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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第四六話 地盤崩し、です!

『一一七中隊、聞こえるか? 一一七中隊! 応答せよ! 一一七中隊、状況を報告せよ!』

「こちら一一七中隊! 現在クライン川、第八八七地点にて敵部隊と交戦中! 装甲車約二十、敵兵約六百名を確認! いや、どんどん増えている! 救援を頼む!」

『……状況は了解した。 第二〇三騎兵旅団が救援を行う。それまで持ちこたえてくれ』

「救援はいつ来るのか!?」

『今から二時間後。到着は遅れる可能性がある! また、そちらには二個中隊が派遣される』

「……っ! 承知した!」


 パトリア社会主義人民共和国とシヴィラール都市連合国を構成する国の一つ、ルスティカルム共和国との国境地帯。人跡未踏の湿原が広がり、普段は風のそよぐ音と虫の鳴く音が聞こえるだけのこの場所は、つい先刻から小銃の発砲音と装甲車のエンジン音が響く戦場となっていた。


 まだ人民共和国がデムージ王国と呼ばれていた時代は、この湿原――コラプシー湿原――を含むリンクス半島の全域はデムージ王国が領有していた。しかし、王国崩壊の一因となった都市連合国との海峡=半島戦争により、都市連合国はリンクス半島南部の領有権を獲得し、以降同地域は連合国領となっていた。


 かねてからこのような状況を良しとしない人民共和国は、先刻突如として、しかし遂に、都市連合国に対して宣戦布告を行い、リンクス半島の国境線を突破したのであった。


(二時間も持ちこたえてさせて、しかも二個中隊の支援しか寄越さないだと!? 司令部は我々を何だと思っているんだ! レーヒト半島にも敵が押し寄せているとはいえ、これはあまりに酷い……)


 人民共和国は、旧領回復を目論むのみならず、更なる重要地域の支配を企図し、都市連合国を構成する国のまた一つ、シヴィターテム共和国領内のレーヒト半島にも侵攻を始めていた。都市連合国の国軍、国民連合軍は必死に防戦を開始したが、両地域で激しい損害を被り、徐々に後退を強いられていた。


「中隊長! 既に連中はクライン川の渡河を開始しています!」

「分かってる! 一人残らず撃ち殺せ! 一人たりとも渡り切らせるな!」

「し、しかし、敵は対岸に狙撃兵を配置しt」


 直後、激しい銃撃が中隊長とその周辺を襲った。同地域の進撃任務を受けた人民解放軍第十二軍隷下の第九一一特殊師団は、主に湿原での戦闘に特化した部隊であり、通常進撃が困難と思われるここ、コラプシー湿原も、凄まじい速さで突破することに成功していた。九一一師団の大部分は、国民連合軍ルスティカルム総軍北部方面軍第二〇一歩兵師団所属の第一一七中隊が陣取る第八八七地点制圧のため、現在激しい攻撃を行っているのであった。


(クソッ! このままでは十分と持たんぞ……。一体どうしたら……)




「……『我々はこの地上で行われる如何なる戦闘行動に対して反対する。我々は平和のみを愛し、戦争は、それが如何なる名目の下に行われるものであっても断固として許さず、憎むべきものであることをここに宣言する。我々は、我々の造り上げるこの国が、この星から戦争を永久に放逐し、過去の事象とすることを常に追い求める崇高な理念を有することを持つことを、世界の全ての国に誓う』。


 彼らは、人民共和国を建国した共産主義者たちは、建国宣言にてこのように、高らかに宣言したのである。人民共和国は戦争に加担しないと。戦争の主体となるのみならず、戦争を援助することすらもしないと、そのように宣言したのである。


 ……あれから八年が経った。……彼らにつき従うことを何よりの快感とするクソのようなアカどもの、そのご自慢の眼から見れば、彼らは今でも自らの宣言をしっかりと遵守し、世界から戦争をなくすための努力をしているのだろう。現に、彼らがそう主張していることは、既に諸君らにも十分伝わっているはずだ」


 フェルゼン郊外、アウレンディッシュ野外劇場。


 フェルゼンを当面の活動拠点としたブライフ達は、支持を広げるべく必死に各地を巡っていた。そして今日も今日とて、もうなんだかんだで慣れてきた感のある数万人に対する演説会を開催していた。


 本来であれば、王国内の他の地方にも移動して支持を固めていきたいと思っていた国民運動であったが、フェルゼンを擁するルンデーク地方は、保守党が予想外に善戦しており、その攻略は困難を極めていた。そこで、国民運動は、保守王国とも称される、ここルンデーク地方において党首の投入をはじめとする集中的な選挙活動を行い、保守党の地盤に揺さぶりをかけんとしているのであった。


「そして、現実が全く異なることもまた、諸君らはしっかりと理解しているだろう。


 彼らは建国早々から、王国時代とは比べ物にならない速度で軍制改革を行い、大軍拡を始めた。陸軍は急速にその規模を増大し、海軍を構築し、空軍までも創設せんとしている。更には海外派遣専用の部隊も多数配備し、いつでも全世界に軍を派遣する用意を整えているのである!


 また彼らは、完全な独立国家であるところのプロスペラ共和国に対して、何ら必要な理由がないというのに、人民解放軍の進駐を断行した。共和国国民の強烈な反対にも関わらず、今もなおこれを続けているのである! 共和国政府を支配し、かの国の衛星国、否、植民地とする意図が明確であると言わざるを得ないであろう!」


 ルンデーク地方は、連合王国の北方に位置し、連合共和国と国境を接しているわけではない。従って直ちに人民共和国の脅威に曝されるような地域ではない。しかしこの地域にも少なくない共産主義者が流入又は発生して破壊活動や思想流布が盛んに行われており、全くの安全な地方とは言えない状況となっていた。


 そこでまず、共産主義の脅威を訴えようというのが演説の主眼となっているのであった。


「……そして遂に!


 彼らは自らの宣言を完全にかなぐり捨てたのである!

 

 数日前、人民共和国の共産主義者たちは、シヴィラール都市連合国が完全な領有権を有するリンクス半島南部およびレーヒト半島へと侵攻を開始した! 彼らは合計五個師団もの軍隊を動員し、何の落ち度もない、平和的国家である都市連合国への蹂躙行動を開始したのである!


 このような人民共和国の行動が侵略行為に当たらない理由は何ら存在しない。彼らの行動は間違いなく侵略行為と言うしかない!


 であるとするならば、私はこの場で明確に断じることができる! 即ち、人民共和国は、自ら侵略行動を開始する、戦争を、侵略を、支配を何よりも愛する破滅的破壊国家であると! 誰が、この世界の誰が、この圧倒的事実を否定することができるというのだろうか!? 誰が、彼の破壊国家の弁護を買って出る者がいるのだろうか!?


 ……彼らの宣言は、共産主義者どもの内から溢れ出る狂気に満ちた激烈な軍事的野心を、そして全人類に及ぼさんとするほどの膨大な支配欲を隠し通すためのメッキに過ぎない。彼らは、建国のその時から、我々の住むこの美しき星を、安らぎと幸福に満ちた世界を、人類の血で塗り尽くし、一部の支配階層と大多数の奴隷、そして夥しい死体で構築された全体主義国家へ堕落させんとしているのである!」


 一旦言葉を切る。保守党支持者も少なくない数含まれているだろう聴衆の、その誰もが演説者に注目し、次の言葉を今か今かと待っていた。ブライフはそれを認めると、意を決したかのように更に強い口調で続けた。


「諸君、我々は、我が国は、そして人類は、共産主義者のこの恐るべき野望に断固として立ち向かわねばならない! 連中の力を削ぎ、自壊させることのできる期限は刻一刻と差し迫っている! この機会を逃すのであれば、我々は永久に彼らの野心を止める術を失うのである!」


 今までの口調から一転し、静かに、しかし不気味な将来を予言する占い師のように、ゆっくりと大きくない声で話し始める。


「そうなればどうなるか。


 まずは、プロスペラ共和国が彼の国の完全な衛星国となるだろう。共和国の全ての民族的自決権は、一千万人の国民の人権は、人民共和国の中枢、共産党政治局が握るのである。数人の自由な裁量によって、一千万人の人生は運命を決せられることになるのである。


 次はルスティクム共和国が連中の侵略を受けるだろう。そうなれば、四千万人の人生もまた、数人の者の意のままに操られるのである。


 そして共産主義の脅威は、遂に我が国に近接する。彼らの留まるところを知らない軍事的野心は我が国をも蹂躙する。そして最後には、いかなる国家も彼の国の意向に従わざるを得なくなるのだ。この世界はまさに、生き地獄と化すのだ」


 再び声を張り上げ、二の腕から指先まで存分に用いて、聴衆に問いかけるように言う。


「諸君! 諸君の中で誰がこのようなクソのような未来を望むというのだろうか! このような未来が我が国の未来であることは決してあってはならない! 我々はいかなる手段を用いてでもこのような運命を跳ね除けねばならないのである!」


 一旦言葉を切り、それから更にまくし立てる。


「しかし!


 我ら連合王国政府は、このような人民共和国の暴挙に対し、共産主義者のこの恐るべき侵略行動に対し、どんな対応を取ったのか!?


 言うまでもない!


 政府は、与党は、このような破滅的状況に対して何ら有効な対策を取ることがなかった!


 連中のやったことと言えば、アカどもの侵略から数日もの期間を空けて、申し訳程度の非難声明を公表しただけだ! 我らが政府のお偉い政治家どもは、都市連合国への援軍派遣を決定することも無く、援助物資の輸送など考えることもない! 我が国の重要な貿易相手であり、友好国である都市連合国の危急存亡の事態に対して、心にも思っていない口先だけの非難と悲哀をボソボソと独り言のように呟く能力しか持っていないのだ!」


 さらに手を振り上げ、聴衆の注目を集める。


「それどころか!


 我らが政府はこともあろうに、この恐るべき侵略国家であり、凶悪極まりない人民共和国と国交を樹立し、貿易すらも開始しようとしているのである!


 敢えて言おう! 我が政府は、与党の政治家どもは気が違っている!


 ……連中のしていることは、火事で燃えている家にガソリンを放り込んで家ごと吹き飛ばすのと何も変わらない。まさに最悪のタイミングで最悪の決断をしているのである。


 国民諸君にはよく考えてもらいたい。彼らが政権を執り続ければどうなるのかを。我が国に対して血塗られた侵略国家の刃が向けられたとき、彼らがどんなことをするのかを。


 もし諸君らが現政権の執政を支持するのであれば、私はそれを無理に止めることはしない。今からでも最高の作曲家に依頼し、我が国の将来の支配者とあらせられるであろう書記局長閣下を称える素晴らしい革命歌を創る手助けをすることにしよう。


 しかし。……仮に、もし諸君らが今の自由で豊かな資本主義的、自由主義的、民主主義的生活を守りたいと、少しでも思うのであれば、我々に一票を託すべきである。賢明な、諸君らの判断を私は心待ちにしている」




「先生! 急いでください! そろそろ出発しますよ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 演説会をどうにかこなした俺は、ミュリア達に急かされて飛行機に乗ろうとしていた。その飛行機と言うのは、定期運航しているような航空機ではなく――というか少なくともこの国ではまだ航空機の定期運航などしていない――、例の何とか工業から贈られた飛行機である。乗れる人数は十名ほどと、かなり小型の飛行機であるが、航続距離や乗り心地はかなり良いものであった。もっとも、乗り心地については、俺が初めて乗った飛行機がこれということもあって、比較対照することはできないのであるが。


「はーい、じゃあ出発しまーす」


 操縦席にはグローヴィアが座り、客席に俺とミュリア、それに殊勝にもこんなところにまでついてきてくれた大学生数人が乗っている。


 ……なんで車の運転はできないのに、飛行機の操縦はできるのだろうか。こっちの方がはるかに難しい気がするのだが。


 それはさておき。


「先生、開設式典でやる演説の内容は頭に入っていますか? というか、そもそも原稿ってできていましたっけ?」

「あー、その、……まだだな。い、今からやろうと思ったんだ」

「今完全に寝る気満々でしたよね? ……まあさっさと仕上げてしまいましょう。ここではそこまで気合入れてやることも無いでしょうし。当たり障りのないことを短くまとめて喋れば大丈夫です」

「そうか? ならそんな感じでいくとしようか」


 これから俺たちは、王都の一角で行われる新しくできた新聞社とラジオ局の開設式典に出席することとなっていた。


 もちろん、この新聞社とラジオ局は、例の、既存メディアに対抗しようという名分の下に、国民運動が開設を決定したものである。既に準備は整っており、早ければ明後日辺りから新聞の発行とラジオ放送がスタートすることになっていた。


「にしても、良くこれだけの短期間に開設できましたよね」

「だよな。私も驚いているよ。建物は中古の良い物件がゴロゴロ転がっていたから別に問題は無かったが、人と機材がこんなに早く用立てることができるとはな……」


 なにしろ、開設を決定してから一週間程度しか経っていないのである。余計なしがらみがなかったとはいえ、これだけの短期間で機材や、特に人を集めることができるとは思ってもみなかった。


「それだけ既存のメディアに不満があったということなのでしょうか?」

「まあそれも少しはあるかもしれないが、一番はやはりファーナリアのおかげだろうな」


 俺は左手の親指と人差し指で円を作りながらそう言った。


 報道に不満があるからと言ってホイホイと新しいメディアに飛びつけるほど行動力のある人間はこの世界、この国であっても多くはない。というかほとんどいない。にもかかわらずこんなことができたのは、多額の報酬による既存の新聞社及びラジオ局からの人材引き抜きしかないのである。こんなことを元の世界でやれば間違いなく公正取引委員会だかがすっ飛んできて色々文句をつけるのであろうが、この世界にそんなことを言う組織は存在しない。(金の)力こそ正義である。


「まあ、そんなものですかね。そうすると、今回はファナちゃんに頼りっきりですね。あの見るからに面倒くさそうな許可手続を一日とかからずに処理してくれたんですから」

「だな。新聞社は別に許可が要らないってことで良いんだが、ラジオ局は本当に煩雑な手続きの連続だったからな」


 というのも、電波割り当てがどうたらこうたらだとか、免許を取るのが何たらかんたらだとか、事業計画をどうしろだとか、もう際限のない手続のオンパレードだったのである。それをファーナリアは、恐らく他のやるべきこともあったのだろうに、一日と経たず全て適切に処理してくれたのである。俺のしたことといえば、数枚の書類に自分の名前を書いて印鑑を押し、それを役所に持っていくだけであった。あっという間に手続きが終わって俺はしばし呆然としてしまうくらいであった。


「……って、原稿作り全然進んでないじゃないですか! 早く仕上げてください! もう着いちゃいますよ?」

「うぐっ……。分かったよ。作ればいいんだろ? 作れば……」


 まだまだ色々仕事があるんだなぁ……と思う今日この頃であった。


またそこそこ遅れてしまいました……。

艦〇れ二期になりましたね! 海域が大分変わってしまって、今までのレベリングスポットが軒並みお亡くなりになってしまったわけですが、少しずつ新しいスポットが発見されることを祈りたいと思います。

今月も残すところ三分の一、頑張っていきましょう。

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