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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第一章

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第十四話 「入学式」

 

 合格発表からさらに日が経ち、入学式の日となった。

 学園から支給された新品の制服に身を包み、いざ入学式に出陣。

 今日から私は王立ハーベスト魔術学園の生徒として、正式に国家魔術師を目指すことになる。

 その門出と言わんばかりに、学園の訓練場には盛大な飾り付けの入学式会場が出来上がっていた。

 随分と気合が入っている様子。

 そこに入学試験を突破した新入生たちがぞろぞろと流れ込んでいき、私もその後に続くことにした。

 どうやら二年生と三年生はいないみたいだけど、入学式には出席しないのだろうか?

 ていうか先生の数も結構多いなぁ。授業を受ける時は専門分野ごとに先生が変わるのだろうか?

 なんてそわそわとしながら色々なことを考えていると、気が付けば入学式は終わっていた。 

 式の内容は、正直あんまり覚えていない。


「ふわぁ、やっと終わったぁ……」


 とりあえずなんか、すごく退屈だったなという印象である。

 まあ学園長さんみたいな人が前に出て、学園行事とかについて色々と話してくれていたと思う。

 あとは生徒会長みたいな女子生徒も出てたっけ? あれは三年生だったのかな?

 それはさておき、ここからは一転して気合を入れなければならないだろう。

 さあ、クラス分けの時間だ。

 できればミルと一緒がいいなぁ。

 まあ、全部で六クラスもあるみたいだし、そんなに上手くは行かないと思うけど。




「おっ、私A組だ」


「あっ、私もです」


 結果は、なんともあっさりとしたものだった。

 私はA組。ミルもA組。願っていた通りの展開である。

 入学式が終わって訓練場から校舎に戻ると、生徒はまず学園の昇降口を横切ることになる。

 そこにある巨大掲示板にクラス分けの紙が貼り出されており、自分の名前はすぐに見つかった。


「知ってる人がクラスにいてよかったよ。これからよろしくね」


「はい、こちらこそお願いします」


 楽しい学園生活になりそうだと思った。

 しかも教室に行ってみると、なんと私は窓際の一番後ろの席だった。

 それに隣の席はミル。

 これ以上ない完璧な布陣である。

 いくらなんでも神様に愛されすぎているなぁ、なんて思っていると、その幸運の連続にさらに光を灯すかのように……


「私がこの一年A組を担当するレザン・エルヴェーだ。一次入学試験で顔を合わせた生徒は久しぶりだな」


「……あの時の試験官さんか」


 クラス担任になってくれたのは、試験の時にお世話になった試験官さんだった。

 またも見知った人がいるとわかって、私はさらに安心する。

 軽く話した程度だけど、すごく人の良さそうな試験官さんだったもんなぁ。

 きっといい先生になってくれるはず。

 そんなレザン先生の話を、窓際の一番後ろの席でのんびりと聞いていると、ふと周りから……


「おい、見ろよ窓際のあいつら」


「家章がないってことは、もしかして平民か?」


「なんで魔術学園に……」


 そんな言葉がちらほらと聞こえてきた。

 クラスメイトたちがやたらと私とミルのことを気にしている。

 やっぱり平民って珍しいのかな?

 まあそりゃそうだよね。魔法の才能がないって言われているただの平民が、世界最高の魔術師養成機関にいるのは場違い感がすごいだろう。

 それに入学式の時に周りを確かめてみたけど、私とミル以外は全員“家章”とやらを制服の胸元に付けていたし。

 この魔術学園は貴族で溢れているのだ。

 そんな中で家章も何も付けていない平民の私たちは、相当目立っていることだろう。

 でも、出自ってそんなに大事なものかな? 学園生活を送る上でそこまで重要なもの?

 私も元は魔術師の名家生まれなんだけど、今さらあの名前を取り戻したいとは一切思わない。

 そういえば、試験の時に絡んできたあの貴族のおぼっちゃまたちは、入学式にはいなかったな。たぶん落ちちゃったのかもしれない。


「では次に学生寮に関しての説明を行う。すでに知っているとは思うが、学園のすぐ隣にある三階建ての施設が本校の学生寮となっている。そこでは二人一組で部屋分けをして、共に生活を送ってもらうことになるので、是非仲を育んでほしい」


 その説明を聞いてそういえばと思い出す。

 この学園のすぐ隣には、白を基調としたとても綺麗な建物が二つ並んでいる。

 かなり大きな施設のようだったけど、この学園が管理している学生寮だったのか。

 説明会とかでも言っていたような気もするけど、あんまり覚えてないなぁ。


「部屋分けは事前にこちらで決めさせてもらった。基本的には同じクラスの者と同室にしてある。前の黒板に部屋割の内容を貼っておくので後で確認しておくように」


 その後、クラスメイト同志の自己紹介が行われて、その日は早めに終わった。




 そして夕刻。

 王立ハーベスト魔術学園の学生寮は、男子寮と女子寮が隣り合うように並んでいる。

 学園側にある方が男子寮で、奥側が女子寮だ。

 当然特別な理由がない限りは異性寮への出入りは禁止となっている。

 だから私が男子寮の内部を窺うことは生涯ないだろう。

 そんなことを考えながら私は男子寮の前を横切り、女子寮の方へと向かっていく。

 そして寮に入ると、割り当てられた部屋に行くために一階の廊下を歩き始めた。

 学生寮は三階建てで、一階が一年生、二階が二年生、三階が三年生の階層となっている。

 それぞれの階に学年ごとの食堂や大浴場が設けられているので、学生寮内で他学年の生徒と接する機会はほとんどない。

 やはり一番多く交流することになるのは、同室で生活を共にするルームメイトだ。

 というわけで私は、割り当てられた寮部屋に辿り着くと、続いて入って来たルームメイトに礼儀正しく挨拶をした。


「私、サチって言います。今日からよろしくお願いします。あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」


「……いや、今さら何言ってるんですか?」


 ルームメイトはわかりやすく呆れた顔をした。

 何かおかしなところがあっただろうか? 至って普通の挨拶をしたつもりなんだけど。

 ……と、小芝居はここまでにしておいて。


「もう名前も顔も充分知っているのに、どうして今さら自己紹介する必要があるんですか?」


「いやぁ、普通に初対面の人と同室になったら、こんな風に挨拶してたんじゃないかなって思ってさ。肝心なのは第一印象だからね。とりあえず、またよろしくね、ミル」


「はい、よろしくお願いします」


 ルームメイトのミルティーユ・グラッセちゃんが、こくりと頷きを返してくれた。

 クラスが同じで席まで近く、そして寮部屋までミルと同じになったのだ。

 誰かが意図的に仕組んだとしか考えられない。

 そうなってくれたら嬉しいなぁとは思っていたけど、まさか本当に願いが叶うとは。

 いや、これは意図的というよりかは、むしろ……


「幸運値さまさまだよねぇ。まさか学生寮の部屋まで同じになるとは思わなかったなぁ」


「こういうのにも幸運値って関係があるんですか?」


「うーん、たぶん?」


 幸運値が高い人ほど、日常的に良いことが起きやすいとされている。

 道端でお金を拾う回数が多かったり、怪我や事故が極端に少なかったり、博打にめっぽう強かったり。

 だから今回のクラス分けや部屋分けでもその効果は発揮されていると思う。

 何より私の幸運値は数値上で最大の999なのだ。

 これで無関係だとしたらそちらの方が不自然だと言える。

 やっぱり幸運値ってバカにできないよね。運を味方につけた人がこの世で最も強いのだ!


「サチさんの幸運値のおかげでこうなったのでしたら、私の幸運値0を上塗りしてくれたってことになりますかね?」


「えっ、どうして?」


「私も今、とても幸せだからです」


「……な、なるほど」


 不意な笑顔を向けられて、思わず私は頬を熱くしてしまう。

 ちくしょう、嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。

 このクラス分けや部屋分けに幸運値が関係しているのだとしたら、ミルは明らかに不運な末路を辿っていたはず。

 それが今とても幸せな結果になっているということは、ミルの不幸を私の幸運値が食ったことになるのか。

 何の根拠もないので断言はできないけど。


「まあ何はともあれ、私にとって都合のいい展開ってことに間違いはないかな。ルームメイトはミルだし、部屋も綺麗だし、担任の先生もあの試験官さんだったし、何もかも幸先がいいね。まあ、周りからは少し物珍しげな視線を感じるけどさ」


「あぁ、平民って珍しいみたいですからね。それに貴族でもない一般人が魔術学園に入学するのは、五年ぶりくらいだって聞きましたよ」


 へぇ、そうなんだ。

 それなら私たちが変に注目を集めているのも納得できる。

 じゃあ今この魔術学園には、二年生と三年生を含めても平民は私たちしかいないってことか。

 それ以外の生徒たちがみんな名の知れた家柄の生まれって、なんか結構すごいな。

 やっぱり魔法の才能は、血筋が一番大きく関係しているらしい。

 じゃあなんで私の魔力値はこんなに貧弱なのだろう?

 これでも一応は魔術師の名家と謳われているグラシエール家のお嬢様なんだけど。

 人知れず己の才能に落胆しながらも、私は目にした寮部屋にテンションを上げ、手荷物を放り投げてだだだっと部屋の中を駆け回る。

 そして部屋の左右に巨大ベッドが置かれているのを目にして、『うひょー』と叫びながらその一つに飛び込んだ。

 超ふかふかしてる! 寝心地最高! 上着と靴下なんて邪魔だ邪魔!


「ぽいぽいっと」


「ちょ、サチさん! 変に脱ぎ散らかさないでくださいよ!」


 投げ捨てるように上着と靴下を脱ぐと、それを見たミルが呆れるように叱ってきた。

 そしてそれを拾い上げて、上着をハンガーに掛けて靴下は丁寧に畳んでくれる。

 その姿をベッドに寝そべりながら眺めて、私はふとあることを思った。


「ミルってもしかして、靴下が左右で違ったり、ドアが開きっぱなしだったり、服が裏返しになって洗濯籠に入ってたら気になる人?」


「えっ、誰でも気になりませんかそれ?」


 ふむ……

 どうやら私とミルでは少し価値観が違うみたいだ。

 しかも同棲、というか同部屋で生活するにあたって、亀裂が生じそうな問題である。

 ということをミルも悟ったのか、訝しむような視線をこちらにくれた。


「逆にこちらからも聞かせていただくんですけど、サチさんってもしかしていい加減な人ですか?」


「むっ、失敬な。これでも私は几帳面な方だよ。家の玄関から靴下を投げて、完璧に洗濯籠に入れられる天才だったから、一緒に住んでた師匠に『器用な子ですね』って褒められたことがあるんだから」


「……今のでだいたいわかりました」


 ミルはさらに呆れたように瞳を細めながら、私が放り投げた手荷物を回収してまとめ始めてくれた。

 次いで部屋の収納を確認して、丁寧に荷物を仕舞ってくれる。


「衣服と装飾品はこちらの棚に入れておきます。細かい消耗品はその隣の収納に仕舞っておきますので、ちゃんと覚えておいてくださいね」


「はーい」


 なんかこの感覚懐かしいな。

 森の家で暮らしていた時、マルベリーさんによく叱られていたのを思い出す。

 ふむふむ、つまり咎人の森の家において、マルベリーさんが私のお母さんだったみたいに……


「この寮部屋ではミルが私のお母さんってことになるのか」


「誰がお母さんですか!」


 ミルがムッとした表情を見せたその時――

 不意に寮の廊下から鐘の音が聞こえて来た。

 カンカンカンと三回。それを聞いた私はハッとなってベッドから起き上がる。

 これは確か、夕食を知らせる合図だったはずだ。


「あっ、夕食の時間じゃない? そういえばお腹ぺこぺこだった。早く行こ行こっ!」


「ま、待ってくださいよサチさん! ちゃんと部屋を片付けてから……」


「あとでやりまーす」


 寮部屋から勢いよく飛び出していくと、ミルも慌ててその後を追いかけて来た。

 腹の虫に素直に従って食堂へ急ぐと、とても芳しい香りが廊下を伝って流れてくる。

 早くも寮生たちが集まって、夕食を手に席についているのを見て、私たちも早々に食べる準備を進めた。

 その日の夕食は柔らかくて香ばしいパンと、具沢山のシチューだった。

 夕食が終わると、次は入浴時間となる。

 クラスごとに時間を区切って大浴場を使えるようで、初日はA組が最初となった。

 そしてお風呂を終わらせた後は、少しの自由時間を挟んで就寝時間となる。

 その自由時間の間に、私は再び部屋の中を散らかしてしまい、ミルがそれを泣く泣く片付けてくれた。

 今後もよろしくお願いしますと言うと、ミルはわかりやすく顔をしかめたのだった。


「やっぱり同じ部屋になったのは不幸だったかもしれません……」


「まあまあそんなこと言わずにさ。これからよろしくね、ミルお母さん」


「だから誰がお母さんですか!」


 楽しい楽しい寮部屋での共同生活が、その日から始まったのだった。




 翌日。

 今日から本格的に魔術学園の授業が開始されることになる。

 まずは魔法の基本的なことから復習していくらしい。

 しかし二学期から早くも実技的な授業に移り変わるということなので、油断禁物とのことだ。

 すでに入学者たちは難関と言われている入学試験を乗り越えているので、基礎的な知識は初めから持っているという判断なのだろう。

 実際、授業初日でやったことは、すべてマルベリーさんに最初の方に教えてもらったことばかりだった。

 まあ初日ならこんなものだろう。

 聞くところによると、魔術学園はやはり実技的な成績を重要視しているみたいなので、骨が折れるようになるのはそういった課題が出始めてからではないだろうか。

 今はとりあえず学園生活に慣れることに集中した方がいいかもしれない。

 というわけでなんとかクラスに馴染もうと、周りの人たちに話し掛けようとしたのだが、なかなか勇気が出ずに気が付けば本日最後の授業が終わっていた。

 私の意気地なし……


「これで初日の授業は終わりとなる。最後に一つだけ、君たちにとても重要なことを教えておく」


 レザン先生が少し改まった様子でそう言うと、教室の中がスッと静寂に包まれた。

 みんなはなんだろうという面持ちで聞き耳を立てる。


「王立ハーベスト魔術学園には、多数の魔獣討伐の依頼が持ち込まれている。それを『学園依頼』と呼び、本校の学生が受けて達成することで、“討伐点”として成績に加点されるようになっているのだ」


「学園依頼?」


 私は聞き覚えがなかったのだけれど、周りのみんなは覚えがあるように納得した様子を見せている。

 魔術学園をよく知る人たちにとっては有名なものなのだろうか?

 学園依頼って言ったよね。国家魔術師たちが請け負っている魔獣討伐を、学生たちにやらせているってことかな?

 将来、国家魔術師として魔獣討伐をすることを見越しての訓練だとしたら、確かに理にかなっていると思う。


「君たちの目指している国家魔術師たちも、依頼を受けて魔獣討伐を行なっている。それと同じように市民の平和のために、凶悪な魔獣たちを倒して来てもらいたい。ちなみにこれには討伐点の他に報酬も出るようになっているから、是非とも頑張ってくれ」


 というレザン先生の説明に、クラスの中が僅かに賑わった。

 報酬。確かにこれは気分が高まる。

 周りのみんなは名家の生まれだから、お金には困っていないだろうけど、自分の手でお金を稼ぐという経験はほとんどないだろうから気持ちが湧き立っているのだろう。

 仮とはいえ、国家魔術師のような仕事ができるということだから。


「報酬も確かに大事ではあるが、それ以上に成績に大きく響くことを忘れないでもらいたい。筆記試験や研究結果の発表による“学術点”も、成績においてもちろん大切だが、この魔術学園では依頼達成による“討伐点”が特に重要視されている」


 討伐点。先ほどからちょこちょこと話題に上がっている。

 学園依頼とやらを達成すればもらえるみたいだけど、それってそんなに大切なものなのかな?

 という疑問に頷きを返すように、レザン先生が衝撃の事実を突きつけて来た。


「魔術学園では一定の成績に達していない者は、課題試験や進級試験を受けることができずに“退学処分”となってしまう。討伐点、学術点共に目標点があるので注意してもらいたい。だから皆には放課後や休日を利用して、たくさんの学園依頼を達成してもらい、無事に二年生になってほしいと思う」


「……」


 賑わっていたクラスが一瞬にして静まり返ってしまった。

 無理もない。授業初日早々に“退学処分”などという物騒な言葉を耳にしたのだから。

 一定の成績に満たず、課題試験や進級試験を受けられなかったら即退学。

 試験に落ちてしまってももちろんダメだろう。

 それがこの世界最高の魔術師養成機関である魔術学園の実力主義教育だ。

 なんだか一気に緊張感が湧いてきた。


「今日からさっそく一年生用の依頼受付所が開いているはずなので、放課後に見に行ってみるといい。一階の中央廊下にあるからな」


 そこでレザン先生の説明は終わり、帰り前の清掃時間となった。

 みんながその準備を進める中、私は隣の席のミルにこっそりと囁く。


「放課後になったら一緒に見に行こう」


「はい、わかりました」


 ミルと放課後に依頼受付所なる場所を確かめに行くことにした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] A組が上から順の優秀なクラスなら、あるいは担任が選べるなら トップクラスで一緒にクリアしてきた2人をセットにするのは、幸運値関係無くても十分有り得そう それに平民同士でもあるし…という…
[一言] ご都合主義?いいえ、幸運値です。
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