不適合者の異世界転移
アニメオタクです。よろしくおねがいします。
俺の全てを焼き尽くす赤き炎が、すっかり日の沈んだ闇夜を明るく照らす。
「嘘だ……。嘘だ…。」
半開きになった唇の隙間から、意図せずに声が漏れ出る。
「嘘だろ!こいつ泣いてるぜ!」
「ギャハハハハハハ! 本とか人形焼かれただけで泣きやがってよぉ! マジウケるぜWW」
俺と燃え盛る俺の全てを囲むように立っている男たちが笑いながら何かを言っているが、そんなもの全く耳に入らない。
業火の中で踊っていた俺の全てが、灰と化す。だんだんと炎の勢いも弱くなり、やがて消える。
辺りに暗闇と静寂が戻る。いつの間にか奴等も帰っていたようだ。
泣き続ければ涙が乾くと言うらしいが、どうやらそれは嘘ではないらしい。先ほどまで目を濡らしていた涙が、一滴も零れることがない。
もはや原形を留めてすらいない俺の全ての前にうずくまり、誰にも聞こえぬ小さく弱々しい慟哭を上げた。
◇
いったいどうやって家に帰ってきたのか、それすら分からなかった。炭化した何かだったものをいくつか抱えながら、気づくと俺は自分の部屋の中で立ち尽くしていた。
ふと扉を叩く音が聞こえ、ようやく我に返る。
弱々しい足取りで扉に近づくと、何とかそれを開く。
「ねえお兄ちゃん、2時何かに帰ってきて何も言わないなんて。いったいどうしたのーー」
二歳下の妹が話しかけてくるが、俺の顔を見て絶句する。
「大丈夫。心配しなくていいから」と、何とか声を絞り出して言った。否、言いたかった。
ーーその日からだった、俺は三次元の人間と話せなくなったのは。
◇
「ふふふ。そうかな?」
などと戯言を吐きながら、俺は画面の向こうで笑いかけてくれる少女に笑い返す。
あれから学校には行っていない。ましてや、家の外に出てすらいない。
常に部屋のカーテンを閉め日光を遮断し、昼夜逆転生活を続けている。
「なぜ俺はこんなことになってしまったのだ?」と、ふと考えてみる。
きっかけは何だろうか、奴等にラノベを読んでいることが見つかった時からだろうか。それとも、いじめの標的にされてしまった時からだろうか。
いいや、もっと前から俺はこうなることが確定していたのだろう。
きっかけは俺のようなモテない陰キャだったら皆が体験することだろう。本当に相手にとっては些細な事。だけど俺は完璧に覚えている。目に映った光景を、話の内容の一言一句を、あの時の心の高ぶりを。
文化祭の時だった。唯一と呼べる友達が欠席してしまったために俺は一人ぼっちで、自分の所属する科学部の部室でただただ時間をつぶしていた。
”科学”部などと大層な名前がついていても、結局は俺のような帰宅部候補のような奴らの集まりである。よって何か活動をしているわけでもないため、顧問によって強制的にやらされた数個の物以外に何も置いていない。
ふと何の気まぐれか外に出ようという気分になり、部室から数歩外に出る。
廊下に出て左を向いたときに目に映ったのは、とある少女が何かポーチの様な物を落とした瞬間だった。
その刹那、俺はポーチを拾い上げ少女の肩を恐る恐る声をかける。
少女は不思議そうな顔をしながら振り返り、隣の化粧の濃い女子は汚物を見るような目でこちらを見る。
「あ、あ、あの。こ、これ……お、落としましたよ……」
テンパりながらもなんとか声を絞り出し、俺はポーチを差し出す。
化粧の女子は明らかに見下した目でこちらを睨み付ける。
やはり陰キャが人のものに触れるという行為には問題があったか。俺がそう思った瞬間ーー
「ありがとう」
言葉ではどうあがいても表せないような可愛く、美しく、可憐な笑顔を少女は見せる。
「「へ?」」
俺と化粧の女の声が重なり、また睨まれる。
少女は女子の肩を軽くたたきながら「行こっ」と透き通った声で言う。
我に返ったように「う、うん」と言った女子は少女の後に続き歩き出す。
とくん。と心臓が脈打つ。
「はぁ」と大きなため息をつきながら、俺は我に返った様に辺りを見回す。
パソコンの画面は暗転し、かなり長時間思い出に浸っていたことが分かる。慣れた手つきでパスワードを打ち込み、ロックを解除する。
「はぁ?」
そしてそこに映りこんだ画面を見て、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
そこにはでかでかと「Let's go異世界!」と書かれたタブが開かれている。
そういえば何かの記事で見たことがあるな、と思い出す。
たしか8.8888888……秒丁度にパソコンの画面が暗転すると異世界にいくチャンスが与えられるタブが開かれる。といったものだった気がする。
まさか本当だったとは。だけど本当に異世界にいくことができるなんてあるわけないだろ。と思いながら×マークにカーソルを持って行ったところで、ふとこんなことを考えてみる。
ーー異世界って二次元なのか?
はっきり言って自分でも意味不明のことである。しかし今の自分は、父親とも、母親とも、中一の妹とすら三次元の人間と話せないため、異世界に行ったらそこの住人とは会話ができるのかと考えてしまう。
ただの興味本位だった。本来ならただ×を押してタブを消すだけだが、これで本当に異世界にいけると騙されてYesを押してみるのも悪くない。
そう思いYesボタンを押した瞬間、俺の視界は眩い光に包まれた。
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