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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第四十話 突然の宿題? です!

「……。カット! はい、これで収録は全て終了となります。お疲れさまでした!」

「いやいや、こちらこそ色々協力してもらったよ。本当にありがとう」

「いえいえ。それにしても、ラジオ収録は初めて、なんですよね? いや、ラジオのパーソナリティのような落ち着きで驚きました」

「いやあ、もう無我夢中だったよ。何を言っていたのかほとんど覚えていないな」

「それが普通ですよ。今後とも頑張ってください」


 あの演説会から数日経った5月…………5日? そう、5日である。俺は以前の会議的な何かで決まった、ラジオ放送のための収録のために、ラジオ局に来ていた。ラジオ局になど行ったことがなかったから比較はできないが、マイクが置かれていて、質の悪いガラスを挟んだ隣の部屋にはディレクターっぽい人が並んで座っているなど、何だかそれっぽい感じにはなっていた。


 無事に収録を終えたようだったので、若手のADみたいなお兄さんに別れを告げ、俺とミュリア、グローヴィアの三人はラジオ局を出た。


 ちなみに、ラジオの普及率はまだそれほど高くはないものの、値段が徐々に下がっていて、連合王国では現在爆発的に普及しているとのことだった。庶民の娯楽の最先端となっているらしい。これならば、多少の宣伝効果は望めるのではないかと思う。予想外にお金がかかって少し涙目になった甲斐があるというものだろう。


 明日くらいにようやく頼んでいた写真入りのポスターが刷り終わるようなので、今日はもうとりたててやるべきことはなかった。俺たちは黒塗りの高級車に乗り込み、事務所へと戻ることにしたのであった。もちろん、運転手は変わらず俺である。


「ラジオ収録、お疲れ様でした。どうでしたか、感触みたいなのは?」

「感触……かぁ。……いや、前に人とかいないし、分からんだろう」

「あー、確かにそうでしたね。私、あまりこういう機械得意じゃないので……」


 ミュリアが若干しゅんとして俯いてしまった。俺が運転しながらオロオロオロロしていると、グローヴィアが空気を察したのか、察していないのか分からないが、話題を変えてくれた。


「そういえば、あの演説はやっぱり結構な効果があったみたいですねぇ。心なしか、今までよりたくさんの人に話しかけてもらえるようになりましたし」

「言われてみれば、確かにそうだな。事務所に来てくれる人も本当に増えたし、チラシも受け取ってくれる確率が相当高くなった気がする。あの子たちで対応できていると良いが」


 これまでは、一日に三人もくれば多いくらいだったのだが、演説会の後は、それはもうひっきりなしに人が来るようになった。演説会を手伝ってくれた例の学生の皆も、みかねて応対をしてもらっているくらいであった。彼らは本当によくやってくれていた。


「いやあ、……恐縮ですが、先生にそこまでの演説の才能があるとは思っていませんでしたぁ。なんでしょう、あの、人を惹きつけるような、惹きこませるような口調と言うか、雰囲気と言うか……。どこかで学ばれたりしたんですかぁ?」

「いやいや、まったくそういうことはしていないよ。なんというか、あの時のことはもう正直覚えていないんだ。もう本当に無我夢中でな。なんなら、あの時は誰か霊的な者が乗り移っていたんじゃないかくらいなものだよ」


 あの時は、自分でも恐ろしいというか、不気味な感じであった。演説の台に立って、強烈な照明を浴びたところまでは覚えているのだが、それ以降の記憶は全くないのだ。いや、何となく夢の中で何かを喋っていたような感じはあるのだが、何を話したのか、どんな風に話していたのか、については一切合切記憶にないのである。気づいた時には、演説台を降りて、順番を待っていた場所に戻ってきていた。タイムスリップでもしたかのような、そうでなければその間だけ誰かに乗り移られていたのか、……俺の乏しい想像力ではこの程度しか思いつかない。


 録画やら録音やらをしておけば良かったな……。次からはしておくことにしよう。色々勉強にもなるだろうし。


「はへー。まあだとしたら、いい幽霊か何かに乗り移ってもらいましたねぇ」

「まったくだ」


 はっはっは、と二人で乾いた笑い声をあげていると、ミュリアが何事もなかったかのように、自然に話しかけてきた。


「演説については、本当に良いものでした。しかし、一つ気になったのが、例の暴力集団です。噂には聞いていましたが、我々のような関係者のみならず、演説を聞いている聴衆に対しても平気で暴力を振るうとは……。クロちゃんが呼んでくれたあの人たちがいなかったら、まずいことになっていたかもしれないです。やはり選挙と言うのは危険なものなのですね」


 これも、記憶にないから何とも言えないのだが、後でミュリアや学生の皆から聞いたところによれば、相当に酷いものだったらしい。幸いにも死者は出なかったようだが、かなりの重傷を負って今も入院している市民でさえもいるようだった。他の地域では、平気で死者が出ることもあるらしい。恐ろしいことだ。


 拙い記憶をたどれば、確かワイマール共和政期のドイツでも、同じように政党所属の軍事組織のようなものが、お互いに演説会場に殴り込みをかけたり、党員を襲撃したりしていたような気がする。きっと、この国でも同じような感じになっているのだろう。


「ああ。俺はともかく、君たちや、手伝ってくれる学生の皆に危害が加えられたら非常にまずい。何とかしないとな……。……というか、あの者たちに護衛についてもらえばよいのではないか? クロちゃん……いやグローヴィア、どうにかならないのか?」

「別にクロちゃんでも良いんですよぅ? まあ、それはさておき、確かに護衛部隊的な組織を作るのは良いと思います。……彼らをそのまま入らせるのは、……色々不都合があるので勘弁してもらいたいですが、もし組織するのなら、私もそれっぽい人たちを紹介しますよ」


 不都合が何なのか非常に、物凄く興味があるが、つっつくのは遠慮しておくことにしよう。


「おお! じゃあ、頼んでも良いか? そしたら、その部隊の責任者はク、……グローヴィアに任せることにしようか」

「お任せください! じゃあ、早速集めてみますね。この街や、……ファナちゃんに頼んで全国でも募集をかけてみましょうか」

「それも良いな。後で手紙書いておこう。……手紙か……」


 そんな感じで喋っていると、事務所に着いた。平日の昼間ということもあってか、事務所に集っているのは暇そうなおじいさんとおばあさん、それに授業がないかサボっている学生くらいであった。しかしその数はなかなかのものだった。


 俺たちはしばらくの間その応対をしていたのだが、俺はふとある用事を思い出し、応対を皆に任せて奥の部屋に引っ込んだ。


 椅子に座って少しぼーっとしていたが、こんなこともしていられないと思い、俺は小さい棚の引き出しから手紙を取り出した。手紙の送り主はファーナリア。そう、俺が例の演説前に読んでいたものである。


(普通、こんなの気付かないんだよなぁ……)


 というのも、あの無駄に美しい文面の手紙には、実は続きがあったのである。どういう配慮なのかは分からないが、少し見ただけでは分からないような細工が施されていて、それを解くと更なる文面の続きが現れたのである。昨日の夜に偶然手紙を見ていて、これに気づいたのだった。


 その内容は、……要約するならば、こんな感じであった。


 曰く、中将のことだから、既にリモ・トルトでの活動には一区切りついていることでしょう、そこで来週の初め頃には、その街を一旦離れ、まずは連合王国東部を中心に遊説をお願いしたいです、既に日程は決まっているので、後日予定表を送ります、それまでに活動方針等を考えておいてくださいね、あ、演説内容もね、…………みたいな感じであった。もう、突っ込みどころしかなかった。因みに、その予定表は今朝届いた。それによれば、来週の火曜日にはこの街を離れ、三千五百キロほど離れた都市にて、何やらでかい屋外演劇場を借り切った演説会を開くことになっていた。最大五万人収容可能、というどうでも良い情報が誇らしげに、憎たらしげに書いてあった。


 いやいや、あの、あのですね? 私はですね、演説なんてほとんどやったことのないズブの素人である上に、人並外れた人見知りなわけです。そんな私が数万人――そんなに来るとも思えないけど――の目の前で、まともに演説なんてできると思っているんですかと。もうこのファーナリアちゃんに小一時間ほど問い詰めたい気分であった。


 というかそもそも、まだこの街ですら支持を固めたとも言い難いのである。確かに、例の演説会には、俺の出番になって会場の広場に溢れんばかりの人が集まったらしいし、少なくない支持を固めていることは確かなのだろう。業界団体などの、組織票が見込めるところにも何回か足を運んで支持を訴えて、悪くない反応ももらっている。とはいえ、衰退し始めとはいえまだかなり大きい都市であるところのリモ・トルトにおいて、当確レベルの支持を集められたかと言われれば、まだまだ怪しい点がある。そんな状況で街を離れるのはそこそこの怖さがあるのだった。


 俺が手紙を睨みながらうんうんと唸っていると、お手洗いにでも行っていたのか、ミュリアがやって来た。


「……手紙見ながら唸って何をやっているのですか?」

「え? ああその、今後の予定について熟慮を重ねていたところだ」

「……ああ、ファナちゃんからの手紙ですか。いや、あれには本当にやられましたよ……。まあでも、やるっきゃないですからね、私たちは」


 俺がそうだな、と応じると、突然ミュリアは自信満々な様子で言った。


「ところで先生。その手紙にあった演説内容を考えといてね、という宿題は、もうなさったのですか?」

「……これから始めるところだ。今、こう、インスピレーションが頭に飛び込んでくるのを待っているんだ」

「先生、それではいけませんよ! 演説というのはですね! 非常に奥が深いんです! もう、底なし沼のようなのです! 下手に打ってしまえば、演説は人を惹きつけるどころか、とんでもない醜態を公衆に曝け出すことになってしまうのです! そうなれば、我々国民運動が勝利を飾るどころか、党首であるところの先生が落選することにすらつながりかねません! ここはしっかりと、慎重かつ丁寧に演説の原稿を考える必要があるのです!」


 ふんす! とでも言うように、豊満な胸をこれでもかと言うくらいに張ってきた。突然何を言い出すんだこいつは、と思いつつ、眼を逸らしながら俺は言う。


「そ、そうだよな……。ああ、そうだ、もしお客さんの対応が問題ないようだったら、私と一緒に演説内容を考えるの手伝ってくれないか? 一人ではとてもじゃないができそうにないんだ」


 まっかせなさーい、と言うように、胸を一回ドンと叩きながら、了解ですと言ってくれた。


「さてさて、では始めていきましょう! ……ところで先生。先生は、演説では何を語るべきか、演説で聴衆に何を伝えるべきか、その辺りは分かりますか?」


 まるで教師が生徒に問いかけるようにミュリアは言う。俺は生徒のように考えて口を開いた。


「うーむ。まあそれは、私が有権者に訴えたいことを語るべきなのだろうな。私が国民運動の党首として、政権をとったらこんなことをします、とか、そういう政策を語るべきなのだと思っている」


 そう言うと、ミュリアは頷きつつも、指をピンと立てて言う。


「なるほど。確かにそういうやり方も全くの間違いというわけではないと思います。そういう演説をする人も、多くいるでしょう。


 しかし先生。よくよく考えてみてください。先生が演説台に立って、数えきれない聴衆に語りかけるとしましょう。その時に、先生が小難しい政策をいくつも並び立てて、これをやります、あれもやりますと単調な調子で話し続けたとして、一体何人の聴衆がそれに耳を傾けるのでしょうか?」


 ……ぐうの音も出なかった。まあ確かに、俺のいた世界でも、有名な政治家ならともかく、無名の政治家の演説をわざわざ足を止めて聞くだなんて奴は、よほどの物好きしかいなかったような気がする。まして、その演説がつまらんものならなおさらだろう。


「それはまあ、……その通りだな。だがそれならどうすべきなのだ? 大道芸人か何かのように面白い手品か何かでも見せてみるか?」

「うーん、まあありと言えばありかも……しれないですけども。


 まあでも、ここで私が言いたいのは、演説で語るべきは、単調な政策の羅列ではなく、ストーリーを語るべき、ということです!」


 すとーりー……? 俺が怪訝な表情をしていたのを見たのか、ミュリアは更に説明を続ける。


「要するに、人々の共感できるようなストーリーを語るべきと言うことです。


 昔から人は、物語が大好きなのです。遠大な目標を持つものの、今は何かが欠落している主人公が、幾多の困難に見舞われながらも、それを時には仲間の力も借りて必死に乗り越え、最終的に目標を達成する……そんな物語を人は常に求めているのです。


 そうだとすれば、演説であっても同じことです。人々が足を止め、耳を傾けるような演説とは、即ちストーリーのある演説なのです!」


 これまたエヘン、というかのように、胸を張るミュリア。


 俺はその話を何とか頭に染み込ませるべく、うんうんと頷いていた。


「うむむ。……具体的には、例えばどんな感じになるんだろうか?」

「うーん。そうですね、例えばこんなのはどうでしょう。


 ここでの主人公は、我が国、連合王国です。連合王国は、自国の主権を西から守りつつ、しかも大いなる飛躍を遂げて帝国すらも超えたい、そんな目標を立てるとします。だけれど連合王国は、未だに国内の統一がなされておらず、極左から極右まで数多くの反政府暴力集団が跋扈し、経済成長にも若干の陰りが生じ始め、人民共和国の静かなる圧力を受ける、まさに内憂外患状態にある。そんな、言ってみればダメダメな主人公であるところの連合王国が、内憂を排し、外患を除し、並み居る大国との過酷な生存競争に打ち勝って、世界一の強国となる……。こんな感じのストーリーに肉付けをしていくとか……ですかね」


 むむむ。そうか、主人公は別に人でなくても良いわけか。


 何となくイメージが掴めてきたような気がする。


 俺は必死にメモを取りつつ、ミュリアに更なる教えを乞うた。


最終防衛ライン()を突破されてしまいました……。文字書くのって大変なんですねorz

今週末は少しだけ頑張ってみようかなと思っていたりします。期待せずお待ちください。

クーラーって偉大ですね。

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