第四四話 お帰りなさい、です!
「だからな、私は言ったんだ。飲み会……もといお帰りなさいの会の用意しておこうって。まったくもってその通りになっただろう?」
「いやいや、そうは言ってもあれですよ。万が一予想が外れたらもうどえらいことになってましたよ? 不謹慎ってレベルじゃ済まなかったですよぅ!」
「いやだからな? これは予想じゃあなくてもはや予言と言っても良いくらいのものだよ」
そんなこんなで、ミュリアが無事に帰還したことを祝し、今日も今日とて飲み会が開催されたのであった。二日連続ということで肝臓にくるものがあるのだが、やはり無事に帰ってきたことに関しては祝わねばならないのである。そういう点をしっかり大切にするのが重要なのである。知らないけど。
当然と言えば当然なのだが、ミュリアは酒を一ミリも飲んでいない。俺の隣で、申し訳なさそうな顔で水やらをチビチビと飲んでいる。既に酔っぱらい始めている俺とアホっぽさ全開の大学生フローリッヒ君がバカ話を繰り広げているときにも、彼女は会話に入ってこないばかりか笑いもしなかった。
仕方がないのでフローリッヒ君に適当な地酒を与えて何処かに行ってもらいつつ、フォローを試みた。
「な、なあ。あんまり落ち込むなよ? 誰にだって酒の間違いはあるもんだ。それにほら、結局君も無事に帰ってきた訳だし、助けに行ったグローヴィアも、……良く分からんけど問題なく帰ってきた訳だし、これで今回の件はまるっと解決しているわけだよ。それでいいんじゃないかな?」
「……はい。……そうかもしれないです」
「いやいや、全然元気じゃあないからな? ……ああ、もしかして、拉致されたときに酷いことをされた、とかそういうことか?」
「いえ、そんなことはないと思います。気づいたら倉庫みたいなところで縛られていましたし。その後も、クロちゃんに助けてもらうまで、何もありませんでした」
「あー……、まあそれなら良いのだが。…………あ、もしかして、こんな飲み会開いたのが気に入らなかったか? それならば謝るよ。申し訳ない」
俺が頭を下げようとすると、グローヴィアは慌てたように手を振り俺を制する。
「いえ、いえいえ! そんなことはありません! むしろ嬉しいくらいです。……ただ、先生やクロちゃん、それに皆に迷惑をかけてしまったことが申し訳なくて……」
なるほど、確かにこの娘は責任感が強いというか、変に真面目なところがあるからな。それに、考えてみればついさっき助け出されてきたのだ。まだ色々混乱していて、気持ちの整理がつかないというわけか。
「誰も迷惑だなんて思っちゃいないさ。君が無事に帰ってきてくれたことを喜んでいると思うよ。……まあでも、今日は疲れただろう? あれなら、もう休んでも良いぞ?」
「そう、ですね……。今日のところはそうさせてもらいます……」
そう言うと、ミュリアは事務所二階の自室へと戻って行った。
話す相手がいなくなって若干手持ち無沙汰となり、ビールをやたらと飲んでいると、グローヴィアがわりとベロベロになりながら近寄ってきた。
「おお! 先生じゃないですかぁ! お疲れ様でーす!」
「おう、そっちこそお疲れ。いやぁ、今日は本当にありがとうな」
「いえいえぇ! 何の問題も無かったですよぉ!」
「だとしたら本当に良かったよ。怪我とかはしなかったか?」
「うーん、多少の火傷とかはありますけど、それくらいですかね。見てみます?」
「え゛? い、いや遠慮しておくよ……。にしても、本当にすごいな。たった一人で敵のアジトを襲撃して、見事にミュリアを救出できたんだからなぁ。一体どうやったんだ?」
「それは……秘密です!」
「えー、何か気になるなぁ? 少しくらいなら」
「秘密、ですよ」
一瞬、グローヴィアの雰囲気が変わった気がした。こう、ふわふわした美少女からマフィアの大親分になったような、そんな感じがあった。これ以上聞くのはなにかまずいと本能的に判断し、俺は沈黙を選択する。
そうこうしていると、真面目な大学生、エルンスト君が何処からともなく現れた。
「皆、聞いて下さい! たった今、大ニュースが飛び込んできました! 次の総選挙での投票先に関する世論調査の結果です! これ、これです!」
そう言うと、彼はA3サイズ程度の紙を示した。
「なになに……」
「そんな凄かったの……?」
人が群がり、紙は見えない。しばし待つことにしよう。
「って、ええ! ここ二位じゃね? マジで?」
「ほんと!? ……おお、三位と僅差だけど、二位だよ!」
「先生も見てください!」
俺の前に紙が広げられた。一週間前のもののようで、五日間程かけて連合王国の複数の選挙区の有権者約千人ずつに街頭で調査を行ったらしい。かなり大規模な調査のようで、一定の信用はできるのかもしれない。
そしてその調査によると、一番多い回答は未定の三六・一パーセントであり、二番目、即ち一番投票先として多い政党は、現与党である保守党の二二・九パーセントであった。そしてなんと、投票先として二番目に多い政党が、我らが統一レグリア国民運動であり、一六・二パーセントであった。三番目は、僅差で労働党であり、十三・九パーセントだった。後は一桁台であり、俺たちの政党への支持は、この街のみならず、他の地域でも広まりつつあると言えそうだった。
「これは、……なかなかの結果だな」
「そうですよね! これって、もしかしたら私たちが政権を奪う可能性もあるってことですよね!?」
「確かに!」
とまあ、こんな感じで皆一気に浮かれモードになったのであった。
(当たり前なのだが、俺たち以外にもしっかりと活動をしているんだな……。とは言え、まだ一位とはだいぶ差があるわけだし、未定も随分と多い。この子たちみたいに浮かれ過ぎないと良いのだがな)
そんな感じで飲み会が続いた。
因みに今夜は、誰一人拉致等されることなく、各自しっかりとお家に帰って行ったのであった。
「……なる、ほど……。そういうことでしたら、私としましては、貴方の側に付くというのもやぶさかではございませんな」
「私も同じです。喜んで、末席に連ならせて頂ければと思います」
「感謝致します。発表に関しては、我々の方で行わせて頂こうかと思っております」
「ええ、構いません」
「同じです」
王都、とある地区のとある建物。
与野党の中堅議員とファーナリアは、その建物の一室で秘密の会合を開いていた。ファーナリアの度重なる説得により、今日、遂にこの二人の議員は元いた政党、即ち保守党及び労働党から国民運動へ入党することとなったのであった。
(少し難しい気もしていたけれど、何とかなったか。それに、これで更なる現職議員の入党もありうる。良い流れだわ)
あまり国民に知られていない二人の議員であったが、それでも各党内では一定の地位を占めていた。ファーナリアはこれを狙い、何日もかけて二人を口説き落としたのであった。表向きは国民運動の政策を説き、裏では多額の献金と現物の贈与を行い、何とかこれを成し遂げることとなった。
(王都に戻らなければならなくなった時はどうしようかと思ったけれど、これで少しは先生のお役に立つことができるでしょうか)
切り方が分からなくて短くなりました……。次も多分長くはないので、日曜深夜には上げられるような気がします。
台風や高気温にお気を付けてお過ごしくださいませ。




