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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第五四話 運命の投票日、です!


 一体どこで間違えたのだろう。

 

 一体なにを間違えたのだろう。

 

 一体どうして間違えたのだろう。

 

 手元の無線機から垂れ流される支離滅裂で意味不明な、そして阿鼻叫喚と化した報告の数々をぼんやりとした顔で聞き流している男――保守党指揮下の準軍事組織たる青年自由同盟現場指揮官であるところのテープ=ファーカイト――は、そんなことを思っていた。


(作戦は完璧……とまでは言わないでも、少なくとも隙のないものだったはずだ。敵の増援も予想していなかったわけではない。それを加味しても、今頃我々は劇場内に突入し、あの党首の首を取っていたはずだ。それなのになぜ……)


 指揮系統が混乱し、いかなる命令も届かなくなった状況の中でもどうにか状況を立て直すべく、ファーカイトは手近な部下に劇場内への突入中止の連絡をするように命じながら、そんなことを考えた。


『こちら劇場前! 敵の反撃が激しすぎる! 撤退は困難! 繰り返す! 撤退は困難! 少しでも退けばすぐに追撃され、我が部隊は壊滅する!』

「どうにか撤退してくれ! 間もなく敵が外から押し寄せてくるんだ! そうなれば全部隊が壊滅する!」

『無理なものは無理だ! いい加減にしてくれ!』


 ようやく連絡が通じたものの、もはやまともな交信は不可能であった。


(本当に、……どこで間違えたんだろうな……)


<与野党連合兵士諸君に告ぐ! 繰り返す、与野党連合兵士諸君に告ぐ! 君たちは我々統一レグリア国民防衛隊により完全に包囲されている! これ以上の抵抗は無駄である! 速やかに武装を解除し、投降せよ! 繰り返す! 君たちは完全に包囲されている! 諸君らにはもはや何らの勝ち目もない! 速やかに武器を捨て、投降せよ! 繰り返す……>


 劇場の外からは、国民防衛隊による大音量の降伏勧告が響いていた。勝ち誇るかのような自信に満ちた声音に、ファーカイトやその周りの部下たちは苦々しい表情を浮かべるしかなかった。


(……最初から、間違えていたのかもしれないな……)


<敷地外の諸君らの仲間は全員降伏した! 繰り返す! 君たちの仲間はもういない! 君たちに勝機はないんだ! これ以上無駄な犠牲を増やすな!>


『こちら劇場前! やはり撤退はできない! そっちはそっちで何とかしてくれ! こっちももう持ちそうにない! あと十分もしないうちに突破される!』


<我らは間もなく突入を開始する! 降伏しないのであれば、我々は容赦しない! いかなる犠牲を伴ってでも、諸君らを殲滅する! 直ちに決断せよ! 我々は間もなく突入する!>


「隊長! いかがいたしますか!」

「…………」


 ファーカイトは少しの間目を瞑る。眉間を指で揉み、もう片方の手を腰に添える。結論は既に決まっていたが、それを口にするのはやはり少しだけ憚られた。しかし、指揮官であるところの自分が言わない限り、誰もどうすることもできない。ファーカイトはゆっくりとその決意を固めていた。


「隊長!」

「…………。我々は、…………降伏する。誰か、白旗を掲げろ。この戦いは、我々の負けだ」




「……さて、諸君。私はこれまでの話の中で、我が党が国民に対して提示することのできる全ての政策を語ったつもりである。我々が政権を執ることができたのならば、その次の瞬間からそれら政策の達成に全力を注ぐことになるだろう。我々に与えられた長くない期間の中で、我々は全ての精力を尽くし、それらの遂行をすることを約束しよう。


 しかし! しかし諸君! 私は、我々は、決して諸君らに嘘を言ったり、誤魔化すことはしない! 我々はいかなる時であっても決して、国民に口先だけの甘い言葉を投げかけたりはしない! その上で私は敢えて言う! 我々は、その掲げる全ての政策を自らの能力のみで達成できるなどとは毛頭にも思っていない。私は、我が国が、我ら国民が今のままで再び世界一級の国家へと舞い戻ることができるなどとは決して約束しない。それらは、国民自らが、諸君ら自らが、全力努力し、尽くすべきものであるのだ! 繁栄と幸福は、決して突然天から降ってくることはないのだ!


 全ては、全ては我らの意志と行動にのみかかっているのだ!


 他の助けを待っていてはならない! 我が国家、我が国民以外から助けをよんではならない! 我々に憐れみをもって、無条件で手を差し伸べてくれる者などこの地上にはどこにもないのだ!


 我々の未来は、我々自身の心のうちにのみ存在するのである! 我々の未来は、運命は、決して他の国家や民族によって与えられるものであってはならないのである!


 我々が、我々自身が、その努力と決意と誇りと忍耐によって、我が国を繁栄させるのだ! そうすることによってはじめて、我々は我が国を興した祖先と同じ高みに至ることができるのである!


 我が祖先は、何もしないままに我らが偉大なる国家を手に入れたのではない! 自らの力で、自らの血と汗で造り上げたのである! 我々もまた、その血と汗を以て再び栄光ある歴史を築き上げようではないか!」


 もはや当然のように、劇場の観衆全てから大歓声と割れんばかりの拍手が上がる。間もなく迎えるであろう終幕を前に、その勢いはとどまるところを知らなかった。全ての観衆が、熱狂的な信徒のように、教祖であるところのザーグハルト=ブライフの発する一言一言を、神から授かりし言葉が如くに聞き賜う。


「諸君がもし、私を、我が党を選ぶのであれば、私は、我々は必ず諸君らを、我が国家を、世界一級の国家と国民にすべく奮闘することだろう! 我々は我々の給与や賞与、名誉や栄誉のために行動するのではない。ただただ諸君のためにのみ、諸君の幸福で栄光に満ちた日々のためにのみ行動するのである! 諸君! 諸君の全ての力を我らと国家へ捧げよ! さすれば、我が国家と民族の繁栄は約束される!」


 王都中心部にまで届くのではないかというほどの、凄まじい拍手と歓声が上がる。既に陽は落ち、夜の帳が下りる頃ではあるが、巨大な照明に照らされた劇場内は、未だ真昼であるかのように光り輝いている。そんな光を一身に受けるブライフは、数分の間、耳をつんざくかのような拍手と歓声に、やり遂げたような笑顔を浮かべながら、手を振った。


 やがてブライフが壇上から降り姿を消した後も、拍手と歓声はしばらくの間続いたのであった。




 一六三一年六月十一日。


 センペルヴィエント連合王国は、遂に王国議会選挙の期日を迎えた。王国全土の数千万人もの有権者が、国家の命運を託す者を、政党を決定すべく、投票を行う。この日は晴天で、特に大きなアクシデント等もなく、投票はつつがなく行われることが予想された。


 俺たちは、予定された全ての選挙運動を昨日中になんとか終わらせると、始まりの街と言っても差し支えない街、リモ・トルトの選挙事務所にて、のんびりとした時間を過ごしていた。


「いやあ、いよいよ投票日になってしまいましたね。長いようで……いや、普通に長い選挙期間でした」

「ああ、そうだな。別に短い感じはないな。とにかく、色々なことがあった」

「はいぃ。もう選挙は正直こりごりですぅ……」

「私もです……。いえ、私は皆さんと一緒に活動したわけではありませんけどね? なんやかんやで色々やることがあって大変でした」

「いやいや、この選挙運動の六割くらいはファーナリアの活躍で占められている気がするからな。そんな謙遜しなくても大丈夫だぞ?」

「ええ、これほどまでの物資やら資金を用意してくれて、本当に助かりました」

「なんならぁ、六割と言わず七割くらいファナちゃんのおかげですよぉ」

「えへへ……、ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」


 そんな感じで、ひとしきりお互いの労をねぎらった。


「にしても、あの演説会は大変でしたね……」

「ああ、そうみたいだな。俺は演説してただけだから何とも言えないが、皆本当によく頑張ってくれたよ。予想されていたこととは言え、俺も生で見るとなかなかのものだった……」


 国民防衛隊の増援到着により、与野党連合による一大襲撃作戦は完全な失敗に終わった。増援到着後、戦闘を継続していたほとんどの与野党連合部隊は抵抗を中止し、投降した。残った兵士も残らず制圧され、生存者は、なんやかんやでようやく重い腰を上げた警察に全て引き渡された。


 それはそれで、まあ一件落着ということで良かったのだが、問題はその後処理である。


 双方合わせて一万人以上の死傷者を出すに至ったあの劇場――ツーリュック六世記念大劇場――は、演説終了後、その内部以外はどこも死体と死臭で覆い尽くされた。何しろ、もう季節は夏に近づいているのである。劇場の敷地内外を問わず、また建物の内外を問わず数えきれないほどの死体が転がり、そこかしこに鮮血が吹きつけられ、それらから鼻を破壊するほどの猛烈な臭気が発生していた。


 戦闘員であればともかく、戦闘経験のない、日常生活において死に触れることがあまりない一般市民にとり、この光景はさぞ衝撃的で、吐瀉物を撒き散らすに足る光景であろうことは、俺たちを含む関係者の間で大きな問題となった。


 演説が終わってしばらくは、どの観客も感嘆に震え、なかなか劇場から出ようとはしなかったのだが、十分ほど経つと、退場の案内がなされないことに気づき、不審の声を上げる者が多くなり始めた。俺たちは、どうにかそんな観客を押しとどめつつ、良い感じに観客をこの劇場から退去させる方策を練った。


 結論から言えば、それはあっさりと見つかった。即ち、党員の一人が劇場内をふらふらと散歩していた時に偶然発見するに至った、劇場の内部と劇場外を結ぶ隠された通路を使おうというものであった。隠された、と言うわりには、横幅が十メートル弱で、高さも三メートル程度と、そこそこの大きさの通路であったが、まあこれでともかく、数万人の観客を、平和的に帰宅させることができることになったのだった。


 まあ、その間も少なくない数のトラブルがあったし、あったらしいのだが、まあそれは特に語る程のものでも無いだろう。死んだ人はいないみたいだし。


「あの日の夜は、流石の我々でも打ち上げができませんでしたからね。本当に大変でした……」

「まあ翌日に盛大にやりましたけどねぇ。どこかのお嬢さんが全裸になりかけたときはどうしようかと思いましたよぉ」

「……もうそれは忘れてくれて良いんじゃない……?」

「あはは……」


 俺は幸か不幸か、お手洗いに行っていてその光景を見ることはなかった。まあ別に良いのだけれど。


「そういえば、あの時のことは映像に記録しておいてもらったらしいな。ちょっとだけみたけど、良く撮れていたよ」

「本当ですか? それは良かったです。あ、そういえば、あの後、一応ラジオ局や新聞社を回ってあの映像を報道に使ってもらえないか掛け合ってみたんですけど、幾つかの局や社はあれを使って良い感じに報道してくれたみたいですよ?」

「ああ、誰かから聞いたよ。よくやってくれたな」

「いえいえ、それが仕事ですし」


 あの演説の後も、まだ支持基盤の弱い選挙区を駆けずり回り、喉が枯れるまで演説をしたり、挨拶回りをしたりで、新聞を読んだりラジオを聞く時間がなかなか取れなかったのだが、それでも少しだけ読んだり聞いたりした範囲では、ミュリア達の撮った映像をもとにそこそこ克明な報道がなされていたようで、与野党連合の非道とそれに立ち向かう国民運動的な構図の報道がなされていたようだった。噂によれば、そのために与野党に少なからず批判が集まり、先の一時的な活動停止で減ったと思われる票が戻ってきた気がする選挙区もあったとのことだった。


 映像による宣伝が一定の効果を発揮したと言えるのかもしれない。まだテレビ等も普及していない中、悪くない成果であるように思う。


「まあ、もうやれることはやり尽くしたように思います。あとは天に祈るのみ、です!」

「そうだな。……というか、俺たちにも投票権はあるんだっけか?」

「ええ。選挙活動を開始するとき、一応四人とも、ここに住所登録を移しておきましたから、ここで投票することになると思います」


 ファーナリアが思い出したように言う。本当に裏方的作業は全てやっていたようだった。有難いことであった。あまり使う機会はないと思っていたが、これぞまさに皆さんのお力添えあってのことであります的なやつなのだろうか。


「さて、それじゃあそろそろ行くか」

「はい! 行きましょう!」


 そんな感じで俺たちは、投票所へと向かったのであった。


微妙にお久しぶりです。色々あってずいぶんと遅くなってしまいました。

この時期の風邪はそこそこ辛い……

皆さまも体調管理には気を付けて行きましょう。

次回が多分最終回です。なるべく今週中に上げたいと思います。よろしくお願いします。

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