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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第一章

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第十二話 「意外なお誘い」

 

 入学試験が終わった後。

 私はミルと一緒に町の通りを歩いていた。

 空からは僅かに夕日が顔を覗かせて、橙色に染まり始めている。

 私はその夕焼けを見上げながら、ぐっと大きく背中を伸ばした。


「やあー……終わったね、入学試験」


「はい、そうですね」


 なんだかしみじみとしてしまう。

 試験の緊張感から解放されたおかげだろうか。

 ミルも同じ気持ちなのか、崩れてしまいそうなくらい柔らかい笑顔をしていた。


「まさか始まる前は、誰かと協力して試験を頑張るなんて思わなかったなぁ」


「私も同じです。ただでさえ私は周りを不幸にする不幸体質なので、この試験でも腫れ物扱いをされて、きっと誰とも協力できないと思っていました」


 そうと語るミルの顔に、僅かに翳りが落ちる。

 何やら思うところがあるような表情。しかしすぐに元の笑顔に戻る。

 まあミルの不幸体質だと色々と不安なことがあるよね。それで腫れ物扱いされてもおかしくないし。

 何より入学試験は一度きり。

 確か二次募集もあるという話だけど、一次試験を受けて落ちた人は基本的に受験不可となっている。

 来年になればまた受験することはできるけれど、一年の差というのは意外にも大きなものだ。

 こと魔術師においては。

 そんな大事な試験ともなれば、受験者たちはみんな殺気立つに決まっている。

 それで試験中に他の受験者と協力することになるなんて、想像もできなかっただろう。

 嫌な連中に会いもしたけどね。


「サチさんって本当に運に恵まれている方なんですね。こんなに私と一緒にいて不幸になっていないのは、とてもすごいことですよ」


「何その褒め方」


 今までそんな風に褒められたことないんだけど。

 という話をしていたら、早くも王都の中央区へと辿り着いてしまった。

 私が部屋を取っている宿屋は、今歩いている通りを左に折れてすぐにある。

 その曲がり道に差し掛かり、私は少し名残惜しい気持ちで右手を上げた。


「それじゃあ私はこっちだから。また合格発表の日に会おうね、ミル」


「あ、その……」


「……?」


 別れの挨拶をしようとしたのだが、ミルが何か言いたげに口を開いた。

 そしてなぜか被ったフードの端を指先で摘みながら、視線をきょろきょろと泳がせている。

 何かを恥ずかしがっている? みたいな様子だ。

 どうしたんだろうこの青ずきんちゃんは?


「なにっ? どしたの?」


「い、いえ……やっぱり、なんでもありません」


 なんでもなさそうではないんだけど。

 不思議に思った私は、訝しい目をしてミルの顔をじっと見つめていると、やがて彼女は観念したように明かした。


「そ、その、ご飯とかどうかな、と思いまして……」


「……」


 ……おぉ。

 まさかミルの方からそんな誘いを受けるとは思ってもみなかった。

 私も同じことを考えなかったわけではない。

 せっかく試験を協力して乗り切った仲なのだし、軽くご飯でも行けたらいいなって。

 でもミルは若干、人見知りな性格みたいだし、一緒に試験を受けたとはいえ、まださすがに二人きりで食事に行くのは壁が高いのではと思っていた。

 しかし案外、そんなこともなかったみたいだ。

 誘ってくれたミルは、すごく勇気を振り絞ってくれたのだろうか、色素の薄い頬を赤らめながらもじもじしている。

 その姿を目の当たりにして、私は思わずごくりと息を飲んでしまった。

 なんだろう、すごくいじらしい。

 臆病で人見知りな少女が、恥ずかしがりながらも勇気を出している姿は、こんなにも唆られるものなのか。

 私の中にある悪戯な気持ちがぞくぞくとしてきてしまう。

 私は知らず知らずのうちに、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「ふぅーん、どうして?」


「えっ!?」


「どうして私と一緒にご飯行きたいのかなぁ、って思ってさ」


 自然とニヤニヤしてしまう。

 何か特別な反応とか求めているわけじゃないんだけどね。

 ただ、ほんの少しだけ困らせてみたいなって、意地悪な気持ちが湧いてきてしまったのだ。

 マルベリーさんといた時もよくあったなぁ。だってマルベリーさん、毎回すごく面白い反応してくれるんだもん。


「ど、どうしてと、聞かれましても……えっと、あの……!」


 悪戯な質問をされたミルは、見るからに困ったようにあたふたしていた。

 面白かわいい反応だ。

 でも、少し意地悪しすぎただろうか。


「あははっ、ごめんごめん。ちょっと意地悪なこと言っちゃったね。実は私もそうしたいって思ってたからさ、一緒にお疲れ様会しよっか。いいお店とか知ってる?」


「は、はい! 昨日見つけた美味しいお店があるので、そこでどうでしょうか?」


 ミルは安心したように胸を撫で下ろしていた。

 せっかく仲良くなったばかりなので、あまり困らせるようなことをするのは控えておいた方がいいよね。

 程々にしておくことにしよう。

 ともあれミルに提案された私は、左の道に曲がることはなく、再び彼女と一緒に通りを歩き始めたのだった。




 ミルが教えてくれたお店は、王都ブロッサムの中央区にあった。

 お洒落な雰囲気のレストランで、静かで居心地がいい。

 中央区は娯楽施設が多く立ち並んでいるらしいけど、このレストランの周囲は比較的穏やかだ。

 おまけに安い。いいお店である。

 そして肝心の料理の味は、値段が安いながらもとても美味だった。


「ふぅ、ご馳走様ー。すっごく美味しかったよ」


「お口に合ったみたいでよかったです」


 私とミルはテーブルに並んだ料理をすべて平らげて、食後のお茶をちびちびと啜る。

 ゆったりとした時間を過ごしながら、少しの雑談に花を咲かせた。


「試験の結果はまだわからないけど、もうしばらくはこの町にいることになるし、私もこういう穴場みたいなお店見つけておいた方がいいかな」


「私もそこまで詳しいわけじゃないですけど、できる限り知っているところはお教えしますね」


 どこどこのお店が美味しかったとか、ここのお店は安くてお昼の時間帯が空いていたとか。

 王都に来たばかりの者同士で、情報の共有をする。

 そんな話をしながら、私はふと気になっていたことを尋ねた。


「そういえばミルってさ、誰かに魔法とか教えてもらったりしたの?」


「誰かに、ですか?」


「私の場合は師匠みたいな人がいたからさ。ミルの故郷は農村だって言ってたし、魔法を学べる機会はなかったんじゃないかなって思って」


 ミルの生まれを聞いた時から疑問に思っていた。

 いったいいつどこで魔法を学んだのだろうかと。

 農民が魔法を学べる機会はないんじゃないのかな?


「確かに魔法を学ばせてもらう機会はありませんでしたね。貴族の方々なら幼い頃から家庭教師として国家魔術師を呼ぶこともできるみたいですけど、農家の我が家にそんな余裕はありませんでした」


「じゃあどうやって魔法を学んだの?」


 ミルはきっぱりと言い切った。


「独学です」


「独学? 最初から全部?」


「はい。家に教材はありましたから」


 教材?

 それってどんなものなんだろう?


「私が物心つく前に、病気で死んでしまったお父さんがいるんですけど、生前は魔術師として活動していたみたいです」


「へぇ、そうなんだ。すごい魔術師だったの?」


「国家資格はなかったみたいなんですけど、魔術師として独自に魔道具制作をしていたってお母さんが言っていました。子供の頃から『魔道具師』になるのが夢だったみたいで、その勉強の名残りで魔法書とかが家にあって……」


 なるほど。それが魔法勉強の教材になったってことか。

 それなら色々と納得もいく。

 農家のミルの家に魔法の教材があったということも、そしてミルにただならぬ魔法の才があるということも。

 どうやらお父さんは国家魔術師ではなかったみたいだけど、独自に魔道具製作をできるだけの腕はあったらしい。

 そんな魔法と向き合った情熱が、血筋としてミルに色濃く継がれたのではないだろうか。


「でも、独学でよく国家魔術師を目指そうって気になったね。私なんて勉強が苦手だから、よく師匠的な人に居眠りを注意されてたよ。一人じゃ絶対に勉強なんてできなかったなぁ」


「あははっ、なんか簡単に想像できますねそれ」


 なんだとこの……

 と思って卓上の小さな紙手巾を丸めて、指で弾いてミルの額にビシッと直撃させる。

 すると『あうっ』と微かな声を漏らしたミルは、額を摩りながら話を続けた。


「私も座学はそこまで好きではないですよ。ただ、小さい頃は魔法が使えることが嬉しくて、ひたすらに魔法書に書いてあった魔法を片っ端から試していました。辺境にある田舎村だったので、他にやることもなくて……」


 と、謙遜しているけれど、実際に魔術学園の入試に挑戦できるほど学を進めるのは、一人では相当厳しいはず。

 魔道具製作に熱中していたお父さんと同じで、ミルも魔法が大好きなのだろう。

 私も魔法に対する好奇心は人一倍だと思っているけれど、さすがに勉強は一人じゃ無理だったなぁ。


「お父さんと同じように、一人で何かに熱中してしまう性格なのかもしれません。もしかしたら魔道具製作を始めたら、お父さんみたいにハマってしまうかもです」


「魔道具かぁ。私って魔道具とかあんまり使ったことないんだけど、お父さんはどんな魔道具を作ってたの? 服が透けて見える眼鏡とか、異性を虜にする魔法の惚れ薬とか?」


「なんで発想が思春期の男の子なんですか?」


 呆れるように目を細めたミルは、ごほんと咳払いを挟んでから答えてくれた。


「個人での魔道具製作はちょっとした小道具を作るのが精一杯だったみたいです。国家魔術師になってたくさんの研究費を使えれば、もっと大きなものも作れたらしいんですけど。あとはそうですね……」


 ミルは不意に襟元に手を入れて、そこからチェーンらしきものを取り出した。


「こういうペンダントとか、色々な装飾品をよく作っていたってお母さんから聞きました」


「わぁ! 綺麗! なんか先っぽの青い石がキラキラ光ってるけど、これも魔道具なんだ?」


「はい。持ち主の魔素の色に応じて色を変えるペンダントってお母さんが言っていました。お父さんが生前に製作した最後の魔道具みたいで、お守り代わりにお母さんが持たせてくれたんです」


 ミルが掛けていたペンダントは、仄かに“青い光”を灯していた。

 こういう魔道具とかもあるんだ。魔道具は基本的に生活の助けになっているものが多いって聞くけど、こういうのも遊び心があってなんだか素敵だ。

 魔素の色に応じて色を変えるって言ったっけ?


「それじゃあ、ミルの魔素ってもしかして“青魔素”? 実技試験中に見せてくれた氷結魔法も物凄い威力だったし……」


「はい、その通りです。私はいわゆる“青魔術師”なので、水系統の魔法が得意なんですよ」


 試験中に感じた疑問を、また一つ払拭することができた。

 そっか。ミルは青魔素持ちの『青魔術師』なのか。

 魔素は人それぞれ大きさや量、色や性格が異なっている。

 そのうちの“色”は、得意な魔法系統を示すものになっていて、色に適した魔法を使えばより強い威力を発揮することができるのだ。

 青魔素は水系統、赤魔素は炎系統、緑魔素は風系統といった具合に。

 そして持っている魔素の色によって魔術師の呼び方も変わり、青魔素持ちのミルは青魔術師ということになるのだ。

 あれほど強力な氷結魔法を使うことができたのも納得である。

 元々の魔力値が高いというのもあるんだろうけど。

 羨ましいなぁと思っていると、不意にミルが私の方を見ながら首を傾げた。


「それよりも私は、サチさんの魔法の方が不思議で仕方がないんですけど」


「えっ、私の魔法?」


 はて、何か特別な魔法を使っただろうかと疑問に思い、すぐにハッと思い当たる。

 あぁ、即死魔法のことか。

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