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短編エッセイ

ロングセラーの定番お菓子を久しぶりに買ったらビックリするほど小さくなってた

作者: 藤見倫

 ある日、ふと目に付いた定番お菓子を久しぶりに買ってみたら、あまりに小さくなっていて衝撃を受けました。そこから色々と考えたことを、綴ります。


※本エッセイ書かれていることは、あくまで私個人の考えであり、正しいとは限りません。このことをご了承の上、お読みください。

 みんな大好きお菓子。定番となっているものは何十年と続くロングセラー商品となっています。私も幼少期には結構食べていて、今でもたまにお菓子を買うことはありますが、いつの間にかご無沙汰になっているものも少なくありません。


 そんなある日、ふと目に付いた定番お菓子を「懐かしいな」と思い買いました(商品名は伏せますがクッキー系です)。家に帰って袋を開けて見るとビックリ、信じられないぐらい小さくなっていたのです。決して、自分の手が大きくなったというだけではないはず・・・。


 こんな時代になってしまったかと、憂いさえ覚えました。甘いはずのクッキーを、しょっぱい気分で食べることになったのは皮肉な話です。


 小さくなったと感じたのは自分だけではないはず、と思って調べてみたら、やはり多くの方が同じことを感じていたようです。変遷もまとめられていたりして、サイズだけではなく大袋中の枚数さえも減量が進んでいたようです。こういった流れは、「ステルス値上げ」や「隠れ値上げ」、「シュリンクフレーション」と呼ばれたりしています。


 このようになってしまった要因として、以下の2点が挙げられています。


 ・材料費の高騰

 ・機械の高精度化によるバラツキ低減


 前者は直感的に分かると思うので、まず後者について考えてみましょう。機械の高精度化でバラツキが減った時に商品の平均サイズが小さくなることは、起こり得ます。どんな場合に起こるかと言うと、「最低でも1個当たり〇グラム以上は保証します」と公言されている場合です。


 例えば、1個当たり15グラムが保証されているとしましょう。そして仮に、昔の機械は±1グラムのバラツキが出るのに対して今の機械は±0.5グラムで済むとしましょう。

 昔ならば、15グラムを保証するには16グラム狙いで作る必要がありました。しかし今の機械は、15.5グラム狙いでやっても15グラムが保証できるのです。


 機械で物を量産すると、バラツキの大きな機械で作ったとしても、完成品の平均値は「〇グラム狙い」の「〇グラム」になります。

 つまり昔の機械だと、パッケージに「15グラム」と書いてあっても平均は16グラムで、今の機械だと平均15.5グラムになります。なので、材料費の高騰とは関係なく、機械の精度が上がればクッキーのサイズは小さくなります。


 精度が上がっても商品のパッケージに書いてあるのは「15グラム×10個」です。消費者の立場からすれば、15グラムと書いてあって14.5グラムのが紛れてたら怒りますよね。なので、15グラムという最低ラインを守る範囲で工場の機械を動かします。(稀に15グラムを切るのも出ますが不良品か規格外として捨てます)


 「バラツキが0.5グラムになったのなら最低ラインを15.5グラムにすればいいのでは?」と思うかも知れませんが、製造業がそのような判断を取る可能性は低いです。


 仮に、機械の精度向上で 16±1グラム が 16±0.5グラム になったとしましょう。すると、「15グラム×10個」を「15.5グラム×10個」に変えることができます。

 しかしこれは、16グラム平均で作っていることは変わらなくても、商品仕様上は「内容量増加」に相当します。明確な仕様変更です。「150グラム入り」が「155グラム入り」になったのなら、普通、値段が上がりますよね。値上げしない代わりに「15グラム×10個」をキープして 15.5±0.5グラム で作るのです。


 じゃあ何のために高精度の機械を入れたんだよという話になりますね。16±1グラム が 15.5±0.5グラム になったのなら、材料コストを減らした上で「1個当たり最低15グラム」を確保できるのだから、消費者が喜ぶ方向(つまり値下げ)に舵を切ってくれよと思いますよね。しかし、そうはならないのです。これは、高精度の機械を入れる理由が、利益率の向上にあるためです。


 機械の精度が上がるということは、設備投資をしており、お金が掛かります。何億、何十億という額になってくるでしょう。

 これを回収するには、商品1個当たり利益率を上げるしかありません。せっかく設備投資して材料コストを減らしたのに、値下げして利益率を横ばいにしたのでは、設備投資した意味がありません。お金の使い損です。「1個当たり最低15グラム」さえ守れば商品としては問題ないのですから、本来上げられるはずの利益率をわざわざ削ってまで消費者に還元するというのは、有り得ないと言ってもいいでしょう。

 どれくらい有り得ないかというと、アパートの大家さんが「収益が良いから家賃下げるよ!」と言うぐらいには有り得ません。


 それでもやっぱり、ちょっとは消費者に還元して欲しいとは思うでしょう。材料コスト削減の恩恵を全て利益に乗せるのではなく、8:2ぐらいでも消費者に還元するようにすれば、ちょっとぐらいは値下げすることも可能です。先ほどは「有り得ない」と言ってしまいましたが、実際にそうする企業もゼロではないでしょう。


 しかし企業も、特に上場企業は、株主に対するメンツを保たなければなりません。商品1個当たりの利益率を削ってまで消費者に還元するという行いを快く思わない株主もいるでしょう。

 その行いを公言しなくても、最終的には決算報告の「会社としての営業利益率」に乗るので、そこの数字が低いと株主から見放されます。最悪の場合は、資金繰りができなくなって潰れます。極端な例えですが、コスト削減を消費者に還元する企業があったとしても全部潰れてしまえば「有り得ない」が現実になりますよね。


 「でも消費者をないがしろにしたらそれで潰れるんじゃ?」と思うかも知れません。しかし現実として、消費者よりも株主を大切にした方が経営が安定するのでしょう。でなければ、こうはなりません。従業員への福利を削ってまで目標利益を達成しようとする企業さえもあります。


 コスト削減によって上がった利益が消費者どころか従業員にも行かずどこに行っているかというと、株主です。株を持っていると、融資のお礼として「配当金」がプレゼントされます。ガチお金です。配当金額を上げると多くの人が株を買ってくれるので、それに充てる利益が必要になります。たくさん株を買ってくれるお金持ちのご機嫌を、損ねたくないのですね。


 お金持ちのご機嫌を損ねないために庶民に負担を強いるのは、古くからあることです。会社経営と政治を同一視できるかは微妙ですが、市民ばかり優遇して貴族の恩恵を減らすような政治家は、即座に失脚してきたことでしょう。あるいは、権力を手にする前に潰されます。

 なので、市民に優しい人物はトップには立てません。あまりに酷くなると歴史上は革命が起きていますが、さすがにそれは権力者たちも嫌なので、現代ではそうならないようバランスが取られているものと思われます。現に、刑務所行きを覚悟してまで多くの人が立ち上がる状況には、なっていません。


 少し話が逸れてしまいましたが、とにかく株主のご機嫌を損ねたくないので利益率を上げたいのですね。そのためには、コスト競争力の強化が欠かせません。最低15グラム保証という前提に立った場合、16±1グラム のクッキーと 15.5±0.5グラム のクッキーとでは、前者の方が明らかにコスト競争力の低い商品となります。利益率を上げるには、後者を採用するしかありません。


 また少し脱線しますが、これは小説でも言えることで、似た舞台設定の作品が多い状態となっていますが、これもコスト至上主義の波が押し寄せた結果と言ってもいいでしょう。

 よりよい作品を作るには舞台設定やシナリオを緻密に練り込む必要がありますが、作るのに時間が掛かるのでコスト競争力は低いです。出版社がどのようなコスト管理をしているかは知りませんが、緻密に練り込まれた作品というのはポンポン作り出せるものではなく数が取れないので、商売には不向きです。


 作家の立場からしても、作るのに時間が掛かるというのは死活問題でしょう。締切には追われるし、そもそも自身の生活自体にお金が掛かるのですから、作るのに時間が掛かるのは「製造コストの上昇」を意味します。

 しかし小説は、どんなに質の良いものでもページ数が同じなら価格はあまり変わりません。なので改めて言いますが、緻密に練り込まれた作品というのは「コスト競争力の低い商品」そのものです。


 かと言って、質が良い小説のページ単価を高くするシステムを敷いた場合、ビミョーな作品の価格設定を高くして「これは高いから良作だ」と思わせて買わせる作戦が横行しそうなので、一概にそうした方がいいとは言えません。


 しかも小説の良し悪しは、個々人の感覚によるところが大きいです。数値で性能を表せる工業製品のような「質の良いものは高く」というシステムにはしづらいでしょう。

 ただ、小説と同様に質の数値化が困難なはずのお菓子や食料品は、美味しいものはグラム単価が高い傾向にあるので、やはり小説も、良作はページ単価が高いという風になるのが健全なのではないかと思っています。


 しかし、質の良いものを高い値段で販売できればそれで万事解決かと言うと、そうでもありません。質の良いものを作ることにこだわり過ぎて廉価商品に負けたというのは、工業の世界において日本企業が失敗してきたことそのものです。

 工業に馴染みのない方にも分かりやすい例えをするのが難しいのですが、百均に人が集まる一方で百貨店は閑古鳥、みたいなものです。


 では、質の良いものを安く売ることにしたら? 「質の良いもの」は製造コストが高いので収益が悪くなります。すると、経営が立ち行かなくなるでしょう。会社を存続させるには撤退するしかなくなります。


 とにもかくにも安いものの方が売れる時代になりました。そんな中で生き残るにはコスト競争力の強化しかありません。そして利益は、消費者よりも株主に還元した方が企業経営が安定するようで、その結果が「機械の精度が上がったことでお菓子が小さくなる」です。悲しい世の中ですね。まだそのお菓子が残っているのですが、個包装の袋を開けて実物を見るたびに悲しい気分になります。



 続いて、お菓子が小さくなったもう1つの要因、材料費の高騰についても少し考えてみましょう。


 材料費高騰の原因は、収穫量減少や政治的な事情などがありますが、1つはインフレです。「日本はデフレまっしぐらじゃん」と思うかも知れませんが、海外がインフレなら輸入に頼っている小麦や乳製品は不作に見舞われなくても値段が上がります。

 コスト競争の話も関わってきますが、インフレが進むと肥料や耕作機械の燃料代が高くなるので、農作物も製造コストが上昇し、価格を上げざるを得なくなります。



 しかし日本はデフレなので、私たちの収入は減ります。なんということでしょう!



 なぜ日本はデフレ続きなのかというと、よく分かりません。人を疑うような見方になりますが、経済や政治のプロが揃いも揃って「インフレにしたいけど上手くいかないゴメン☆」では冗談にならないので、狙ってやってるんじゃないですかね。

 こんなことを言ってると「こっちだって一生懸命やってるんだ!」と怒られてしまいそうですが、残念ながら私は「デフレが解決していない」という結果しか見ていません。こっちだって、結果が出なければ仕事がなくなる日々を過ごしてるんですから。


 さて、私たちの懐が寂しい原因はデフレなのですが、日本がインフレを迎えたところでそれが私たちに還元される保証はどこにもありません。なぜなら、前半で話した通り、企業の利益は消費者でも従業員でもなく、株主に還元されるためです。


 つまり、経済成長の恩恵を受けるには、株を買うしかありません。しかし、安易に手を出せば大損することになるでしょう。

 あれは、多くの資金を持っている人が有利なものです。自分が100株買ったものを金持ちが5000株売ったら株価は下がり、取り戻すには買い足す必要がありますが、資金がなければそれはできません。そしてあなたが諦めて売り捨てる頃に、金持ちはそれを買うのです。もちろん、爆買いによって株価を吊り上げて行きます。あなたが手放した後で。

 これが正しい例えかは分かりませんが、オークションで金持ちに勝てないのと似たようなものだと思ってください。それぐらいには資金力の差は不利に働きます。


 株を買わずとも、小麦やトウモロコシの価格に追従するタイプの投資商品もあるので、それを買っていれば小麦の値段が上がると自分のお金も増えるという形でカバーできます。それでもリスクはゼロではありませんが。(小麦価格が下がってもお菓子が値下げされるとは限らず、自分のお金が減るだけになる)


 考えれば考えるほど割に合わないシステムですね。小麦の値段が上がったって、手元のお金は増えますがお菓子の値段も上がりますから得にはなりません。

 だからと言って小麦価格に左右されないものに投資すると、そこで負けた上に小麦価格が上がる可能性もあります。


 しかし、金融商品への投資をしないと、海外のインフレに伴う値上げに付いて行けなくなります。で、手を出すとどうなるか。損して資産が減ります。もちろん個人でやって勝ち続ける人もいると思いますが、簡単ではないことは伝えておきます。「なんでだよ!」と叫びたくなるようなことは起こるし、暴落に巻き込まれると魂を抜かれます。簡単に勝てるのなら、今頃せっせと働いてなんかいませんからね。



 という訳で今回の結論。


・企業は安定した経営のために利益率を上げる必要があり、機械を高精度化しても値下げには繋がらず、製造バラツキが減った分だけお菓子は小さくなる


・海外のインフレで小麦は高くなるも、日本はデフレなので我々の収入は減る


・物価連動タイプの金融商品に投資すると、物価が上がると自分の資産も増えるが、物価が下がった時は資産が減る一方で企業は利益を確保したいので商品価格は下がらない


・企業の利益を還元してもらうには株を買う必要がある


・株を買うと損する可能性があり、資産が少ない人ほど不利


といったところですかね。なんだこの無理ゲー・・・。

※本エッセイ書かれていることは、あくまで私個人の考えであり、正しいとは限りません。本当に、正解はどこにあるんでしょうかね・・・。

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