4. 中庭
「こんにちはユノ、私達の光の女神様。私を生み出してくれてありがとう。」
絵本の中から飛び出してきたような、琥珀の輝きを放つ妖精は、歌うように告げると、私の周りをくるくる飛び回り始めた。この5年間、大抵のことには驚かなくなっていた私だが、流石にこれには目を丸くした。
因みにこの国では子供が生まれると教会にて洗礼を受ける。その際に通常使用する名前とは別に“真名”を授かるのだがユノは私の真名である。神官様によるとなんでも真名は神様が授けてくれたものらしい。
まるでファンタジーな出来事にここが私が元置いた世界とは全く異なる世界であることを再認識した。
と、急に強い眠気に襲われそのまま意識を離してしまった。
目がさめると、目の前に先ほどの妖精が浮かんでいて、心配そうにこちらを覗き込んでいた。
また、私が目覚めたことに気がついたルゥもすかさず私の顔を覗き込んできた。
「ルル具合はどうだい?どこか痛いところはある?それとも何か食べ物を用意してもらおうか?」
どうやらルゥには心配をかけてしまったらしく、私が倒れてからルゥはずっと私のそばにいたとの事だった。使用人が持ってきてくれたお粥のような物をルゥに食べさせてもらいながら聞いた話によると、
あの時中庭の外から私の事を見守っていた使用人が私が倒れたのを見て急いで部屋に運び、お医者様を呼んび、診察してもらったりと大騒動になっていたらしい。私としてはすごく眠くて思わず眠ってしまったくらいの感覚だったので大変申し訳なく思った。
お医者さんの見立てでもどこにも異常はなく、いたって健康であり、今は眠っているだけとの事だったが、ルゥは私のことが心配で側を離れることができなかったらしかった。
しばらくするとお母様もやってきて具合を確認したり、少しお話をした。私が眠っている間にどうやら深夜になっていたらしかった。
「今日はもう遅いし、それにルルだってまだ疲れているだろうからあなたたちはそろそろおやすみなさい。」
初めは私のことが心配だから今日は一緒に寝ると言いはっていたルゥだったが流石のルゥもお母様には敵わず最後には折れて自分の部屋に戻って行った。
それから私もそろそろ寝るからとみんなが部屋から出て行った後、改めてずっと側を漂っていた妖精に向き合った。
「こんにちはあなたのお名前はなぁに?あなたは妖精なの?」
「私の名前はコハク。あなたがくれた素敵な名前。私は光の精。」
私がこの子に名前をつけた?
確かにあの時光の玉に向かって琥珀さんと呼びかけたがそのことだろうか?
聞きたいことが山ほどあるがこの子はあまりたくさん語ってくれる気は無いようだし、一つずつこちらから聞いていくことにした。
それによると、どうやらいつも見えている光の玉はみんな妖精なんだそうで、基本的には意思はないのだが、私が名前を授けたことでこの世界に生まれてきた?らしい。ルゥやお母様達の様子からも、基本的に妖精たちのことは誰にも見えないそうで、今の彼女の姿も認識することができるのは私だけだろうとの事だった。
「あなたはいつまで私の側にいてくれるの?」
「あなたが望む限りいつまでも。だってあなたは私達の女神様。」
最後のセリフはよく分からないがすっと一緒にいてくれるとの事だったので今日のところはここまでにして私も眠りにつくことにした。