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第6話 買い物の帰り道

「あー嘘だろー?」


 奈々が学校に行った後の真昼、俺は冷蔵庫の中を見て唖然としていた。


 ここ数日、奈々に色々と言われたりしていたので殆ど外出をしていなかった。

 それは買い物、食料調達も例外ではない。


「あいつ……どんだけ食うんだよ。まぁ気づかなかった俺も悪いけどさぁ」


 こうなってしまった主な元凶たる水音は……


「はやとっはやとっ! ごっはんっごっはん!」


「はあ? さっき食ったばっかだろ」


 マジでふざけんなよ。今月持つか?


 俺は財布の中を確認する。


「5000……10000……」


 家賃や生活費は学校側が負担してくれるのはいいものの、15000ちょいでこいつの食費を数日間持たせられるか?


「危ないけど、ちょっと遠い値段の安いスーパーに行って買ってくるか? あ、でも水音を1人にする訳にもいかないな」


 どうしよう。連れていくとなると結構ハードだぞ。途中で水音がスライムの姿になるかも知らないし。それに1番の問題は……


「水音、お前ちょっとこれ見てみろ」


 俺は残りの食パン一切れを水音に見せる。

 すると水音は食パンを食べようと飛びついてくる。


 そう、これが1番の問題、食べ物の前だと我慢が出来ない問題だ。

 恐らくスーパーに行ったら、それがたとえ生だとしても我慢出来ずにその場で食べ出すだろう。


 俺は飛びついてくる水音を片手で止める。


「待て! 待て!」


 水音はキョトンとする。


「いいか。我慢だ。俺がよしと言うままで我慢するんだ。いいな?」


「がまん?」


「そうだ。我慢だ」


 こんな事するなんてペットかよ。


 20秒経過……


 水音は体をプルプルさせていた。

 我慢が出来ないのだろう。


 30秒経過……


 目に涙を浮かべだす。

 そこまでか。


 40秒経過……


 もう限界そうだ。


「……よし」


 ガブリ!


 水音は俺が合図をすると野獣の如く食パンに食らいついた。スライムなのに。


「うん。無理そうだな。しかもこの服装ままもな」


 流石に俺の服で出歩かせるのは周りの目が怖い。


「まずは服買って、それから買い物か」


 今月の金が消えるが、あと1週間の辛抱だ。

 そうすればまた口座に金が入る。


「水音、今から一緒に外に出かけるが、お前が外で空腹を耐えてくれれば、とびきりうまいモノ作ってやる。だから本当に頼むから、我慢してくれ」


「がまん、すれば、うまいモノ?」


「ああ」


 それを聞くと水音はやる気に満ち溢れた顔になった。


「それじゃあすぐに行くか。片道5キロ1時間掛かるからな。そこのスーパーなら格安だ。途中で服も買うから、暗くなる前に帰ってこよう」


 その後、すぐに準備をし、5キロ先のスーパー、服屋に向かった。

_____________________________________


 現在時刻夜6時……


「ま、マジかよ……」


 結局こんな時間まで掛かってしまった。

 服を買うまではよかったんだ。特に水音が暴れたりする事もなく、平和だったんだ。


 問題はスーパーだ。

 我慢が効かず、何度も何度も何度も売っている食材に手を伸ばし食べようとするものだから、毎回毎回俺が止めていたので、とても買い物に時間が掛かった。勿論周りの目は冷えきっていた。


「はやとー。おなかすいたー」


 水音が駄々を捏ねる。


「たった今帰ってるところだろ」


 俺は力の抜けた声で言う。


 それにしても、スーパー付近は外に出ている人が多かったのに、俺の家が近くなってくるに連れて、どんどん人が減っていっている。

 やっぱり、モンスターの事件で皆んな警戒して家を出てこないんだ。


 俺達も急いで帰ろう。そう思っていた時だった。


「ん? どうした水音?」


 水音が脚を止めた。

 そして周りをキョロキョロと見渡す。


「な、なんだ?」


 一体どうしたっていうんだ?

 ん? 待てよ、これって……学校で聞いたことがあるぞ。

 確か一部には危険察知能力を持っているモンスターいるんだったけか?

 もしそうだとしたら、これは……


 俺が思い出していると、辺りを見回していた水音は俺の背後に目線を集中させた。

 俺は水音が見ている所を見る。


「ッ⁉︎」


 そこには、街灯に照らされていた男がいた。

 男は大柄で、この季節には合わない分厚い服を着ていた。

 男は俺達の存在を確認すると近寄ってくる。


「な、なんですか、貴方?」


 俺は男に訊く。

 すると男は片言で返してきた。


「そいつ、たべもの、にげんより、うまい」


 歩むのは止めない。


 なんだこの人。片言で、まるで水音みたいだ……って、待てよ。水音みたい?

 そいつたべものって、水音の事か? しかもにげん、つまり人間よりうまい……まさか、こいつが、ありえない。


 俺は更に訊く。


「お前、モンスターか?」


 男は返す。それは、そいつがモンスターである事を確実にする一言であった。


「おれ、くう、そいつ、くう、にげんより、うまい、うまい、うまい」


 自分が知っている数少ない言葉しか連呼していない。確定だ。


「うまい! うまい!」


 男、いやモンスターは俺を無視し、水音に掴み掛かろうとする。


「クッ」


 俺はスルーしようとしたそのモンスターの顔面を拳で殴りつけた。

 殴られた顔面は体ごと吹き飛び、地面に頭ごと落ちる。


 こいつだ、この連続殺人の犯人は!


「水音! 逃げろ!」


 俺は水音に向かって叫ぶ。


「は、はやと?」


「俺が時間を稼ぐ、お前は助けを呼んできてくれ! 誰でもいい!」


「で、でも」


「行け!」


「……ッ!」


 水音は俺の叫びに戸惑ったものの、言う事を聞き、俺の後ろに向かって走っていく。


 武器無し。

 頼れるのは己の直感と、ちょっと良いだけの運動神経のみ。

 こんなのじゃ奴には勝てない。

 これは、あくまで時間稼ぎだ。

 水音が助けを呼んでくるまでの辛抱だ。


 俺は倒れているモンスターに向かって叫ぶ。


「来いよ化物! こっちは好きなだけ抗ってやる!」


 勿論、死ぬ気なんて一切無い!

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