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チュートリアルのためのチュートリアル

女の子主人公で、今後結構痛い目に遭います。


なので若干グロ注意です。


「もぅお姉ちゃん!?うるさーい!」

「ごめ~ん」


 隣の部屋から聞こえる、姉のゲーム実況を録音している声がうるさく、寝付けなかったのでつい怒ってしまう。


 お姉ちゃんは大学卒業後、定職には就かず、家で動画を撮ってインターネットにアップして生活費を稼いでいる。


 本来ならそれだけで食べていけるほど甘い世界ではないらしいけど、お姉ちゃんの声は身内の私でも羨ましく思う程にはかわいい声なこともあって、人気がある。


 それで広告収入とか、リスナーさんから応援(?)としてお金を送ってもらえるみたいだ。


 そんなこんなで変に人気が出てしまった為、動画投稿を止めることも難しくなり、今では毎日様々な動画を投稿して、人生を面白可笑しく謳歌している。ちょっと羨ましい。

 



 実は私もこっそりお姉ちゃんの動画を視聴している。

 とは言っても全部を見ているわけではなく、歌ってみたとか雑談動画とかだけど。

 

 でも一番人気のある動画は断トツでゲーム実況。

 私はゲームをあまりしないから見ていないけど、ゲーム動画は再生数が桁一つ違う。


 お姉ちゃんは昔からゲーム大好きだからなー。


 今の時代、ゲームのプロがテレビで活躍したり、とんでもない賞金の大会とかが開かれている程ゲームの人気は凄いけど、まだまだ女性ゲーマーは少ないみたい。


 でもお姉ちゃんは男の人顔負けのプレイスキルで、声の可愛さも相まって視聴者がとっても多いみたいだ。


 今も最近発売されたアクションゲーム(?)を、わざわざゲーム会社の許可を取って配信している。



 私はそんなお姉ちゃんを応援しているけど…時刻は深夜1時。

 こんな時間までゲームをして、しかも隣の部屋でわいわい騒ぐのはやめてほしい。


「ふぅ。眠気がどっかいっちゃった。お水飲んでこよっと」


 布団から出てリビングに向かう。


「んぐ…んぐ…ぷはぁ。明日お休みだから、耳栓でも買ってこようかな?」


 お水を飲んで、トイレにも行ってから部屋に戻る。


 結局その日は中々寝ることができなかった。




 ~翌日~


「ふわぁ………ん?もう12時!?」


 貴重なお休みの半分が過ぎ去ってしまった。

 はぁ…もう出かけるのも面倒だし、今日は家でのんびりしようかな。


 とりあえず身支度をする。

 リビングに行くとお姉ちゃんがピザを頬張っていた。


「あ!さっちゃん!おはよー!」

「お姉ちゃん。お昼からピザって…健康に悪いよ?」

「だって私、お料理できないし…」

「もう。起こしてくれたら作ったのに。…でも私も面倒だからピザ貰おっと」

「はいどーぞ!コーラもあるよ~」

「いや、せめて牛乳にしとく」


 ピザにコーラは不安だから(主に体重が)、冷蔵庫から牛乳を取り出してピザを食べる。

 お姉ちゃんは私の食べている姿をニコニコしながら見てくる。食べづらい…


「ねえねえさっちゃん。今日のご予定は?」

「もうお昼過ぎてるし、このまま家でダラダラしようかな」

「じゃあさ!後で私の部屋に来て!」

「お姉ちゃんの?いいけど」

「ホント!?それじゃあ準備して待ってる~!」

「え?ピザは!?」

「さっちゃんが全部食べていいよ~!!」


 そう言い残してお姉ちゃんが走っていなくなってしまった。

 …まだ半分以上残ってるんだけど。


 仕方ないので全部食べてからお姉ちゃんの部屋に向かう。


「うぅ…夜ご飯は抜こう…」

「あ!さっちゃん!待ってたよ~!」


 お姉ちゃんの部屋に入る。

 久々に入ったけど、相変わらずごちゃごちゃしている。

 なぜかパソコンが2台あるし、マイクも複数あるし。


 お姉ちゃんにパソコンの前の椅子を勧められたからとりあえず座る。

 パソコンはすでに起動されていて、ゲームのスタート画面が表示されている。


「それで?私に何の用なの?」

「えっとね~。視聴者さんのリクエストで、私の妹に、死にゲーの初見プレイをやってみてほしいって希望されてね~。ちょっとだけでいいからやってみない?」

「は?ヤダよ!そもそも死にゲーって何?」

「そこをどうか~!!あ、死にゲーっていうのはね。ゲームが難しすぎて、何度もゲームオーバーを繰り返さないと先に進めないゲームのことだよ~!ちなみにこれはアクションゲームね」

「余計ヤダ!」


 ただでさえアクションゲーム苦手なのに、難易度が高いゲームとかまともにできるわけがない。

 そんなやる気のない私の様子を見て、お姉ちゃんが買収にかかってきた。


「よし!ゴリィバのロイヤルミルクチョコレートドリンクを奢っちゃう!」

「!!」


 あのゴリィバの!?


 ゴリィバとは、高級チョコレート店なのだけど、そのお店ではドリンクも販売していて、これが半端なく美味しいのだ!


 ただ、美味しいだけあって値段もかなり張る。

 しかもロイヤルミルクチョコレートドリンクはその中でも群を抜いて高い。

 なんとお値段1200円也。


「ごくり…」

「しかも1時間だけでいいよ!」

「時給1200円…乗った!」


 交渉成立。


 お姉ちゃんにコントローラーを渡されたので素直に受け取る。

 パソコンのゲームなのにコントローラーが使えるんだね。


「マイクに口を近づけてしゃべってね」

「え?声入れるの?じゃあやらない」

「ロイヤルミルクチョコレートドリンク3杯!」

「くっ…仕方ない」


 そこまで言うならいいか…

 声だけなら問題ないよね?顔バレしなければ最悪大丈夫なはず…


 とにかくあまりマイクは意識しないで、せっかくの機会だからゲームを楽しもう。


 タイトルは「21グラムの世界」


 横にいるお姉ちゃんから補足が入る。


「どうして21グラムかというとね。人の魂の重さは21グラムらしいんだよ~」

「へぇ~」


 魂の重さってあるんだ。

 死んだときに21グラム軽くなるのかな?


 お姉ちゃんって豆知識だけは豊富なんだよね。

 とりあえずスタートボタンを押すと画面が暗転し、名前入力画面になった。


「さっちゃんの好きな名前にしてね~」

「好きな名前?…めんどくさいから沙羅でいいや」

「あーー!!名前言っちゃダメーー!!」

「え…?あ、収録してるんだった!!んー…じゃあサラダで」

「未来の私~!ここ絶対編集で消してね~!」

「??」

「なんでもな~い」


 よくわからないけど、進めることにする。

 サラダと入力すると、次はキャラクター作成画面に移行した。


「めんどいな~」

「さっちゃん!ここが一番動画の盛り上がりポイントだから!どんな顔でもいいけど真剣にお願い!」

「え~」


 私に面白さを求めないでほしいんだけど…

 とりあえず女性を選択して、自分の理想の女の子を目指して作成してみる。


 目を大きくして、眉毛は切れ長で、髪はロングでふんわり巻いて…ちょっとハーフっぽく。鼻の位置や顎の長さもしっかり調整。


「…うん。こんなものかな」

「すごーい!美人さんだ~!」

「ゲームってこんなに細かく顔変えられるんだね」

「最近のゲームは結構キャラメイクから凝ってるからね~」

「ふ~ん」


 納得いく顔に仕上がったので完了ボタンを押す。

 次は主人公のタイプの選択画面になった。


「タイプ?」

「そうだよ。主人公はホムンクルスっていう…人工生命体なんだよ~」

「へ~。人じゃないんだ」

「うんうん。いろんな種類があるから好きなのを選ぶといいよ~」

「どれどれ?」


 画面を見ると、5つの選択肢があった。

 しかも、その下にステータスと数字が表示されている。どうやら選んだタイプによってステータスも変化するみたいだ。


 ちなみに選択肢は…


 ~戦士~

 体力 16 

 持久 16 

 魔力 2

 速度 8

 筋力 16

 技量 6

 幸運 6


 初期アイテム

 継続回復のイヤリング

 ロングソード


 ~盗賊~

 体力 8

 持久 14

 魔力 4

 速度 20

 筋力 4

 技量 18

 幸運 2


 初期アイテム

 盗賊のイヤリング

 短刀


 ~魔法使い~

 体力 6 

 持久 6

 魔力 30

 速度 6

 筋力 4

 技量 4

 幸運 14


 初期アイテム

 魔力増幅のイヤリング

 魔法の杖


 ~ガンハンター~

 体力 12

 持久 12

 魔力 10

 速度 14

 筋力 8

 技量 8

 幸運 6


 初期アイテム

 回避のイヤリング

 短銃


 ~全裸~

 体力 30

 持久 30

 魔力 0

 速度 30

 筋力 30

 技量 5

 幸運 5


 初期アイテム

 体力増加のイヤリング

 持久増加のイヤリング

 棍棒




 え~と…どこから突っ込めばいいのやら…


「全裸タイプってなんじゃい」

「全裸タイプは上級者向けだね~!初期ステータスはかなり高く設定されてるんだけど、防具使用不可だから後半キツイんだ~。画面は常に眼福なんだけどね~」

「誰が考えたのその設定…じゃあお姉ちゃんのオススメは?」

「お姉ちゃんはね~…やっぱり戦士かな!一番生存率高いと思う~」

「そうなんだ。魔法使いは?」


 魔法ってあれだよね?火とかブワーって出したりできるヤツ。遠くから攻撃できるから強いと思うんだけど。


「強いけど、これは中級者向けかな~」

「どうして?」

「体力とかスタミナが少ないから、近づかれたり不意を打たれたらすぐに死んじゃうんだよね。このゲーム不意打ちが多いし~」

「ガンハンターは?体力もスタミナも平均的だけど」

「アクションゲームの銃ってなぜかすっごい弱いんだよね~。遠くから攻撃できるのは良いんだけど、威力が弱すぎて敵を倒すのに時間が掛かっちゃうの!」


 まぁ、遠くから、しかも強力で一方的に攻撃できる銃はゲームバランスがおかしくなっちゃうのかな。


「なるほどね。それじゃ戦士にしよっと」


 お姉ちゃんオススメの戦士を選ぶ。

 すると、画面が再度暗転し…作成した女の子が目を開ける。


 おお~。自分の作ったキャラクターが動いてる。しかもリアルだ~。

 身体の動作確認をしているサラダの前に、白衣を着たよぼよぼのおじいさんが現れる。


 マッド「遂に完成したぞ…究極のホムンクルスが!」

 マッド「まずは性能実験だな。おい…そういえば名前を考えてなかったな」

 マッド「お前の名前はサラダだ。いいな」

 サラダ「サラダ…」

 マッド「そうだ。身体は動くな?目の前にある扉を開けて中に入ってみろ」


 ~スティックで操作してください~


「もう動かせるよ~」

「あ。ほんとだ」


 コントローラーのスティックを前に倒すとサラダが歩き出した。

 博士に言われた通り、扉の前まで移動する。


 ~〇ボタンで開く~


「それにしても、サラダって名前、なんかシュールだね~」

「それ私も思った。変える?」

「面白いからオッケー!」


 お姉ちゃんが笑顔でサムズアップしてくる。

 でも途中で変更できるから、気に入らなかったらいつでも変えられるとのこと。



 扉を開けると中には一体のロボットが中央に立っていた。

 おじいさんの声が部屋の隅にある拡声器から聞こえてくる。


 マッド「サラダよ。そのロボットを倒してみろ」

 サラダ「…了解」


 ロボットが動き出した。どうやらこのロボットと戦うらしい。

 戦闘が始まる前にコントローラーの絵が出てきて、それぞれのボタンの説明が表示される。


 L3ボタンでロックオン

 □ボタンで攻撃

 ×ボタンで回避

 L1ボタンで防御


 みたいな感じで。


「情報量が多い!」

「あはは。とりあえず、このロボットは□ボタン連打すれば倒せるよ~。あと、ロックオンも忘れずにね!」

「L3?ってどこ?」

「スティックを押し込むんだよ~」

「へ~ってわかるか!」


 使うボタン多すぎ!

 とりあえず言われた通りにひたすら攻撃してたら倒せた。


 それからもいろんな種類のロボットと戦わされて、ボタンの使い方にも少し慣れてくる。

 そうしてボタンの配置も何となく理解し始めたころ、最後に巨大なロボットが現れる。


「でか!」

「ふふふ~」

「あれ…攻撃しても全然体力減らないんだけど!」


 今までと同じように巨大ロボットに攻撃するけど、全く体力が減らない。

 しかも踏み付けられて一撃でサラダが死んでしまった。その理不尽さに思わず叫んでしまう。


「はぁ!?無理でしょ!」

「これがいわゆる負けイベってやつだよさっちゃん」

「負けイベ?」

「負けることがほぼ決まってるイベントね。負けてもストーリーが進むようになってるから安心して?」

「なんでそんなの作るの…」


 訳が分からないよ…

 でもお姉ちゃんの話だと、一応この巨大ロボットもやろうと思えば倒すことができるらしい。


 具体的にはひたすら後ろに回り込んでチクチク攻撃。足を上げたらすぐに距離を取る。これを徹底すれば時間は掛かるけど誰でも倒せるらしい。

 けど、時間がもったいないからさっさと負けるのが正攻法のようだ。


 そもそも、チュートリアルに負けイベを用意してるのってやっぱりおかしくない?




 ~死亡を確認。データからキューブで再生します~

 ホムンクルス第99998121号


 そんな文字が表示され、最初の目が覚めた場所に戻った。


「お姉ちゃん」

「な~に?」

「ホムンクルス第…数字多すぎてわかないけど、この数字は何?」

「このゲーム、オンラインに繋いでいると、全世界でプレイしている人の合計ゲームオーバー数が表示されるんだよ~。もう少しで1億回ゲームオーバーになるって、この業界ではちょっとした話題になってるんだよ?」

「どの業界…」


 1億回もゲームオーバーになってるんだ。売上本数とか気になる。

 でもみんなすごいな。私なら数回死んだらゲームやりたくなると思うけど。


 そんな話をしているとロード画面が終わり、最初に目覚めた場所にサラダが戻っていた。


 おじいさんが満足げに頷いている。


 マッド「うむ。戦闘も再生も問題ないな」

 マッド「これからサラダには5つのイディアを攻略してもらう」

 マッド「なに。何度でも生き返ることができるから気楽にな」

 マッド「どのイディアから行く?」

 サラダ「…」


 危険度A「生命蠢く森の世界」

 危険度S「銃声響き渡る冬の世界」

 危険度S「死が蔓延している影の世界」

 危険度SS「竜と竜殺しの世界」

 危険度SSS「円卓騎士の世界」


 突然の選択肢。聞きなれないワード。説明不足過ぎてついていけないよ。


「お姉ちゃん!イディアとかなんのこと?あと、チュートリアルこれで終わりなの!?ちょっと説明書とか見たいよ」

「ハイ説明書」

「うす!2ページしかないの!?」

「最近のはそれくらいだよ~」


 お姉ちゃんから手渡された説明書は、チュートリアルの最初に見たコントローラーの各ボタンの割り当てしか書かれていなかった。


 もっと世界観とか、あらすじとかそういう説明を聞きたいんだけど!

 ホムンクルスってのもわけわからないし、急に選択肢出されてもやる気でないよ!


 そんな不満をお姉ちゃんにぶつけたら、笑いながらあらすじを説明してくれた。


「さっちゃん几帳面~」

「いや、当然の反応だから」

「じゃあ、ネットで見つけた推察班が書いたあらすじを読むね?ちょっと長いから頑張って!」

「うん」


 お姉ちゃんが朗読してくれる。

 



 地球の資源が枯渇し、人類は衰退した。


 死へのカウントダウンが着々と進んでいる時、ある一人の科学者が「デウスマキナ」という装置を発明した。


 デウスマキナは、魂を復元する装置。つまり、死者を蘇らせる装置だ。

 ただ、誰でも蘇生できるわけではない。


 強い魂でなければ復元は出来なかった。



 そもそも…魂は肉体の機能停止に伴って消滅する。


 しかし、強い意志を持った魂はその場に留まり続ける。

 その魂を現世に受肉させ、復元するのが「デウスマキナ」だった。



 そして…復元された魂を持つ強者、通称「イディア」を再び殺せば…スピリッドと呼ばれる特殊なアイテムを生成することが判明した。


 スピリッドは様々な効果を発揮した。

 例えば、スピリッドを使用すれば寿命を延ばしたり、身体能力を強化できる。

 のみならず、魔法という人類の夢の開発や不治の病の治療にも役に立った。



 人類はこぞって復元した魂を殺し不老不死を目指した。

 スピリッドは高額で取引されるようになり、「イディア」を狩る職業…スピリッドハンター(通称リッター)まで生まれた。


 こうして人類は再び過去の繁栄を一時取り戻した。




 しかし、デウスマキナにも欠点があった。一度復元した魂は二度と再利用できないという欠点だ。


 リッターの台頭により魂の再生よりも破壊するスピードは加速し、スピリッドの入手は困難になった。



 …そうして全ての魂は狩りつくされた。5つのイディアを除いて。


 尋常ではない5つの魂だけは数多のリッターを返り討ちにし、今なお現世に留まっていた。のみならず、リッターの魂を食らうことでその魂がいた「世界」を創った。


「生命蠢く森の世界」

「銃声響き渡る冬の世界」

「死が蔓延している影の世界」

「竜と竜殺しの世界」

「円卓騎士の世界」


 5つの世界は現存するリッターでは攻略不可能となり、放置された。


 だがその他の魂を狩りつくしてしまった人類には、もうその5つの強大な魂に縋るしかなかった。



 ではどうするのか?答えは簡単だ。

 人間では攻略ができないのなら、機械に任せればいい。

 そんな考えを基に造られたのが人工生命体ホムンクルス


 スピリッドをベースに作成されたホムンクルスはデータがあれば何度死んでも復活し、トライ&エラーを可能とした。


「こうして再び人類は5つのイディア攻略に着手する…のであった~」

「………」

「どうしたのさっちゃん?難しい顔して」

「どうしてそんなにしっかり設定を考えてるのに全く説明無しなの?」

「う~ん…アクションゲームに細かい話は必要ねえ!って人が多いんじゃないかな~」

「そんなもの?」

「そんなもの~」


 勿体ないな~。

 まぁそれでも満足する人が多いのならいいのか?


 ともかく纏めると…

 人類がピンチで、そのピンチを救うために、主人公の人工生命体ホムンクルスが頑張る!ってことかな。


「それでお姉ちゃん。どれから選べばいいの?」

「どれでも好きなところからでいいけど、最後の円卓騎士の世界だけは飛び抜けて難しいからそれ以外で~!」


 なるほど。となると無難に一番簡単そうな…


 危険度A「生命蠢く森の世界」を選択する。


「うんうん。いいと思うよ~」

「他のところを選ぶ人いるの?」

「いるよ~。難しいほうがゲットできるアイテムも強力な物が多いし」

「ああ。そういう考え方もあるのね」


 非効率的だと思うけど。やっぱり私は地道にコツコツやっていきたい。

 ってことで舞台は森の世界に。


 サラダが転送装置に入り、移動するとムービーが流れる。

 森を俯瞰で見る。壮大な景色だ。


「綺麗だね。本物みたい」

「グラフィック綺麗だよね~。最近はこのレベルじゃないと叩かれるけどね~」

「これで水準ってこと?最近のゲームすごー」


 本当に実写みたいだ。

 

 ムービーが終わり、森の入り口に転送されたサラダが周りを見渡す。


 入り口は白い霧がかかっていて画面が見えづらい。

 するとおじいさんの声が聞こえてくる。


 マッド「無事に転送は成功したようだな」

 マッド「そこは白い霧がかかっているだろう」

 マッド「イディアでは再現しきれていない空間。【エアポケット】と我々は呼んでいる。そこは敵が侵入してこない安全地帯だ」

 マッド「【エアポケット】を見つけたら必ずキューブを設置してくれ。そこが拠点となるからな」

 マッド「試しに設置してみろ」


 ~〇ボタンでキューブの設置~


「エアポケット?キューブ?」

「つまりセーブポイントだね~。あとキューブの前で〇ボタンを押したら、買い物したりレベルアップしたりできるよ。敵を倒してスピリッドを貯めないといけないけどね~」

「なるほど」


 早速キューブを置いて〇ボタンを押してみる。すると画面が切り替わり、アイテム購入画面になった。


 ただ、右下が0Sとなっているため、どれも買うことができない。

 Sはスピリッドの頭文字だろう。


 レベル上げの画面もあったっけど、同様に0Sのせいか何もできなかった。

 どうやらレベル上げも買い物もすべてスピリッドでやり取りするようだ。


「何もできないね」

「そうだね!先に進も~」

「わかった」


 前に進んで、白い霧…エアポケットを抜ける。

 すると緑あふれる森のフィールドに出た。


「おお。ちょっとワクワクするかも」

「でしょ~」

「ん?あれ…宝箱じゃない?」

「んふふ~」


 視界の端に宝箱を偶然見つけることができた。木陰に隠れていて、気づけたのは偶々だ。思わず嬉しくなる。お姉ちゃんもニコニコしてるし。


「これは幸先いいかも!」

「開けちゃう?」

「そうだね」


 宝箱の前まで移動して〇ボタンを押す。

 序盤も序盤だし、良いアイテムではないのだろう。でも見つけづらそうな位置にあったし、ひょっとするかも…?


 そんな期待を胸に画面を見ていると…突然宝箱に足が生え、歯が生え、サラダが宝箱に飲み込まれた。


 いきなりのゲームオーバーに唖然とする。


「………」

「……ぷぷ」

「は?え?ゲームオーバー?」

「さっちゃん見事に初見殺しに嵌まったね~」

「いやいや、子供トラウマになるわ!クソゲーじゃん!」

「宝箱はね~。基本攻撃してから開いたほうがいいよ~」

「先に言ってよ!」


 くっそ~。だからお姉ちゃんニコニコしてたんか!

 完全に騙された…!


 こんな意地悪なゲーム続けられるんだろうか?

 画面はゲームオーバーの画面に変わっている。あ。数字がピッタリ一億だ。


 ~死亡を確認。データからキューブで再生します~

 ホムンクルス第100000000号


 追記 1億回の死亡を確認。おめでとうございます。プレイヤーをゲーム世界に招待します。

 



 そんな画面を見ていると………

 

 私の意識は無くなった。


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