真っ黒なアヒルの子
ある日の朝、あひるの巣の中で卵が割れて、黄色いひなが次々と生まれてくる。
「があ、があ、があ、があ」
母親あひるは大喜び。しかし、その中に、体も頭も大きくてみにくい、真っ黒なあひるの子が一羽いた。
「変な子だねえ」
「一緒に遊びたくない」
兄弟たちは、真っ黒なあひるの子をいじめる。
「兄弟だから、みんな、仲良く遊んでちょうだい」
お母さんあひるはいつもそう言っている。
「嫌だ」
「僕も」
しかし、真っ黒なあひるの子と遊ぶ兄弟はおらず、真っ黒なあひるの子はいつも一人で遊んでいた。
「今日は天気がいいわね」
ある晴れた日、母親あひるは、みんなを連れて、野原に行った。 真っ黒なあひるの子はいつものように一人で遊んでいたが、いつの間にか皆とはぐれてしまった。
「お家に帰れないよう。」
真っ黒なあひるの子は、泣きながら歩いていると、
「ばーん」
突然、鉄砲の音が響いて、猟師が撃った鉄砲に当たったかもが一羽空から落ちてきた。
「こわい!」
みにくいあひるの子は、物陰に隠れてふるえていると、そこに、おばあさんが通りかかりました。
「かわいそうに、怖がっているね。でも、変わったひよこだわ」
おばあさんはそういうと、真っ黒なあひるの子を抱き上げて、緑の屋根の家に連れて帰った。 おばあさんの家には、鶏と猫がいた。
「お前、卵が産めるかい」
と鶏が聞くと、
「僕は卵を産むことができません」
真っ黒なあひるの子が答えると、猫も聞いた。
「のどをごろごろ鳴らせるか?」
「それは無理です。僕は水の上を泳いだり、潜ったりすることが、大好きなんです」
真っ黒なあひるの子が答えると、二人はつまらなそうに、向こうへ行ってしまったので、また一人で寂しく遊んでいた。 ふと空を見上げると、真っ白な白鷺たちが美しい姿で飛んでいくのが見え、
「ああ、僕もあんなにきれいだったら、誰にもいじめられないのに」
真っ黒なあひるの子はおばあさんの家を出て、川で暮らすことにした。 冬になると、冷たい雪が降り、川も凍るが、それでも、真っ黒なあひるの子はじっと我慢をして、一人で暮らしていた。 やがて、春が来て、真っ黒なあひるの子は、ふと水に映る自分の姿を見て、
「あっ」
と声を上げた。
真っ黒なあひるの子は、春になって、美しい鳥に変わっていた。
それをみた白鷺たちが近くにやってきて、
「なんて美しい羽なんだ」
みんな、真っ黒なあひるの子を褒めた。
いえ、真っ黒なあひるの子の正体は、白鷺だった。 白鷺になった真っ黒なあひるの子は、白鷺の仲間たちといつまでも楽しく暮らしたのであった。