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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第二九話 爆破予告? です!

「そろそろ作業は終了する予定です。合わせて大体五百トンといったところでしょうか。」

「承知した。……これはこのまま使えるのか?」

「いえ、幾つかの準備が必要となります。詳しいことは付属の説明書をご覧ください」

「なるほど……」


 王都近郊の某所。


 工場のような建物に隣接する飛行場で、十数機の大型輸送機に大量の木箱が積み込まれていた。積み込みを終えた輸送機は既に離陸態勢を整え、すぐにでも飛び立てるようになっていた。


「にしても、これほど多いとは思ってもみなかったな」


 前線から一部が下がってきた第一機甲師団第六六輸送連隊に所属する将校が、ぽつりと言った。


 第六六輸送連隊は、輸送貨物が多くなっても大丈夫なように、最近陸軍に配備され始めた最新鋭の輸送機、C-29トラーゲンを含めた編隊をここに送り込んでいた。しかし、最新鋭と言っても、最大約五トン程度しか輸送できないこの輸送機では、五百トンもの焼夷弾やその他の物資を運ぶことなど不可能であった。


 そこで急遽、方々から輸送機を借りるとともに、貨物列車を手配して残りを運ぶことになったのであった。そうした関係もあって、忙しそうに歩き回り業務をこなす作業員たちが、将校の周りはもちろん、工場及びその周辺の至る所にあふれていた。


「おい、列車の方の準備は進んでいるのか?」


 現地の責任者をしている男に将校は言った。


「はい、そちらももうしばらくで終了予定です。今夜中……明日の未明頃までには、全ての物資が到着するでしょう」

「……随分と早いな。本当にできるのか?」


 急に眼が泳ぎ始めた男は、うまい言い訳が考えつかなかったのか、諦めたように白状した。


「…………まあその、明日の未明頃までには物資が前線に届き始めると思います」

「とすると、全ての物資が届くのは……?」

「その……遅くとも三日後までには全ての輸送が完了する見込みです。あー、様々な必要物資も輸送しているので、少々時間が掛かっているものと……思います」


 将校は、軽くため息をつき、少しだけ痛みを発し始めたこめかみをグリグリと押した。


「…………。少々見通しが甘くなりすぎたのかもしれない。中将殿に報告しておいた方が良いな。誰か……と言っても、暇な奴なんかいないか。仕方ない、私がやるか」

「……誠に申し訳ありません! 一刻も早く作業を完了させます!」

「ああ……、間違いがないようにやってくれれば大丈夫だ。……と思う」


 敬礼とともに、責任者の男はどこかへと走って行った。


(作戦開始はなかなか遅くなりそうだ。問題がなければ良いが)




「ああ、そうだ。遅くとも三日後には輸送が完了する。作戦開始はその先だろう」


 工場の近くではあるが、無人の小屋の中で、男がボソボソと呟いている。手には有線電話の受話器が握られており、相手の言葉を待っていた。


『…………そうか、報告ご苦労。……それで、例の焼夷弾とやらの性能等について何か分かったか? こちらでも調べてみたが、数百年前の信憑性の薄い資料しか見つからなかった。どうだ?』


「……ああ、こちらでも手を尽くしたが、ガードが予想以上に固かった。資料を盗ることは勿論、見ることもできない。だが、基本的に火災を生じさせるものではあるらしい。おおかた、火災で森林を丸ごと焼き払おうという腹なのだろう」

『やはりそうか。しかしまあ、それならばいくらでも対策のしようはあるだろう。時間もまだ残されているようだしな。消火要員の外部への派遣を上に提案してみることにする。可能であればバンカーか何かも造れるかもしれないな。……他にも……』

「……ああ、その。……後はそちらで対応してくれ。こちらも長い間抜けていると怪しまれる。また何かあれば連絡する」

『そうだったな。また頼むぞ。……国王陛下万歳!』

「ああ、国王陛下万歳」


 受話器を置くと、男は素早く、しかし自然な動きで小屋を出た。何処に行っていたと言う者もいたが、男の正体に気づく者は一人としていなかった。


(焼夷弾か。陸軍も良く分からんものを開発したものだ。まあ、その情報も筒抜けというわけなのだが。陸軍は、……というかこの国の軍隊は、正面装備を整える前にもう少し防諜というものに気を遣うべきだろうに)


 自分のことをがっつりと棚に上げつつ、男はそんな心配をしてみた。実際、連合王国軍内部にどれほどの数のスパイ、内通者がいるのかを把握している者は誰一人として存在しない。連合王国軍内部では、国内外問わず、各種の組織が自らの目的のためにスパイを仕込み、諜報活動を盛んに行わせていた。連合王国軍はスパイと内通者で構成されているという言説も、全くの笑い話であるとは言い切れない、との噂も出るほどであった。


 軍どころか、政府の中枢にまで何某かのスパイが入り込んでいるとの噂も、出ては消え、消えては出てを繰り返していた。実際にスパイとして捕まった者は一人もいないので陰謀論であるとの指摘もあるのだが、真相は今のところ分かっていない。


(目の前のこいつらの中にも、どこかのスパイがいるのだろうか?)


 割り当てられた作業が終わり、一息ついている同僚らを見渡し、男はそんなことを考えた。


(まあ、俺には関係のない話だな。仕事がやり易いことに越したことはない。……にしても、今日も良い天気だな)


 ここ数日、雲一つない青空が広がっており、それほど標高のないこの場所からも、かなり遠くの場所まで見通すことができた。男はぐっと背伸びをし、王都を囲う山々を見渡した。どこもかしこも変わり映えのない、緑と焦げ茶の混ざった森しかないのだが、中にいる仲間の話から、要塞の大体の位置は分かっていた。


 その方角に手をかざし、全く予断を許さない戦いの行く末に、男は思いを馳せるのであった。




「というわけで、例の物資の輸送完了は明日いっぱいかかるみたいです。焼夷弾って重いんですねぇ」

「そういう問題ではないような……。とはいえ、時間が掛かることには間違いありませんね。そうなると、作戦開始もずれ込むことになってしまいます」

「そうだなぁ。まあ、まだ日程には余裕があるわけだし、何とかなるとは思うが」


 少尉帰還から四日後。


 第一機甲師団は次なる作戦に向けて準備を本格化していた。破損した戦車を何とかして修理・整備し、破壊された戦車は後方へ送って代わりを要求する。負傷兵を必死に治癒し、元気な者は訓練を行わせる。森林を焼き払った後の要塞突入ルートについて念入りに確認する。そんなことがここ数日ずっと続いていた。


 一応要塞に向けて適当に攻撃を仕掛けてはいるが、敵にプレッシャーを与える程度の軽い攻撃しか行われていなかった。敵も、こちらの大規模な作戦行動を予期しているのか、深追いなどせずに適当な防御戦闘を行うのみであった。この状況だけ見れば、ほとんど休戦状態と言っても良いのかもしれない。そんな現況であった。


「みんな忙しそうですねぇ。働きすぎは良くないと思います」

「お前は暇そうだな……。暇すぎるのも良くないと思うのだが。まあ俺も今のところこれといってやる仕事はないから何とも言えないけど」

「これからとんでもなく忙しくなるわけですし、今くらいは少しのんびりしていても良いと思いますよ」

「そういうことにしておこう」


 その後、何人かの将校が入ってきて細かい事項の確認をするなど、少し忙しくなったが、それも一時間としないうちに終わり、また暇になった。すると、中尉が思い出したように話しかけてきた。


「そういえば、偵察の兵士たちはまた何処かに派遣されたのですか? 最近あまり見ない気がするのですが」

「ああ、その通りだ。作戦が始まれば、偵察部隊はそれほどやることが無くなると思ってな。だから例の、王室関連企業周辺を洗ってもらっているんだ」


 実際には、作戦中も偵察部隊の任務は少なからずありはするのだが、どうにか無理を言って一部を王室企業の調査に派遣したのであった。


「本当にあそこから要塞へと通じているのであれば、少なくとも作戦開始後にはこれを封鎖しておく必要があるからな。今だと、そのための周辺地域の調査をしている頃だろう」

「なるほど。確かに、作戦中にあそこから物資やら情報やらが入り込んでいたらなかなか厄介ですからね」

「それに、そこから指導者連中が逃げ出す可能性もある。そうなっても色々面倒だからな。先手をうっておいたというわけだ」

「良い手だと思います」

「だろう? もっと褒めても良いのだぞ?」

「わーすごいですぅ。……でも、どうやって封鎖などするのですか? いくら一企業とはいえ、王室とのつながりは面倒ですよ?」


 突然の振りに少し俺は戸惑ったが、どうということもないように答えた。


「……まあ、その、…………ねえ? 少尉の活躍である程度の証拠は掴めたわけだし、これを基に迫ればどうにかなるだろう」

「そう上手くいきますかねぇ? 我らが国王は権力保持のためならば何でもする御仁です。下手にその証拠を使っても、捏造だ何だと騒がれて揉み消される可能性が高いのです。そもそも、国王によるテロ組織の関与を理由にするとはいえ、国王と直接の関係はない王室関連企業を、我々のような戦闘部隊が強制的に捜査できるだなんて法律は存在しません。越権行為に当たらないはずがないでしょう。


 それに、いくら国王と愛国主義戦線に繋がりがあったとしても、国王にとって彼らは数ある手駒の一つに過ぎません。繋がりが危険とみれば直ちに断ち切るでしょう。そうなれば、もしかしたらこの師団も、中将もただでは済まないかもしれません。


 ああ、あと、私が見つけたのはあくまで愛国主義戦線の要塞で、国王からの指示若しくはそれに近い意味の内容が書かれた文書です。大きな証拠だとは思いますが、これだけで国王の関与を決定づけられるとまでは思えません。やはり、国王宮殿内に踏み入って、国王その人が指示を行っていたとの明確な証拠が必要だと思います」


 …………。


 ……………………。


 あーそーゆーことね、完全に理解したー。


 ……。


 まあその、要するに、少なくとも国王との関与を理由に例の企業に立ち入ったり物資搬入等を阻止したりするのはまずいということなのだろう。しかし放置することもできない。どうすれば……。


「秘密の出入り口を封鎖して、企業も愛国主義戦線に関与していたというような証拠が掴めるような方法が必要と言うわけですか。しかも、少尉の持ってきた証拠は使えない……と。なかなか難しい問題ですね。何とかして三五六大隊を入らせてしまえばこっちのものなのですが」

「そうだな。我々が合法的に、抵抗されることなく入り込む方法……か……」

「いくら何でも、軍が一応の私企業の土地に合法的に立ち入る方法なんてなくないですかぁ? こう、正当防衛的な、緊急避難的な方法ならともかくですけどぉ」

「うーん。あ! こんなのどうですか? つまり、こちらは軍の者であるが、これこれこういう理由でそちらの製品を接収したい……みたいな感じで、物資の搬入を阻止するんです」

「なるほど。……しかしそれだと、物資の搬入は阻止できても人の出入りや内部の捜索はできなくないか?」

「……。まあ、そう言うこともできますね」


 そう言うことしかできないだろう。しかし、方向性としては良い気がする。こんな感じでなにか……。


「じゃあ、我々は現在謎の敵の攻撃を受けている、ついては貴社の敷地内に避難させてくれ……みたいな感じなのはどうでしょうかぁ?」

「ほう。まあ、ありっちゃありだが、国内で謎の敵に襲撃されるというのは……どうなんだろうか。信じてくれるのだろうか」


 ニュースを見ている限り、そんなことは起きないような気がするのだが。


「……、まあ、私なら信じませんねぇ」


 ですよねー。


「中将閣下はアイディアが何かありますか? 是非とも、お聞きしたいです」


 中尉が若干不貞腐れた顔でそう言った。下手なことを言ったら喜んで文句をつけてきそうだ。そんなんそうそう思いつくものでもないだろうに。まあ、聞き始めたのは俺なのだがな。


「そうだな……。何かこう……。一発逆転でドカンと……」

「どかん?」

「そう、ドカンと一発的な……爆弾……」

「爆弾?」

「そう爆弾……。爆弾だ! 貴社の敷地若しくは建物に爆弾を仕掛けたとのテロリストからの予告電話がありました、すぐに捜索を致します、早急に避難してください! ……こんな感じはどうだ?」

「なるほどぉ。それなら確かに、物資搬入や人の出入りは制限できますし、内部を捜索する正当な理由となりそうですね」

「いやしかし、予告電話なんてそうそう来るものではありませんし、まさか我々がそんな電話をするつもりですか? 必要があるとはいえ、いくらなんでも責任問題となりますよ?」


 ……ごもっともな意見で。


 いや、悪戯電話でした的な感じで上手く誤魔化したり……なんてこともできるわけがないか。ばれたらどう言い訳しても俺は降格か不名誉除隊だ。まあ、イタ電で処刑されはしないだろうが。キャリアが終わることだけは間違いないな。


「……爆破予告がされれば良いんですか?」

「え? ああ、まあ、そうなるな」

「なるほど。それでしたら、わたしにお任せください! 作戦決行の少し前くらいに予告の電話が入るようにしましょう」

「はえ? いや、どうやって……?」

「ひみつ……です」


 満面の笑顔で、しかしあらゆるものを拒絶するような眼光で俺を見つめるグローヴィア少尉さん。


 これ以上何か聞こうものなら、明日にでも俺はこの陣地の何処かで惨殺死体となって発見される気がする。まだ死にたくない。


「で、できるのか? 本当に、可能なのか?」

「ええ、問題ありません。大船に乗った気分でいて下さい!」


 ……もはや何も言うまい。少尉ができると言えばどんなことでもできるのだ。できる、即ち成功するのだ。この件は少尉に任せることにしよう。そうしよう。


「となると、……あまりこの件を広めるのも良くはないだろう。この話はこの部屋だけに留めて、大隊には周辺の警戒を行うようにのみ命じておくことにしようか」


 俺は卓上電話で短く言葉を伝えた。相手も特に疑問に思うことなく承諾した。これで良し、と。


「……そしたら特に仕事もないことだし、各部隊の状況を見回りにでも行くかな」

「あ、お供します」


 中尉が明るい顔で言った。まあ、こんなむさ苦しい部屋にいても息が詰まるだろうしな。


 そうと決まれば、早速行くことにするか。




 それから三日後、深夜。


 新型焼夷弾を満載した第一航空団第四任務群の爆撃機、B-1エアストフォーゲル数十機が飛行場から離陸し、センペルヴィエント王政復古愛国主義戦線の山岳要塞に向けて飛び立った。第一師団陣地には無数の野砲が砲火の用意を整え、歩兵連隊は陽動の突撃を準備していた。


 山の向こう側、王室関連企業が集積する区域周辺には数百の偵察大隊兵士が、敷地内への潜入を敢行すべく走っていた。上空では輸送機から無数の空挺兵が飛び降り、間もなく敷地内へ侵入しようとしている。


 ピカッ!


 と、第一師団陣地上空で花火のような照明弾が放たれた。作戦開始の合図が全部隊に伝達され、戦いの火蓋は遂に切って落とされた。


次回、遂に二回目の作戦が始まる。第一機甲師団の、愛国主義戦線の命運はいかに? 来週も、サービスサービスぅー!(エヴァ風味)

もう春ですね。というか、もう半年以上続いているんですね。月日の経つのは早いものです。


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