

 そういえば依頼書には、報酬金額は『500ルーツ』で、難易度は『F』って書いてあったっけ?

 Fってたぶん最低難易度のことだから、そこまで肩肘張らなくて大丈夫そうかも。


「で、煙岩山ってどこにあるの? 私この辺りのこととかまったく知らなくってさ」


「確か、王都の北東側に見えるあの山かと」


 ミルが指差した方に視線をやると、確かに遠方に大きな山の影が見えた。

 ここからだと詳しくはわからないけど、たぶん全面的に岩肌が広がっていてゴツゴツとしている。

 それになんかモクモクしてない? まるで衣みたいに白い煙が岩山を覆っている。


「岩山の地面には小さな穴がいくつもあって、そこから定期的に煙が噴射されているそうです。山を覆っているあの煙はそれが原因だとか」


「へぇ、だから『煙岩山』ってわけね」


 改めて名前の由来がわかり、私は感心したような声を漏らした。


「山が噴射する煙は、基本的には無害な白煙だそうですが、稀に色の付いた煙が出てくるみたいで、有毒性があるみたいなので注意してください」


「白は大丈夫で、それ以外は吸ったり触れたりしちゃダメってことだね」


 有毒性か。

 具体的にどういう症状が出るのかはわからないけど、とりあえずは色付きの煙には細心の注意を払うことにしよう。

 まあもし毒に掛かっても、魔法を使えばそれで治療することができるんだけどね。


「ていうかさ、今からあの山まで行くんだよね」


「えっ? まあ、そうですね。そういう依頼内容ですから。それがどうかしたんですか?」


「普通に歩いて行ったらさ、絶対に帰り真夜中になるよね」


 私は遠方に見える煙岩山を眺めながらそうぼやく。

 同じく山の方を見たミルも、『あぁ』と納得したような声をこぼした。

 だって見ただけでわかるから。ここからあの山まで、とんでもなく遠いということを。

 往復に馬車を使っても、移動時間だけで三時間は掛かるんじゃないだろうか?

 山までの道中で深い森も通らなければならないみたいだし、魔獣との戦闘も避けられないと思う。

 依頼の進行具体によっては、下手したら翌朝になる可能性だってあるんじゃないかな。

 この距離をどうやって埋めよう?


「空飛ぶ魔法の絨毯とか持ってない?」


「唐突に高次元の期待をしないでください」


 ミルが呆れたように碧眼を細めた。

 だってミルのお父さんは魔道具師だったって聞いたから。

 もしかしたら便利道具の一つや二つ持っているんじゃないかって思ったんだよね。

 ミルのお父さんは独自に道具製作をしていて、ちょっとした小道具を作るのが精一杯だったらしいけど、何かの間違いでとんでもない魔道具を生み出していても不思議じゃないから。


「仕方がないので、魔法を使って移動しましょう。魔獣との戦闘前に魔素を消費するのは避けたいところですけど、状況が状況ですし」


「あぁ、まあ、普通はそうなるよね。みんなも魔法使って移動してるっぽいし。そもそも放課後の短い時間だけで討伐依頼を達成するのは無理があるからなぁ」


 その時間的制約を、みんなは魔法でカバーしているようだ。

 ならば私たちもその手を使うしかあるまい。

 魔法での高速移動。

 主にみんなが使っているのは“身体強化魔法”の【超人的な体験(リミットブレイク)】だ。

 純粋に脚力と持久力を上昇させて、物理的な高速移動を可能にしている。

 さすがに空間移動系の魔法を使っている一年生はいなさそう。

 転移魔法の【星間の跨ぎ(インターステラー)】は、訪れたことのある場所にしか行けないし、遠くに行こうとするほど魔素消費が激しくなるからね。

 そもそも魔力値が低いと全然遠くまで移動できないし。

 転移魔法で自由に移動できるようになるのは、たぶんもう少し先の話になるだろう。

 マルベリーさんは頻繁に転移魔法で森の中をササッと移動していたけど、それはだいぶすごいことだったらしい。

 一応、私も似たようなことはできなくもないんだけど、それだとミルを置いて行っちゃうことになるしなぁ。

 というわけで他の生徒たちと同じく身体強化魔法を用いることにする。


「あっ、でも、サチさんはどうしましょう?」


「えっ? 何が?」


「魔力値1って言ってましたよね? それだと“身体強化魔法”も“転移魔法”も使えないんじゃ……」


 すでに私の魔力値を知っているミルは、心配そうな顔でこちらを見た。

 そんな彼女に対して、私はちょっと自慢げに告げる。


「身体強化魔法、使えるよ私」


「えっ?」


「ホントホント。他の人たちが使ってるのとはまあ違うんだけど、ちょっと見ててね」


 言うや否や、私は唱えた。


「【覚醒の時は来た――内なる怪力――窮地を穿つ鍵となれ】」


 これが、私だけに許された身体強化魔法……


「【火事場の馬鹿力(グラン・ディール)】」


 発動と同時に、私の全身は濃紅色の輝きに包まれた。

 すると突然、体が羽のように軽くなり、節々から沸々と力が湧いてくる。

 それを自覚するや、私は『見てて』と言うようにミルに目配せをして、ぐっと脚に力をこめた。


「せーのっ!」


 勢いよく地面を蹴り、私は跳ぶ。

 瞬間、私の体は通常では考えられないほど上空に飛び上がり、ミルはつぶらな瞳をぎょっと見開いた。

 軽く二階建ての建物を越える、超人的な垂直跳び。

 さらには学園の大きな校舎も飛び越し、結果的に私は王都を一望できるほど高い場所まで跳んだのだった。

 その後、スタッと着地まで綺麗に決めた私は、『ドヤッ』と言わんばかりの笑みをミルに向けた。


「これなら他の人たちと同じように素早く移動できるよ。普通の身体強化魔法とはちょっと違うけど、別に問題はないでしょ」


「……」


 ミルは見開いた目をそのままに、声にならないような声をこぼした。


「も、問題はないどころか、通常の身体強化魔法よりも遥かに強力だと思うんですけど……」


「えっ? みんなこんなもんじゃないの?」


 私が使えるのはこれしかないから、あまり違いがわからない。

 他の身体強化魔法とどう違うのだろうか?

 私が使っているこれって、そんなに強力なの?


「魔力値200を超える凄腕魔術師が身体強化魔法を使ったとしても、さすがにあんな高い場所まで跳ぶことはできません。サチさんの使った魔法はどういうものなんですか?」


「【火事場の馬鹿力(グラン・ディール)】っていう、『一万回に一回くらいの確率で使用者の身体能力を極限まで高めることができる魔法』って私は習ったよ。これも即死魔法と同じで成功確率が幸運値に依存してるから、私が使えば絶対に成功するんだ」


「……また確率魔法ですか」


 ミルは碧眼を見開いたまま、呆然とこちらを見つめてくる。

 言葉を失くしている彼女を見て、私はさらに補足した。


「でもまあ、失敗した時は逆に身体能力がかなり低下するみたいだから、やっぱりこれも欠陥魔法だよね。失敗したことないからどれくらい自分が弱くなっちゃうのかはわからないけど」


「もしかして、その代わりに成功した時は、通常の身体強化魔法を上回るほどの効果を発揮してくれるってことなんでしょうか?」


「うーん、たぶん……?」


 正直、使っている身としては、他の身体強化魔法とまったく変わりはないように思うんだよね。

 確実に成功するし、効果も申し分ないからさ。

 ほらっ、この通り……


「ミルの体もちょちょいと持ち上げられるよ。それたかいたかーい!」


「ちょ、怖いです怖いです! 高い高いじゃなくて高すぎるんですけど!」


 抱き上げたミルを遥か上空に投げて、落ちてきたところを優しくキャッチした。

 これだけの怪力があれば何も問題はないでしょ。

 にしてもミル細くて軽いな。


「まあ、何はともあれ私のことは気にしなくていいからさ、ミルも身体強化魔法使っても大丈夫だよ。もたもたしてたら日が暮れちゃうし、早く山に行こう」


「は、はいぃ……」


 ミルは討伐依頼の前からすでに疲れ切った様子で、通常の身体強化魔法を使って肉体を強化させた。

 それが済むのを見ると、私はミルの手を引っ張りながら、王都の東門を目指して駆け出したのだった。

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