殺せない死刑囚を鉄格子ごしに監視するだけの簡単なお仕事。殺せたら何でも願い叶います
――その死刑囚はすでに五度死刑を執行されている。
一度目は首吊り。死刑囚を吊った途端に縄が千切れた。用意した替えの縄も例外なく千切れた。
二度目は毒殺。どういうわけか用意された毒は尽く死刑囚にたどり着くまでに人体に全く無害なものへとすり代わり、それが三度続いたあとに死刑囚に毒を運んでいた運搬係が自分が用意していた酒を飲むと毒とすり代わっていて死んだ。
三度目は斬首。すでに二度死刑を執行されて生きていた死刑囚は衆人の眼前で首をはねられることが決まり、衆人監視の下で行われたそれは首をはねる為に降り下ろされた斧が不良品だったようで、へし折れた刃がくるくると宙を舞い執行人の首をはねとばして終わった。
四度目はギロチン。三度の死刑の執行を免れた死刑囚の公開処刑には三度目以上の見物人が集まった。万が一にも間違いが起きないようにおかしなところがないか再三に渡る確認が行われた末に行われた処刑は、刃が死刑囚の首に落とされる直前に刃を支える柱が崩れその勢いと重力に従って刃が落ちていき、死刑囚の死を今か今かと待ち望んでいた民衆の首を三つはねて終わった。
五度目は火炙り。四度の死を免れたそれは「魔女」と呼ばれ恐怖と嫌悪を抱かれた。そして、そんな死刑囚に相応しい死として与えられたそれは突如として吹いた強風により死刑囚以外のその場の全員を焼き殺して終わった。
五度目の死刑が行われたのが今から二週間ほど前のこと。死刑囚の処刑は見送られ、とある隔離空間に見張りを一人おいて監視されることが決まった。どう殺そうとしても死なないばかりか周囲に危害を撒き散らすのだから隔離して管理するしかあるまい。
ただ、それにも問題はある。五度目の死刑が執行されたのが二週間前、今日までの間に三人の監視役が死んだ。
そして、現在その監視役は――俺だ。
◇◆◇◆◇
「ねぇねぇ、見張り君」
「なんですか?」
「それなに?」
「アイアンメイデンです」
「……それなに?」
「あれ、聞こえませんでした? アイアンメイデン、鉄の処女とか言われる奴ですよ」
「なんでそんなの持ってきたの?」
「……? 貴女を殺したら報酬として何でも願いを叶えてもらえるからですけど?」
「いや、そうじゃなくて……なんでそんな重そうなのわざわざ運んできたの?」
「だって、普通に殺そうとしても貴女運が良すぎて死なないじゃないですか。あげくの果てに殺そうとした奴とか周囲に幸運でカウンターしてきますし。なんなんですか、ほんと」
「うん。それでもこの一週間殺そうとし続ける君も大概なんなのほんとって感じなんだけどね」
「それです」
「うん?」
「この一週間の失敗を踏まえて普通に殺すのは厳しいなと。だがらちょっと風変わりな殺し方をしてみたら案外意外性にやられるんじゃないかなって。今時、アイアンメイデンで人殺そうとするやつなんて稀ですからね」
「稀っていうかたぶん君しかいないよ。そもそも意外性でやられるってなに? 恋愛の話してる?」
「御託はいいから早く入ってもらっていいですか」
「え、いやだけど。なんでボクが入ること前提?」
「……?」
「違うよ? 開いてなかったから入らない訳じゃないよ? そんなこっちおいでみたいな手招きされたって入らないよ?」
「もう、ワガママですね。無理矢理入れるからいいであれなんかアイアンメイデンが倒れてきt」
「……人のことを殺そうなんてするからそういう目にあうんだよ?」
「危ない危ない。死ぬとこだった」
「……逆に今のでよく生きてたね」
「閉まる直前に針全部叩き折ったので。暗くてちょっと怖かったことを除けば無傷ですね」
「君、ほんと普段なにやってるの? 明らかに看守とかそういう枠に留まってる気がしないんだけど」
「いや、大したことはしてないですよ。しがないコソ泥です。町で財布スったりしながら生きてます」
「大したことどころかろくなことしてないね」
「最近のマイブームは彼女にいいとこ見せようとしてる男の財布をスって恥をかかせることです」
「一番恥ずかしいのは君だよ」
「さて、今日も残念ながら殺せなかったので帰りますね」
「おい、仕事しろ」