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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第五二話 劇場内の攻防、です!

 ツーリュック六世記念大劇場の内部へとつながる四つの入口の内の一つ、北口の正面では、激しい戦闘が徐々に終息しつつあった。既に一万人以上の労働者戦闘集団の兵士たちが、敷地内に置かれた遮蔽物を根こそぎ破壊し尽くし、劇場内へと侵入すべく最後の大攻勢を行っていた。雲霞の如き数の兵士たちは、数両の装甲車を先頭に、雨霰のような銃弾を劇場内部へと叩きこんでいた。


 入口を死守する統一レグリア国民防衛隊の隊員たちは、その圧倒的な火力の前になす術がなく、大量の死体の山を築き続けていた。


「もうここは持ちません! 隊員も弾薬も尽きかけています!」 

「二層及び劇場内部への退却を提案します!」

「それはできない! あの装甲車だけは破壊する必要がある! 装甲車は劇場内でも容易に走行できる大きさだ、あんなものが侵入しては我らに破滅的な損害が生じる!」

「しかし! もう既に許容できない損害が出ています!」

「ならばさっさとあの装甲車を破壊するんだ! 貴様、投擲は得意だろう? そこの手榴弾を装甲車の足元に投げつけろ! 私が援護する! やれ!」


 北口の指揮官と思しき、少し長髪の隊員の命令で、投擲の得意な坊主頭の隊員は、悲壮な覚悟で手榴弾を掴んだ。


 そんな隊員を轢き殺そうとするかのように、一両の装甲車が入り口に突っ込んできた。唸るようなエンジン音が北口に迫る。


「うおおおおおおおおおおお!」


 安全ピンを引き抜き、雄たけびを上げながら手榴弾を投擲する坊主頭。ちょうど手榴弾が地面に落ち、転がっていくタイミングで装甲車が真上を通る。その瞬間、爆発音とともに装甲車の動きが止まる。どうやら走行不能ぐらいにはなったようだった。


「まだまだ! 次だ!」


 長髪の掛け声とともに、再び坊主頭が投擲態勢に入る。今度は装甲車の正面に直撃してしまったが、偶々装甲の薄い所に入り込んだのか、爆発とともに動きが止まった。


(やったか……。しかしもはやここは持つまい。隊長に連絡を入れるか)


 長髪は援護射撃を続けつつ、通信機の操作を始めた。




『右翼の装甲車二両、沈黙!』

『中央の機関砲も破壊に成功しました!』

『左翼に展開中の装甲車三両、これより破壊します!』

「了解! このままいくぞ!」

『はっ!』


 南口は、思いのほか順調に与野党連合の撃破が進んでいた。与野党連合は、南口においても一万人に及ぶ兵士が集結させているのにも関わらず、未だ遮蔽物と、執拗な攻撃を続ける防衛隊隊員たちにより前進を阻まれ、南口までの距離は未だ二百メートル以上も残されていた。


 狙撃銃を手に、入り口内部に設置された土嚢で出来た遮蔽物の陰から的確な狙撃を続けるグローヴィアとファーナリアは、一時間ほど前まで感じていた憂鬱と少しだけ無縁になっていた。無言だった二人にも少しだけ会話が戻る。


「……まだ、油断はできませんが、……ここは大丈夫そうですね……」

「そう、みたいですねぇ……。……他の入口も気になるなぁ。大丈夫かな、あの子たち……」

「信じるしかない、……でしょうね……」

「まあ、そうなんだけど……。っと、敵さんも流石に諦めてくれたのかな?」

「確かに、もう敵兵の姿は見当たりませんね。動いているのは味方の隊員のみです。……まあ念のために確認してみますか」


 そう言うと、ファーナリアは狙撃銃を下ろし、双眼鏡で外の様子を慎重に伺う。


「…………。…………」

「どうですかぁ? いましたか、敵は?」

「……、どうやら尽きたみたい。いえ、敷地外にいるみたいなのだけれど、侵入する気配はないみたいね。まだかなり残っているから油断はできないけど、とりあえずここは大丈夫ってことになるでしょうね」

「なら、少しくらい休憩していても良いかなぁ……。って何だろう?」


 グローヴィアが狙撃銃を下ろし、軽く伸びをしていると、不意に傍らに置かれた無線機が無機質な信号音を発し始めた。若干面倒くさそうに、しかし緊張した表情で、無線を手に取る。


『こちら北口! 現在装甲車を主軸とする敵部隊の総攻撃を受けている! もうこれ以上持ちそうにない! 至急救援を要請する! 繰り返す! 北口への救援を要請する!』

「……了解、直ちに救援を行う。今しばらく耐えて!」


 短い応答の後、グローヴィアは無線機を放るように床に置いた。


「……ということなので、行ってきますぅ……。何かあれば、また無線機で連絡するように。……はあ、さっさと来ないかなぁ?」

「……行ってらっしゃい」


 グローヴィアは、傍らにある狙撃銃と軍刀を手に取ると、駆け足で北口の方へと向かったのであった。


 その後もしばらく双眼鏡で観察してみたり、偵察隊員に様子を聞いたりしていたものの、時折威嚇するように銃声がするくらいで敵が攻撃を行う様子はなかった。どうやら、四方から同時に攻撃を行うことは止めたらしいな、と思いつつ、ファーナリアが水筒の水をすすっていると、再び無線機から信号音が発せられた。


『こちら東口! 敵部隊の電撃的攻撃により、東口は完全に突破された! 現在連絡通路、二層及び三層にて戦闘を継続中も、損害は甚大! 救援を要請する!』

「……了解! 直ちに救援へ向かう!」

『こちら東口! 侵入する敵部隊は重機関銃を装備している! 当該部隊は真っすぐ上層階へ向かっている! このままでは……』

「! 分かった! まずそちらを対処する! 連絡通路は何としても保持せよ! 一人足りとも敵を生きて通すな!」

『了解!』


 ファーナリアもまた、少し前のグローヴィアと同じく傍らの狙撃銃と、更に偶々転がっていた対物ライフルを掴み、階段を上がっていった。


(機関銃を頂上に設置されて、あまつさえ乱射までされてしまえば、劇場内は混沌の極致に叩き落される。真っ先に狙われる先生もタダでは済まないか……。さっさと始末しないと、です)


 控えめに言っても数キログラムはあるだろう対物ライフルを悠々と肩に担ぎ上げ、ファーナリアは陸上選手――といっても陸上競技はあまり発展していないのだが――並の足で疾走し始めたのであった。




「うぇ!?」


 大劇場の六層目にある、南側に面した会議室のような部屋にて、相変わらず外の戦闘の様子をビデオに収めていた党員のうちの一人が、持っていた無線機から流れ出ているのであろう声に反応して謎の奇声を上げた。怪訝な表情でそれを眺めていた隣の党員が、心配そうに声をかける。


「何? お腹痛いの?」

「違うわ! ……その、東口と北口が落ちたらしい。西も頑張ってはいるけど、時間の問題みたい……」


 下の方に隠れている党員の子が教えてくれたの、とこちらも不安そうな、心配そうな顔で囁くように言う。


「マジで……? 確か、防衛隊ってほとんど一層に配置されてたんだよね? だとしたら、……」

「……間もなくここにも到達するんでしょうね」


 双眼鏡で油断なく外の様子を見つめていたミュリアは、確認するように、ゆっくりとそう言った。双眼鏡を下ろすと、念のためということで部屋に置いてあった狙撃銃を手に取り、立ち上がる。


「……ほかの部屋の人たちに、そろそろ避難するように言ってくるわ。ここ、お願いね」

「え、あ、はい!」


 貴方たちも背後には十分に注意してね、と言いながら、ミュリアは足早に部屋を出た。


 楕円形の劇場に沿うように、緩やかな曲線を描く廊下を小走りで進みながら、ミュリアは軽くため息を吐く。


(予定よりだいぶ早いわね……。このままだと党員たちの避難に余裕がなくなるわ。……それどころか、援軍が間に合わないかもしれない……のか。……そうなったら全滅は免れない。どうにかしないと……)


 外の戦況は刻一刻と変化していた。南口の方は、恐らくグローヴィアとファーナリアの活躍によって与野党連合は大損害を被っており、一時間と経たずに与野党連合は突撃を諦めたようだった。しかし北口と東口は早くから与野党連合の激しい攻勢が展開されており、これに装甲車と機関砲の投入もあって防衛隊は早々に追い込まれていた。その後しばらくは入口付近で激しい攻防が続けられていたものの、空薬莢と隊員の死体が積み上がるのみで結局劇場への侵入を許してしまっていた。西口はまだ一応耐えているようだが、突破も時間の問題と思われた。


 劇場の敷地外にも、数万人規模の与野党連合兵士が待機しているとの情報もあり、劇場内の防衛隊の戦力による与野党連合の攻撃を防ぎきるのはほとんど不可能な状況であった。


「あなたたち! 間もなくここにも敵兵士が殺到するわ! こっちに避難して! もう撮影は良いから! テープと武器だけ持ってこっちに来て!」


 あまり現実感がないのか、党員たちの動きは鈍い。ミュリアは少しだけイラつきつつ、相当の焦燥感に駆られつつ、党員たちを強引に引き連れる。


(下の隊員がどんなに頑張ったとしても、私たちが避難するのに残された時間は……、十分が良いところかしら。早くしないと!)


 その後も駆け足で廊下を進み、東と北にいた党員たちを回収する。


(あと五分くらいか。そして残ったのは西か。まあ、どうにか間に合うかな)


 そう思いながら、廊下を進むミュリア一行。


 もう少しで西に面した会議室に差し掛かろうとしたところで、突然耳をつんざくような凄まじい爆音とともに、建物全体が軋むように震え、足元も地震が起きたかのように激しく揺れた。


「え、なになに!?」

「これどうなってんだ!」

「攻撃!? 攻撃されてるの!?」


 背後の党員たちが口々に騒ぎ始める。軽い、どころかかなりの混乱状態だった。悲鳴と怒号がそこかしこから上がり始める。


「静かにして! 静かに! これから私が様子を見てくるわ! それまでここで大人しくしていて! ここを離れたら安全は保障できない! すぐ戻ってくるから」


 手を叩きつつ大声でそう叫ぶと、ミュリアは狙撃銃を握りしめて爆発音がした部屋の中へと足を踏み入れた。


「こ、これは……」


 部屋の奥、窓の方を見ると、正確には窓があったであろう方向をみて、ミュリアは驚嘆した。窓の下の方が消滅し、下の階が丸見えになっていた。そこかしこに砕けたコンクリート片とガラス片が散らばって、元の姿はもはや想像ができなかった。


 幸いにもこの部屋に死体は転がっていなかったものの、数人いた党員は、お互いに震える身体を支え合いながら、青ざめた表情で虚空を見つめていた。


 ドーン!


 再びどこかから爆発音が響いた。建物は揺さぶられ、立っていられない程であった。


「に、逃げるよ! 早くこっちに! ここは危険よ!」


 腰を抜かしたように床にへたり込んでいる党員を何とかして引っ張り、部屋の外へと出る。


(いったい何だって言うの? 爆弾か何かが爆発したの? ……なんにしても西側は危険か。さっさと残りの党員を集めて逃げましょう)


 今にも倒れそうな党員を他の党員に任せると、大急ぎで西側の他の会議室へとミュリアは走った。再び小さくため息を吐く。何とも言えない無力感と焦燥感が、ミュリアの心を攪拌し続けていた。




(これが俺の……初仕事……。慎重に、慎重にやらないと……)


 兵士は、震える手で大きな重機関銃を力強く握りしめつつ、ゆっくり、ゆっくりと階段を上っていた。周りを囲うようにしながら、軽機関銃を、あるいは突撃銃を持って周囲を警戒する兵士たちも、緊張感に包まれていた。凄まじい爆発音とともに建物が揺さぶられても、その緊張感に変化はなかった。


「おい、そろそろ屋上だ。やることは……分かっているな?」

「はい、確認してあります。何ら問題ありません」


 小隊長のような男の確認に、機関銃を握る男は短く答える。社会主義闘士同盟に身を投じてから三か月目にして勃発した、この大戦闘にて言い渡された命令に、男はその身を震わせていた。


(これに成功すれば、俺は、……俺たちは一躍闘士同盟のエースだ。何とかしてこの幸運をものにしないと……)


 そんなことを思いながら、男は三脚に支えられた重い機関銃を必死に運ぶ。


 男たちに命じられた仕事は、とは言ってもそれほど難しい過程を経るものでもないし、技術を要求されるものでも無い。ただ、少しの根性を持って、倫理観を放り捨てれば誰だってできる仕事である。大仕事ではあるが、無理難題というわけでは決してない。


 つまり、劇場全体を、数万人の観客を見下ろす位置にまでこの機関銃、Zvlg-25を運んで設置し、その引き金を引けばよいのである。なるべく劇場の中心から、観客席を舐めるように満遍なく鋼鉄の雨を振り浴びせればよい、ただそれだけの任務である。無論、これにより生じる莫大な数の民間人の死傷者について彼は責任を取る必要はないし、観客席を覆い尽くすであろう地獄のような混沌について良心の呵責を感じる理由もない。ただ、命じられるままにその引き金を引いて機関銃の首を振っていれば良いのである。


「よし、設置できたな。我々が先鋒だ。我々の発砲が始まると共に、間もなくやって来る部隊もまた発砲を始めることになる。我々の第一の目標はあの党首だ。始末できれば良いがまあ演説を中断できればとりあえず良しとする。その後は最前列の観客席から後方に向けてゆっくりと射撃を行っていく。敢えて狙う必要はないが、当たらないようにしろとの命令は受けていない。容赦なくやってくれたまえ!」

「はっ!」


 男は、最後まで残っていた倫理観をどうにかして廃棄することに成功し、決意に満ちた表情で重機関銃を構え、引き金に指をかける。隊長が腕を振り上げる。その腕が振り下ろされれば、発砲を開始する。男はその時を静かに待った。


「ってええ!」


 その言葉とともに指に力を込める。Zvlg-25唸りを上げて銃弾を吐き出すその前に、しかし男の人生は完結した。それまでの決意に満ちた男の顔は、一瞬でその胴体に別れを告げ、劇場の屋根から地上へと落下していった。


「な、何事!?」


 隊長は、熱意にあふれる部下の男の首から噴水のように噴き出す赤い液体を全身に居浴びながら、恐慌状態となって叫ぶ。しかし、その疑問は解消されることなく、男の後を追った。


 どこからともなく飛んでくる強力な銃弾は、その後も周囲にいた兵士を一人ずつ絶命させていく。そして最後に、最後まで使われることのなかった重機関銃もまた、砲身を粉々に破砕されて役目を終えた。




「これで一隊終わりっと。次は……あっちか」


 ファーナリアは、手慣れた手つきでライフルの向きを変え、同じ鉄の雨を降らせんとする機関銃分隊に狙いを定め、一発ずつ兵士に銃弾を食らわせていく。同じく混乱状態に陥り、屋上で右往左往する兵士を落ち着いて一人ずつ昇天させていく。これで二隊目だ。


「ここも少しは揺れるし、耳をすませば銃声も聞こえるけれど、観客は誰一人聞こえていないみたいね……。不幸中の幸いかしら。先生の演説さまさまだわ」


 場内に面した会議室の窓から狙撃を敢行するファーナリアは、下の方で点のように見えるブライフを眺めながらそう言った。ブライフは、まるで何かに憑かれたかのように激しい身振り手振りを交えながら、現政権と与野党を徹底的に批判し、我々こそが連合王国を救う救世主であることを何度も何度も繰り返し叫んでいた。観客は、そんなブライフの姿を一秒たりとも見逃すまいと、聞き逃すまいとしていた。この分では、今の狙撃音ですらも彼らには聞こえていないのかもしれなかった。


「好都合ね。さっさと残りを始末してしまいましょう。……にしてもわらわらと……」


 どこからともなく現れる機関銃分隊は、ファーナリアの狙撃にも怯むことなく機関銃を設置せんとしていた。未だ一発の発砲も許していないし、今後もそんなことは生じ得ないだろうと彼女は確信していたが、それでもここに釘付けにされてしまうだろうとも思い始めていた。既に北口と東口を突破され、間もなく劇場内部以外のほとんどの区画を制圧されようとしている今、それほどの余裕は残されていなかった。


 なおもファーナリアが狙撃続けていると、再び微かな振動が床と壁を伝ってきた。それと同時に、念のため持ってきた無線機から悲痛な声で通信が入った。


『こちら西口……。こちらも突破されました。後退しつつ、遅滞戦闘に移行します……。ああ、それと、どうやら敵は火砲をも持ち込んでいるようです。恐らく15㎜砲程度であると思われますが、我々にはどうすることもできません。遺憾ながら、報告だけさせて頂きます』

「了解。……無理はしないで。こっちの片が付いたらすぐに向かう」

(これで南口以外はみんな落ちたか。この分だと南口も長くは持たないかな……。まったく、どうすれば良いのやら……。とりあえず火砲はどうにかしないとね)


 ファーナリアは狙撃の合間を縫って無線機を操作し、グローヴィアへと繋ぐ。


『なんですかぁ? こっちは忙しいのですぅ。数が多すぎて泣きそうですぅ……』

「こっちも同じです。……西口が突破されたのは知っていますね? あちらに火砲があるみたいなの。機関砲や装甲車はともかく、火砲まで来られたらまずいわ。どうにかして排除して下さい」

『ええ……。こっちだって暇じゃないんだけどなぁ……。……!?』


 無線機からでも伝わるすさまじい爆発音とともに、再び床と壁が震えた。これまでの振動より更に大きいものであった。流石に、後方の観客の中にはこれに気づいた者もいるようだった。


 ファーナリアは確信した。恐らく、火砲は一種類ではない。先ほどの15㎜砲の他にも、さらに大口径で強力な火砲も存在しているのだと、そう確信した。


「……やってもらえますね?」

『……はい。やってみます……』


 無線が切れ、ファーナリアは再び自分の仕事へと戻った。




「まったく、次から次へとぉ……」


 ファーナリアから面倒事の依頼を受けてしまったグローヴィアは、北口付近での戦闘を強引に片付けつつ、大急ぎで西口へと向かっていた。今は三層目。狙撃等で排除するならば、悪くない位置ではあった。


「まあ、確かにさっさと始末しないといけないのは分かるけど……。だいたい、なんで火砲まで持って来ているですかねぇ。そんなにむきにならなくても良いと思うんだけどなぁ。まったく、何を考えているのやら……」


 そんなことを言いつつ廊下を走る。外側は全て何かの部屋があり、廊下からは外の様子を伺うことができなかったものの、時折建物が揺れるところをみると、15㎜砲は継続的にこちらに撃ち込まれているようだった。しかし、先ほどの大口径と思われる火砲からの第二撃は、まだ行われていなかった。


(むしろそっちの方が不気味だなぁ……。……、この部屋辺りからなら狙えるかな?)


 そんなことを思いながら、目についた部屋に飛び込むと、彼女はその不運に少しだけため息を吐いた。


「おおっと、先客がいらっしゃったんですかぁ」

「ああ、先に使わせてもらっているぜ……」


 部屋には、見るからに屈強そうな兵士数人がおり、追い詰めた隊員たちを殺害し終えたところであった。銃弾を使うのはもったいないとばかりに、刀剣で殺害された隊員たちは、見るも無残な肉塊となり果てていた。


 兵士たちは、血にまみれた刀剣を振って血を飛ばしつつ、部屋の入口のグローヴィアへとにじり寄った。


「部屋を素通りしてりゃあ、もしかしたら生きて出られたのかもしれないのになあ?」

「運がなかったな、お嬢ちゃん?」


 下卑た笑みを浮かべ、汚い歯を見せびらかしながらそう言う兵士たち。グローヴィアはもう一度ため息をつきつつ、腰の軍刀に手を掛けた。


「おおう、お嬢ちゃん? 俺たちと戦うつもりかい?」

「かっかっかっ! 勇敢だなあ! そういうの、嫌いじゃあないぜ? 屈強な男に立ち向かう健気な令嬢! 最高の物語じゃあないか!」

「だがなあ、現実はいつだって非情なんだぜ? まあ、寂しくはないさ。そこの連中が先に逝って道案内でもしてくれるだろうしな」


 兵士たちは、刀剣を振り回し、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべながら、なおもグローヴィアに迫る。


「……そうね。確かに不運みたい」

「分かってるじゃねえか。じゃあ、その不運を噛み締めつつ……」

「死にさらせや!」


 刀剣を振り下ろさんとする兵士たち。グローヴィアの首程もありそうな太い腕が振り上げられる。しかし、その腕は兵士たちの意に反してその肘から下を失った。地面に転がる腕は、今もなお切り落とされたことに気づかないかのように、ピクピクと小刻みに震えていた。骨も、肉も、まるで豆腐か何かのように綺麗に切断された腕は、さながら断面図の模型のようでもあった。違うのは、本物かどうかだけであった。


「こんな豚相手に私の大切な剣を使わざるを得ないなんて……。不運としか言いようがない」

「ぐああああああ!」

「腕が! 腕がああああ!」

「ぎゃああああああ!」


 遅れてやってきた激痛に悶絶する兵士たち。両腕を失った彼らにできることはほとんどなかったのだが、最後の力を振り絞り、足を振り上げる。


「クソ餓鬼があああああああ!」

「うるせえ」


 二度目の斬撃が兵士を襲う。足首を、脛を、大腿を、そして腰を順々に断面図へ変えられた兵士は、下腹部より下を失ったところで絶命した。他の兵士は刀剣を捨てて逃げようとするが、グローヴィアは縦に、あるいは袈裟懸けに切り裂き、遂に断面図の見本市が完成した。隊員たちの死体がぶつ切り肉であるならば、兵士たちの死体は丁寧に成形された商品用の肉であった。会議室は、狂気に満ちた肉の展示室へと姿を変えた。


「良く喋るモブは嫌いだわ。……さて、ここからなら見えるかな?」


 グローヴィアは、成形済みの肉を蹴り飛ばしつつ、窓に近づく。血飛沫が飛び散ってあまりよく見えなかったが、どうにか敷地を隔てるフェンス沿いにある火砲を見つけることができた。


「あれか。……確かに、15㎜砲に交じって大口径のがあるなぁ。あれは、……70mmくらいか。……だとすると、上手くすれば中に撃ち込むことも可能……なのか?」


 そんなことを考えながら、じっと70㎜砲を見つめていると、不意に発砲炎が見えた。それがどういう意味かを理解するのに一秒ほどかかった後、グローヴィアは光のような速さで廊下へ飛び出し、うずくまった。


(びっくりしたびっくりしたびっくりしたぁ!? んもう一息くらいつかせてよぉ!)


 直後、両耳を貫く大爆発音とともに、埃が舞い、天井から小さいコンクリート片が落ちてきた。


「……当たったのは上か。さっきは二層目くらいだったから、次くらいには……」


 急いで始末しないと、と思いつつ、ゆっくりと立ち上がると、廊下の向こうの方から複数の足音が聞こえてくる。


「おお、味方………」


 軍刀を腰に付け直し、置いておいた突撃銃を持つと、安心した顔で足音の主を迎えようとする。が、その姿が見えてくると共に、表情は再び曇った。


「……なわけがなかったよぅ!」


 スコープを覗き、見えた顔から順々に銃弾を叩きこむ。一人ずつ斃れていくが、彼らは何ら気にかけることなく進んでくる。


「やっぱりそんな暇はなかったんだよねぇ……。……ミュリアさんにでも頼んでみるか」


 目に見える兵士がいなくなったところで、グローヴィアは無線機の操作を始めた。


毎度申し訳ないです……。もう少しだけお付き合いして頂けると幸いです……。

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