表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

- 目撃 -

高浪真美は朝6時に起きて洗面を済ませて、朝食を摂っていた。


ホカホカの白米に納豆。そしてお味噌汁。お父さんとお母さんそして中学生の弟がそろっていた。


父親は娘の成長を認めるとともに、なぜか毎日自分から離れていくような寂しさを感じていた。毎朝見るセーラー服。高校になりスカーフが臙脂色から紺色になる。中高との差はそれだが、高校生なったあたりから胸が大きくなり、セーラー服の胸部が見た目でも膨らんでいるのが分かるようになってきた。


「お父さん、また胸見たでしょ」


「あっいや・・・」


父親は答えに詰まったが、母親はそれを微笑ましく見つめていた。


テレビではニュースが流れていた。女性を狙った通り魔が増えているというニュースだった。昨日は帰宅途中の会社員が背後から刺され意識不明の重体、その前の週は下校途中の小学生が首を刺され死亡する事件が起きていた。


「お姉ちゃんも刺されないようにしないとね」


隣に座っている弟の乃輔が「ブスゥ」と言いながら、拳をわき腹に突き刺してきた。


「やめてよぉ。」


食事を終えて、食器を片付けると、玄関の姿見に立ち、髪をポニーテールにまとめて、制服を整えて靴を履いた。


「行ってきまぁす」


いつもように7時に家を出て学校に向かった。


電車の中で英単語を覚えながら、最寄り駅に降り立った。


肩にスクールかばんをさげて、ひとりで歩いていた。


この時からなんとなく嫌な予感がした。


早歩きの会社員や自転車に乗った他校の学生が通り過ぎて行った。


一人だけ男が逆向きに正面から歩いてきたのに気が付いた。


どこか正気を失っているような感じだった。通行人は迷惑そうに、その男を避けるようにして歩いていた。


ただ、男との間がどんどん迫ってくる。真美は少し左にズレたが、男はそれに合わせるように右にスライドして、真美との間を詰めてきているようだった。


怖い・・・誰なの・・・?


その男の目は自分の腹部に向けられていた。そしてポケットから何か取り出して、両手で握った。


えっ・・・


何もっているの?



その先端は自分に向けているのはわかった。


何?何?えっ、何なの・・・?


男は周りを気にすることなく私に近づいてくる。


え、ナイフ?


男が握っているのは先が尖っていてその切っ先は確かに自分の腹部を狙っている。


私は歩くのをやめた。というか、歩けなかった。


逃げられる余裕もなかった。


やだ、やだ、やめて・・・


体を後ろに引くのがやっとだった。


ザグッ・・・


鈍い音がした。


うっぅぅぅっ・・・


無意識に喉の奥から出てきた。


でも何が起きたのかわからなかった。左肩にかけていたスクールかばんが腕にずり落ちてきた。


自分と折り重なるように男が立っている。反射的に真美は両手で男の肩を捕まえていた。


何・・・?どうしたの?私・・・


男を見ると肩で大きく息をして、表情が引き攣っている。


腹部から何か抜かれていくような気がした。


間髪入れず、再びグザッと音がして自分の腹部に何かが入り込んでいるのを感じた。


男は私のお腹に何かを差し込んだに違いなかった。そしてそれをねじり込んできた。


激痛が腹部から全身を駆け巡った。


うぅぅぐぅぶぅぅぐぅぅ・・・


意識しないで出てきた。


腕にぶら下がっているスクールかばんを離し、男の腕をたどりながら、激痛が走る腹部に手を当てようとした。


掌にべっとりとした人の手がある。その拳は腹から離れていった。左手で男の腕を握り、右手で腹を抑えた。掌に生ぬるいものがじわっと広がった。目の前には血が付いたナイフを持つ男。自分の呼吸に合わせるようにドドッ、ドドッ、ドドッと掌に上書きされる生暖かい液体。


えっ・・・うそでしょ・・・


自分の視線を腹に向けると、白いはずのセーラー服は血で汚れていた。


真美は自分が刺されたのだとようやく自覚した。


目の前の男は右手に握ったナイフを上着で隠すようにして、近くの路地に走っていった。


両手で傷口を抑えるが、血がどくどく出てくる。血を吸った制服が腹にべったりとまとわりついている。


もう自力で立っていることはできなかった。膝から崩れるように地面に膝をつき、ゆっくりと前のめりに倒れこんだ。


んーーーんんーーーーうぅ・・・


体をよじりながら仰向けになり、両手で腹を押さえて身体を左右によじりながらのたうち回っていた。


きゃぁぁぁ


おい、刺されたみたいだぞ


救急車、救急車、早くっ!


いろいろな悲鳴や怒号が聞こえた。


うぅぅ・・・・んぅ・・・


両手を腹から離してしまった時、腹から腸が飛び出してきた。


私ははみ出した腸を握りながら身をよじっていた。


呼吸が緩くなってきた。浅く、静かで緩慢な呼吸に変わってきた。


やがてサイレンを響かせながら救急車が到着した。救急隊員は慣れたように私に処置を始めた。隊員がおもむろにセーラー服の腹部をめくり、「腸管脱出」とまわりの隊員に伝えた。制服の下からはみ出していたチューブのようなものは腸だったようだ。私は血塗れの制服姿のまま、ストレッチャーに移動させられて救急車は病院へと向かった。


誰にやられたかわかるか?


誰かが救急車の中で話しかけてくるが、声は出せなかったと思う。


おとこの・・・ひと・・・


伝わったかわからない。


病院についたようだった。ストレッチャーからストレッチャーに移し替えられて、手術したにつれていかれたようだ。


全身麻酔をしたのだと思う。


制服を脱がされた。


セーラー服もスカートも血で真っ赤だった。セーラー服の腹部が10センチほど裂けていた。そこを刺されたのだろう。ゴム手袋をした先生の手が私の腹の傷口から入ってきた。そこで意識は途絶えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ