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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第一章

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第十一話 「自覚ない天才」

 

 死花(アイビィ)の蕾の核を入手した私たちは、試験を終わらせるために怪花の森を出た。

 無事に街道まで出ることができたので、もう魔獣に襲われる心配はほとんどない。

 あとは町までの道のりを歩くだけである。


「思ったよりもあっさりと試験終わったね。湿っぽい森から早めに出られてよかったよ」


「あっさり終わったのは、サチさんの魔法のおかげだと思うんですけど」


 そんなことを言いながら、私たちは町へと歩いていく。

 時間にも余裕があるので、広大な草原を眺めながらのんびりと歩いていると、不意にミルが微風に乗せてある言葉を送ってくれた。


「あの、ありがとうございます」


「えっ? 何が?」


「私の胚珠、取り返してくれて」


「あぁ、別に気にしなくていいよそれくらい。もう一つ探す手間が省けるからやったことだし」


 それに元々あれはミルが手に入れたものだからね。

 私はただそれを元の持ち主に返すように促しただけだ。

 特別なことなんてしていない。


「取り返してくれたことも嬉しかったんですけど、それ以上に身分の差に怯えずにあんなに強く言い返せるサチさんを見て、なんだか勇気付けられました。実際にあの貴族の方たちを完璧に言い負かしていましたし。だからその、つまりですね、何が言いたいのかと言いますと……」


 ミルは言葉を選ぶようにつっかえつっかえになりながら、感情を吐露した。


「見ていてすごく、スカッとしました!」


「おぉ、割といい性格してる……」


 まさか気弱で臆病なミルの口から、そんな言葉が飛び出してくるとは思いもよらなかった。

 そっか、スカッとしたか。

 まあ散々あいつらにいいように言われていたし、その気持ちはわからなくもない。

 私も少しムカついていたからやったことだし。

 ただ……


「まあ、あいつらが素直に私の言うことに従ったのは、たぶんミルのおかげでもあると思うよ」


「……?」


 “どういうことですか”と言わんばかりに首を傾げたので、私は右手の拳を握りしめて力説する。


「ミルが本当はすごい奴なんだぞってことを見せつけることができたから、あいつらも観念して胚珠を返してくれたんだと思うよ。あれだけの魔法を目の前で見せつけられたら、もう“運が良い”だけなんて言えないからね」


「そう、なんでしょうか……?」


 ミルはあまりピンと来ていない様子だった。

 自分がどれだけの才能を有しているのか、よく理解できていないみたいだ。

 あんなにすごい氷結魔法が使えるのに。


「ミルはもっと自信を持った方がいいよ。それだけすごい才能があるんだから、誰に何を言われても自信を持って言い返してもいいと思う。『私はあんたたちより強いんだぞ!』って。そうしたら意地悪してくる奴らなんていなくなるはずだから」


「それは……ちょっと難しそうですね」


 まあ、ミルの気弱な性格からして、自分の才能に胸を張るのはかなり難しいだろう。

 才能を誇示する傲慢さがあれば、そもそもあの貴族のおぼっちゃまたちなんて、自分で跳ね除けていたに違いないし。

 自分のポーチを失くしてえんえん泣きじゃくるような女の子には、まだ酷な話かな。

 と、思っていたら、ミルは意外にもやる気をたぎらせていた。


「でも、そうですね。今度からは少しだけ、頑張ってみようと思います。自分の才能にはまだ自信が持てませんけど、サチさんの言葉なら信じることができますから」


「うん、それがいいそれがいい」


 そうすれば今度からは自分の力だけでスカッとできると思うよ。

 たぶんこの学園に入学できたら、同じようなことがきっと起きるはずだから。

 今のうちから自信を付けて、生意気なご子息やご令嬢たちを見返せるようにしておこう。

 そんなことを言い合っていると、やがて私たちは王都ブロッサムの東門前に辿り着いた。

 実技試験開始前に集められた場所。

 そこには紫髪の女性試験官さんが待っていて、私たちを見つけるや大人っぽい笑みを浮かべた。


「おかえり、よく無事に帰って来てくれた」


 私は試験官さんの周りに、他に誰もいないことに気が付いて、もしやと思う。


「あっ、もしかして、私たちが一番乗り? ひょっとして超優秀なんじゃ……」


「いいや、四番目と五番目だよ。先に実技試験を終えた受験者たちにはもう帰ってもらったんだ」


「ちぇ……」


 なんだ、一等賞じゃなかったのか。

 試験開始地点に誰もいなかったから、てっきり私たちが最速だと思ったのに。

 まあ試験開始からすでに一時間以上、つまりは制限時間の半分も経過しているので、さすがに誰も帰って来ていないのはおかしいか。

 ともあれ四番目と五番目でもすごい結果だと気持ちを改めて、私たちは試験の報告をする。

 受験票と名前の確認をして、その後に入手してきた胚珠を試験官さんに渡した。


死花(アイビィ)の胚珠二つ。確かに受け取った。君たち二人には実技点が加点される。あとは一週間後の合格発表まで気長に待っていてほしい」


「はぁーい」


 合格発表は一週間後か。

 もう少しだけ時間が掛かるなら、マルベリーさんとこ戻ろうかと思ってたんだけど。

 これなら王都にいたままの方が良さそうかな。

 それにあまり早く再会しちゃったら、寂しがり屋だと思われるかもしれないからね。

 また子供扱いされて、頭を撫でられてしまうという良くない未来が見えてしまった。


「それと、君たちにはお礼を言っておかないといけないな」


「えっ? お礼?」


「開花した死花(アイビィ)を倒してくれて感謝する。まさかこのタイミングで花が開くとは思わなかった」


 試験官さんが頭を下げる傍らで、私は思わず首を傾げてしまった。

 なんで森の中での出来事を知っているのだろうか?

 開花した死花(アイビィ)を倒した時、あの場所には私とミル、貴族のおぼっちゃまたち以外誰もいなかったはずなのに。


「もしかしてどこかで見てたんですか?」


「見てたというか、試験中に何か不祥事があるといけないからな、怪花の森の至る場所に監視の目を放っているんだよ。ここからでも常に森内部の状況を把握できて、何かあれば付近の試験補助員が駆け付けるという手筈になっている」


「あぁ、そういう魔法か」


 遠隔で特定の場所を監視できる魔法。

 確か『千里魔法』っていうんだっけ?

 魔力値によって監視できる範囲が決まり、達人なら一山越えた先の状況まで見通すことができるそうだ。

 その魔法で試験中の怪花の森を監視して、何かあればすぐさま近くの試験官に伝える。

 原始的だけど確実な方法だ。

 それで私たちのことを見ていたらしいけど、試験補助員さんとやらは来てくれなかったような……


「受験者の男子三名が開花した死花(アイビィ)に襲われているところを見つけて、すぐさま補助員を向かわせようと思ったんだが、それよりも早く君たちが駆け付けてくれてね。しかも見る間に全滅させてしまうものだから、こちらも手の出しようがなかったんだよ。二人とも凄まじい力を持っているじゃないか」


「まあ正直、あの三人を無事に助けられたのは、運が良かったからだと思いますけど」


 手早く全滅させることはできた。

 でも襲われていたあの三人を無事に救出できたのは運が良かったからだと思う。

 試験に公平性を出すために、なるべく補助員さんを介入させないようにしているんだろうけど、あの場では補助員さんが来てくれた方が安全に三人組を助け出すことができたと思う。

 だから私は自惚れずに苦笑を滲ませた。


「本当だったら、そこの青髪の子が三人組に恫喝されているところも助けてやりたかったんだが、規定に違反していないのも事実だったからな。厳重注意くらいでとどめておこうと思った矢先、それも君に先を越されてしまってね。だから本当に、色々とありがとう」


「いえいえ、別にそんな……」


「特別に二人には別途実技点を加点させてあげたいところではあるんだが、私にはその権限がなくてね。大変申し訳ない」


「まあ、それやっちゃうと不公平になっちゃいますからね。全然大丈夫ですよ」


 本音を言えば欲しいところではあったけどね。

 できるだけ合格には近づきたいし。


「不公平になるのもそうなんだが、こんなにも早く実技試験を終わらせた君たちには、その必要もないと思っていてね。合格はほぼ間違いないだろうからな」


「それは……」


 うーん、どうだろう?

 王立ハーベスト魔術学園の入試は、実技試験に重きを置いているらしいけど、筆記試験の結果が完全に無視されるわけでもない。

 それなりにできた自信はあるけど、合格を確実に手にしたって感触は残念ながらないんだよね。

 だからちょっとだけ不安だなぁ。やっぱりなんとか言って実技点加点させてもらえばよかったかなぁ。

 そんな邪な思いを抱いていると、心の中のマルベリーさんに『ダメですよ』と静かに諭される想像をしてしまった。


「とにかく入学試験お疲れ様。今日はゆっくりと休んで体の疲れを癒すといい」


「はぁーい」


 手を高々と上げて返事をすると、試験官さんはふっと静かに笑ってくれた。

 これにて試験終了。

 というわけで宿に帰るとしよう、と思って歩き出そうとした時……


「あ、あの……」


「んっ?」


「どうして、開花した死花(アイビィ)たちはあの場所にいたんですか?」


 唐突にミルが試験官さんにそう尋ねて、私は今さらながら思い出した。

 そういえばそうだった。

 あの花が開いた死花(アイビィ)たちは、どうして試験会場である怪花の森にいたのだろうか?

 いまだにそれは謎のままである。


「詳しいことはまだ何もわかっていない。試験が始まる前に国家魔術師たちに“花付き”は掃除してもらったはずなんだがな。討ち漏らしたという可能性も低く、何より五匹も固まった状態で見つかるなんてこちらも想定外だ」


「……ですよね」


 実技試験が始まる前に試験官さんが言っていた。

 花が開いている死花(アイビィ)は危険なので、事前に国家魔術師に頼んで退治してもらったと。

 それなのにどうして五匹も生き残りがいたのだろうか?

 一匹とかならまだ見逃していた可能性はあるかもしれないけど。

 その謎はどうやらまだ解明されていないらしく、試験官さんは難しい顔をしていた。


「ただ……」


「ただ?」


「試験補助員の一人が、実技試験中に森の中で“不可思議な光”を見たと言っている。何かの魔法らしい光だったそうで、受験者が放ったとも思えないものだったそうだ。もしかしたらそれが、花付きを呼び寄せた原因かもしれないと私たちは疑っている」


「不可思議な光の魔法……」


 それで花付きの死花(アイビィ)を五匹も集めることができるのだろうか?

 そもそも花付きはあらかた討伐されちゃって、この森には残っていないはずじゃないの?

 というか、もし試験官さんの仮説が正しいとすれば……


「試験を妨害しようとした魔術師がいたってことですか?」


「その可能性は充分にある。君たちは、反魔術結社『ミストラル』という集団を聞いたことがあるか?」


 ミストラル?

 チラリとミルを一瞥すると、彼女も知らないと言うように小首を傾げていた。


「長らく魔術国家オルチャードに敵対している独立集団のことだ。魔法の才能が重要視され、魔術師が時代を牛耳っている現状に不満を抱えているらしい。特に国家魔術師に対して並々ならない私恨を抱えている連中が多く、世界最大の魔術師養成機関である魔術学園にも度々ちょっかいを掛けて来ている」


「……なんつー迷惑な」


 魔法至上主義の魔術国家に不満を抱えている人は少なくない。

 また、国家魔術師に与えられている莫大な研究費が、魔術国家に納められている税金から賄われているということに、憤りを覚えている市民も少なからずいるそうだ。

 大した実績も残さずに、悪戯に研究費を使い込んでいる国家魔術師がいるのは確からしいけど。

 だから国家魔術師に私恨を持っている人がいても不思議じゃないけどさ……

 それで魔術学園の入学試験を荒らすのは明らかに間違っていると思う。

 ましてやまだ受験者というだけの私たちを危険な目に遭わせて、いったい何が目的なのだろうか?


「現状考えられる犯人はそいつらしかいないが、もしかしたらまったく別の者の仕業かもしれない。とにかく、もし何かわかったら君たちには必ず伝えさせてもらうよ。このまま何もわからずじまいはすっきりしないだろうからね」


「はい、よろしくお願いします」


 まあ、まだ魔術学園に合格できると決まったわけじゃないけどね。

 もしかしたらこの試験官さんと話すのはこれが最後になるかもしれないし。

 とにかく釈然とはしないけれど、ここは大人たちに任せて今は無事に試験が終わったことを喜ぼうじゃないか。


「繰り返しになるが、今回は大きなトラブルを未然に防いでくれて感謝する。二人とも、入学試験お疲れ様。また会える日を楽しみにしているよ」


「「ありがとうございました」」


 私とミルは声を揃えて、試験官さんに試験終了の挨拶をしたのだった。

 こうして私の魔術学園への入学試験は、幕を閉じたのである。

 どうか合格できますように……!

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