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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第四章

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第百二話 「絶望の雨」


 王都ブロッサムの門前での戦いは苛烈を極めていた。

 時間と共に増していく巨大魔獣。

 魔素消費と体力消耗によって疲弊する魔術師たち。

 状況は明らかに悪かったが、一人の少女と一羽のフクロウの健闘によって前線が支えられていた。


『ポワールちゃん、次は南門の方へ向かいましょう!』


「うん」


 ポワール・ミュールとマルベリー・マルムラード。

 この二人なくして、今の拮抗した状態は成立しない。

 彼女たちは戦闘開始から僅か十五分で、すでに多大なる功績を上げていた。

 東西南北それぞれの門前まで自由に行き来することができる転移門の設置。

 各戦場に身体強化魔法と継続治癒魔法の領域を展開。

 飛行魔法で高空から侵入を目論む魔獣たちを軒並み迎撃。

 土を媒体とした泥人形の傀儡を生成して各員の戦闘を補助。

 その他、随所に適した魔法を駆使して戦場を掌握し、一時劣勢に陥っていた魔術師陣営を優勢まで引き戻した。


「まだ学生服着てるってのに、なんて子だよ……」


「あの子が作ってくれたこの状況、絶対に無駄にはできねえぞ!」


 ポワールの活躍によって国家魔術師たちにも火がつき、陣営はますます魔獣を押し返していった。

 空を飛びながら、また一体の魔獣を上空で消し去ったポワールは、そこから改めて戦場を眺める。

 王都の東西南北の門前には、自分が築き上げた磐石な戦場が見える。

 そこで魔術師たちが奮闘しており、この優勢のきっかけを作ったマルベリーに対して今一度告げた。


「フクロウさん、鳥なのに、色んな魔法知っててすごいね」


『あの、ですから、私はフクロウではなく本来は人間で……』


 というマルベリーの主張が素通りしているかのように、ポワールは続ける。


「魔術学園に来て、ちゃんと訓練すれば、きっといい魔術師になれると思う」


『ですから! 私は本来は人間の魔術師で、魔術学園もとっくに卒業してますから!』


 いまだにただの賢いフクロウだと思われているマルベリーは、バサバサと翼を揺らして抗議の意思を示した。

 しかし称賛されるのが嬉しいのは事実なので、そちらは素直に受け取っておく。

 一方で、マルベリーもまた、ポワールに対して驚愕を覚えていた。


(ポワールちゃんの方こそ、本当にすごい)


 彼女の魔力値が規格外だということはすでにわかっていた。

 あれほどの落雷魔法を目の前で見せられたら誰だってそれはわかる。

 しかし魔力値だけでなく魔素量についても、ポワールは飛び抜けて多かった。

 魔素消費量が莫大な魔法を連発しても、いまだに枯渇する気配が見えない。

 知識不足という欠点さえ補うことができれば、いずれ術師序列上位に食い込めるほどの逸材。


(最近の若い子たちは……)


 自分の弟子の姿を脳裏に浮かべたマルベリーは、そう思わずにはいられなかった。

 その時、西の方から死霊種の魔獣の群れが迫って来るのが見える。


『さあ、次は西門の方へ参りましょう! 死霊種の魔法を一撃で倒せる魔法を知っていますので』


「うん」


 ポワールは飛行魔法の効果で近くの南門まで飛行し、設置していた転移門を使って一瞬で西門まで移動した。

 そして新たに現れた死霊種の魔獣たちを倒すため、飛行魔法で前線へと向かおうとする。

 その時……


「んっ?」


 ポツッ……ポツッ……

 ポワールの肩で、小さな水滴が弾けた。


「雨……?」


『そう、みたいですね』


 見上げると、空はいつの間にか曇天へと変わっていた。

 そこからパラパラとささやかな雨が降っていて、次第に勢いを増して魔術師たちを濡らしていく。

 同様に魔獣たちにも雨がかかり、鬱陶しそうに水を払っていた。

 こちらとしても雨は少し厄介だ。

 視界が遮られるせいで連携をしづらくなってしまう。

 遠方で戦っている仲間たちの様子も掴みづらくなるため、不利を被るのはどちらかと言えばこちら側だ。

 天候を操作できるのであればすぐに晴らしてしまいたいが、あの幸運娘のサチではあるまいし、無視できる範囲なので放っておいても構わないだろう。

 そう思ったマルベリーは、このまま前進するようにポワールに指示を送ろうとしたが……


『ちょ、ちょっと待ってくださいポワールちゃん!』


「えっ?」


 彼女の目に“奇怪な光景”が映り込んで、咄嗟にポワールを呼び止めた。


「どう、したの……?」


『ま、魔獣の様子が、何か変です』


 その返答を受けて、ポワールも遅れて魔獣たちの変化に気が付く。

 確かに前方に見える魔獣たちは、どこか様子がおかしかった。

 まるで苦しみ悶えているかのように、呻き声を上げながら体をふらつかせている。

 どうやら東西南北それぞれの門前でも同様の事象が発生しているらしい。


(弱っている? いえ、それとはなんだか違うような……)


 マルベリーは魔獣たちから不穏な気配を感じ取り、密かに冷や汗を滲ませた。

 一方で他の魔術師たちは、今こそが攻める絶好の機会だと確信する。

 原因は不明だが、今のうちに動きを止めている魔獣たちを一網打尽にできれば形勢はさらに優勢に傾く。

 同じくそう思った魔術師たちが、同時に魔獣たちに攻めかかっていくが……


「グオオォォォォォ!!!」


「――っ!?」


 唐突に、魔獣たちが一斉に咆哮した。

 直後、凄まじい勢いで魔術師たちに攻撃を仕掛け始める。


「こ、こいつら!」


「さっきよりも凶暴に――!」


 様子がおかしくなる前と比べて、明らかに魔獣たちの凶暴性が増していた。

 その緩急で隙を突かれた魔術師たちが、痛手を負うことになる。


(どうしていきなり、魔獣たちが……? いえ、今はそれよりも……!)


 その原因を考えるのは後回しにして、目の前の厄介を片付けることに専念する。

 マルベリーはすかさずポワールに詠唱式句を伝えた。


「【彷徨う亡霊――浄化の光――残された未練を断絶せよ】――【生者の聖域(ヴィヴァン・テール)】」


 瞬間、死霊種の魔獣たちが集っている場所に、光の円が展開された。

 死霊種の魔獣に対して特に効果的な光系統魔法。

 これが先ほどマルベリーが言っていた、『死霊種の魔法を一撃で倒せる魔法』である。

 逆に生き生きとした獣種の魔獣や無機質な傀儡種の魔獣たちには効果が薄く、人間に対してはまったくの無害となっている。

 そのため国家魔術師たちを巻き込んでも問題はないので、ポワールは光の円を最大まで拡張させた。

 死霊種の魔獣たちに浄化の光が注がれる。


「ヴゥオオオォォォォォ!!!」


 不気味な呻き声を轟かせながら、死霊種の魔獣たちはじわじわと体を溶かしていった。

 これでひとまず西側から迫って来ていた死霊種の群れは片付けられた。

 おそらく他の場所でも魔獣たちが凶暴化していると思うので、早く次の戦場に向かって手助けをしないと。

 しかし、想定外の事態が発生する。


「ヴゥオ! ヴゥオオオ!」


「――っ!?」


 死霊種の魔獣たちは、浄化の魔法を受けても消滅しなかった。

 どころかただ怒りを煽っただけのようで、ますます凶暴性を増している。


(一撃で倒せない!? いったいどうして?)


 この【生者の聖域(ヴィヴァン・テール)】の魔法は、マルベリーが実際に何度も使っている。

 咎人の森では様々な種族の魔獣が出没するため、死霊種の魔獣を駆除する時に重宝しているのだ。

 これで仕留められなかった死霊種の魔獣はいないのだが、ここにいる魔獣たちにはまるで効いていない。

 魔獣たちが、凶暴化に伴って“強くなっている”せい?

 いや、違う。強くなっているのは確かだが、原因はそれだけではない……


(ポワールちゃんの魔素が、“弱くなっている”……!?)


 見ると、他の魔術師たちも魔法の調子を崩していた。

 魔法が上手く発動しなかったり、威力が低下してしまったり……

 そういえば先ほどの【生者の聖域(ヴィヴァン・テール)】の光も、心なしか弱まっているように見えた。

 死霊種の魔獣たちを一撃で倒せなかったことから考えても、おそらくポワールの魔素は不調を起こしている。

 そして他の魔術師の魔素も。

 でもどうしていきなり……


「おい、これって……!」


「あぁ、間違いねえ! 情報にあった“魔獣の凶暴化”と“魔素の収縮”だ!」


「ミストラルの連中、ここで仕掛けて来やがった!」


 マルベリーは魔術師たちの毒吐きを聞いて、記憶の片隅を刺激される。

 確か政府の会議室にいる時に、内通者が吐いたという情報を密かに聞いた。


『じきに王都では凶暴化した魔獣たちが暴れ回り、弱まった魔術師たちが蹂躙される光景が映し出されることだろう』


 ただ魔獣侵攻を始動させるだけではなく、連中は魔獣たちの凶暴化と魔術師の弱体化も狙っていると。

 まさかこれが話に聞いていた凶暴化と弱体化?

 当然魔術師たちもそれについては警戒を怠っていなかったようだが、あまりにも前触れがなかったせいで事前に察知することができなかった。

 いったいどうやって魔獣の凶暴化と魔術師の弱体化を同時に、そして一斉に行ったというのだろう……?


「あっ、雨……」


『えっ?』


 ポワールが何かに気が付いたように声をこぼし、曇天を見上げながら続ける。


「雨、降ってから、みんなおかしくなった」


『た、確かに、この雨を浴びてから……』


 ポワールの言う通り、この異常な現象は雨が降ってから起きたものだ。

 まさかこの雨の中に、魔獣凶暴化と魔素収縮化の効果が含まれている?

 その可能性は非常に高い。

 それにこの雨は、魔術師側が優勢に傾いてから突如として降り出したものだ。

 この状況を面白くないと思った何者かが、意図的に引き起こしたものと見るのが自然だろう。 

 そう、ミストラルだったら、これくらいのことをしてきてももう驚かない。


 やがて不自然に雨が収まる。

 それらを全身にたっぷりと浴びた魔獣たちは咆哮を続ける。

 反対に魔術師たちは苦しそうな顔をする。

 今の雨一つで、完全に優勢と劣勢がひっくり返ってしまった。

 強くなった魔獣たちが、弱まった魔術師たちに牙を剥く。


「ヴゥオオオォォォ!!!」


 浄化魔法で倒し切れなかった死霊種の魔獣たちが、その耐久力を生かして特攻を仕掛けて来る。

 死屍型の魔獣が強靭な歯と顎で魔術師たちに噛みつく。

 巨人骸骨の魔獣が怪力によって魔術師たちを吹き飛ばす。

 幽霊型の魔獣が魔獣特性の冷気を放って魔術師たちを苦しめる。


「チク、ショウ……!」


「他のところから、どうにかして応援を……!」


「無理だ! 他の場所でも状況は同じだ!」


 その時、ポワールとマルベリーの元にも一匹の獣人型の魔獣が飛びかかって来た。

 死霊種の魔獣だけでなく、当然他のすべての種族の魔獣たちも凶暴化している。

 凄まじい勢いで迫って来る狼顔の獣人に、ポワールは咄嗟に右手を向けた。


「【敵はすぐそこにいる――紅蓮の猛火――一球となりて魔を撃ち抜け】――【燃える球体(フレイム・スフィア)】」


 扱いやすい単体討伐用の炎系統魔法――【燃える球体(フレイム・スフィア)】。

 初歩的な魔法の一つではあるが、それゆえに魔力値によって威力が左右されやすい。

 覚醒中のポワールの魔力値ならば、よほどの相性差がない限り一撃で倒すことができるだろう。

 だが……


「グガアッ!」


「――っ!?」


 獣人の魔獣は、ポワールの右手から放たれた火球を、まるで埃でも払うように掻き消した。

 凶暴化と弱体化の同時発動による実力の逆転。

 ポワールの魔法が、まったく効かなくなっている。

 獣人はその勢いのまま二人の元に肉薄し、大きな爪を振り上げた。

 刹那――


 ポワールは背中を向け、マルベリーを庇うように両腕に抱いた。


(えっ……?)


 獣人の爪が振り下ろされて、ポワールの華奢な背中に爪痕が刻み込まれる。

 その衝撃で、彼女の小さな体は後方に大きく飛ばされた。

 雨で濡れた草原を転がされ、体が泥と血に塗れる。

 やがておもむろに腕を開いたポワールは、その中のマルベリーが無事なことを確認して安堵の息を吐いた。


「フク、ロウさん……だい、じょうぶ?」


『ポ、ポワールちゃん、どうして……』


 ポワールの方が、とても無事だとは言えない姿をしていた。

 背中の傷は深いわけではない。

 しかし今の一撃で体力を大幅に削られたのは確か。

 彼女は傷というものにも慣れていないようなので、目の端には僅かに涙が滲んでいる。

 急いで治癒魔法の詠唱式句を……


 そう思っているマルベリーの耳に、不意に他の魔術師たちの悲鳴が聞こえてくる。

 前を見ると、殺伐とした戦場に魔術師たちの鮮血が散っていた。

 これが、反魔術結社ミストラルが計画していた、魔術国家破壊のための『大災害』。

 王都に集結させた魔獣たちを凶暴化させて、弱まった魔術師たちを蹂躙する悪魔の策略。

 このままでは、ここにいる魔術師だけではなく、王都の町とそこに住んでいる人々まで……


(そんなの、絶対にダメです……)


 過去に王都で起きた魔獣侵攻の悲劇が頭の中に蘇る。

 自分の体がここにあれば、と思わずにはいられない。

 賢者マルベリーの肉体がここにあれば、この魔獣侵攻を少しくらいは遅らせることができただろうから。


(サチちゃんが過ごしているこの町を……サチちゃんが大切にしている魔術学園を、絶対に壊させたくない!)


 愛弟子サチが、友達と楽しそうに笑う光景を脳裏に浮かべて、マルベリーは強くそう思った。


 と、その時――


【ダイジョウブ、ダヨ】


(えっ……?)


 頭の中に、何者かの声が静かに鳴り響く。

 人のものとはまた違う、鈴の音に似たような、声とも言えない不可思議な声。

 ただの音色のようにも聞こえるそれは、きちんと意味のある言葉としてマルベリーの脳内で変換された。

 この不思議な感覚を、マルベリーは知っている。

 この神秘的な声を、幼い頃から幾度となく聞いている。

 

 それは、魔導師という特別な存在だけが感じ取れるという……魔素の声だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで用意周到な戦を仕掛ける程の憎悪を、愚かな至上主義者達は終息後に受け入れるのでしょうかね……
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