5.
コハクから聞いた事をもう一度確かめたくて何度か中庭で再び1人になる機会は無いかと探ってみたものの、私が倒れて以来なかなか1人にさせてもらえることはなく確認もできないままだった。それでも諦めることはできなくてあの日から一週間経ったある日私は計画を実行することにした。
みんなが寝静まったであろう深夜2時、私はこっそりと部屋を抜け出した。屋敷の中は真っ暗だったがコハクの光のおかげでなんとか中庭までたどり着くことができた。するとそこは暗闇な中に色とりどりの光の玉が輝く幻想的な空間になっていた。昼間の明るいうちには気づかなかったが桜の木も薄っすらと桃色に輝いており、他にも初めてみる銀色の光などもあった。その中でも一際明るく輝いていた深緑色の光に手を差し出した。
「こんにちは優しく輝く妖精さん。あなたの名前はルーシカよ。」
すると再び前回と同じように光の玉が人型に変わった。
「こんにちは僕らの芽吹きの女神様。ジュノー。」
ジュノー?私の真名はユノのはずだけどジュノーとはなんのことやら。そのことを2人に尋ねてみると。
「ユノもジュノーもどちらもあなた、ある人はユノと呼び、ある人はジュノーと呼ぶ。」
と、なんともよくわからない言葉が返ってきた。そおいうものなのだろうと思うことにする。
そして前回と同じように再び強い眠気に襲われまたしても倒れ込んでしまった。
眼を覚ますと、まず目の前を漂っていたコハクとルーシカが目に入り、そして涙を浮かべるルゥの顔が目に入った。
「ルル…良かった。目覚めてくれた。」
そう呟き抱きついてきた。
流石にかなり心配をかけてしまったらしくルゥの気がすむまでそのままにしていた。
「ルルがこのまま目覚めないんじゃないかって、どこか遠くへ行ってしまうような気がしてすごく怖かった。目覚めてくれて本当にありがとう。ルル…どこにも行かないで、僕の側にずっといてくれるって約束して。」
涙ながらにそう言われ、今更自分のしてしまったことに気がついた。
「ルゥ泣かないで、私はここにいるよ。ルゥの側にずっといるから、泣かないで。本当にごめんなさい。」
その後お母様もやってきて体調を確認した後何があったのか尋ねられ、夜中に目が覚めどうしても大好きな中庭の桜を見たくなり、部屋を抜け出してしまった。と告げると、流石に今回の件についてはお叱りを受けてしまった。
「いくら大好きなラチュリアの木が見たいからと言って、淑女が深夜に部屋を抜け出してはいけません。お母様を始めルゥや使用人達もみんなあなたの事をとっても心配したのよ。
それでもどうしても部屋を出たいと言うのなら、せめて次からは誰か使用人をお呼びなさい。あなたが1人で中庭に倒れていたと聞いた時は、、心臓が止まるかと思いました。お願いだからもう無茶なことはしないで。」
涙を浮かべそう言ったお母様にもうこのようなことはやめようと誓ったのだった。
とは言え妖精たちとお話するくらいならいいだろうと、その日の夜みんなが寝静まった頃、2人とお話をすることにした。
まず夜の中庭で感じた光の玉の光り方に強弱があることについて尋ねてみるとそれは力の強さの違いなのだとか。そして次に妖精に名を与えると強い眠気に襲われることに関して尋ねるとそれは魔力不足のせいとのことだった。
どうやら妖精をこの世に生み出す行為にはとんでもない量の魔力が必要で、一般的な魔法使いですら自分の元に妖精を集める行為だけで死の危険すらあるほどの魔力を消費するらしく、そもそもそんなことはいくら魔力が多かろうと普通はできないらしい。ではなぜ私には妖精たちを生み出すことができるのかと言うと2人に口を揃えて、
「「それはユノ(ジュノー)が私たちの(僕達の)女神様だから」」
と何ともよくわからない答えが返ってきた。もう少し詳しくそこのところについて尋ねてみたところ、私からは普段から体の中に内包しきれなくなった魔力が溢れているらしく、それ自体については魔力量が多い者達には時々見られる現象のようなのだが、私は特にその量が多い。そして妖精たちはその私の魔力が大好きなんだとか、しかし力のない妖精が私に近づくと魔力の濃さに存在自体が消滅してしまうらしい。
それを聞きそう言えば昔自分の部屋で光の玉を触ろうと手を伸ばしたら途端に消えて無くなってしまったことを思い出した。
妖精を生み出すたびに私は魔力不足になって倒れてしまうのか聞いてみた。
「ユノが望むなら、なんだってできるの。私たちはあなたの眷属。」
「ジュノーのために僕達は周りから魔力を集められるよ。」
周りから魔力を集めてしまって何か周りに問題はないのか尋ねたところそれは大丈夫との事だった。なんでもそれは海からバケツに水を汲むようなもので、また妖精達は世界の一部でもあるためそんなに問題はないのだとか。
最後に何とか声に出さずに妖精達と会話する方法はないのか尋ねて見たところ、
「ユノが望めば私たちはそれに答える。私たちはあなたの眷属なのだから。」
「ジュノーが僕らとの会話を望んで頭の中でお話をすれば、それは僕らに伝わるから声に出す必要はないよ。僕達はジュノーの眷属だからいつだってどこにいたって、ジュノーの想いを汲み取ることができる。そもそも僕達妖精は人の想いに敏感な存在なんだ。」
そおいう訳でこれからはもっと気を遣わずに妖精達と会話ができそうだ。