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異世界指揮官生活。  作者: 谷澤御嶽
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第二七話 国王登場、です!

 王国宮殿。


 それは、連合王国の全ての財力をつぎ込んだかのような、あらゆる贅を尽くした荘厳にして壮麗、優美にして華美な大宮殿である。その広大な土地は、王都全体のおよそ十パーセント弱を占め、大小さまざまな建物が存在していた。現在も、多くの建物が建築されたり、あるいは取り壊されたりしており、まるで宮殿自体が一つの街のような様相を呈していると言っても間違いではないだろう。区画自体も微妙な変更が繰り返されており、今でこそ宮殿の外に存在する国会議事堂や最高裁判所も、元々は王国宮殿内にある建物の一つであった。


 それほどに広い宮殿であるために、その全貌を余さず知る者は一人としておらず、国王ですら例外ではなかった。警察も、宮廷警察という国王直属の機関しか存在せず、一般警察は内部に入るのですら至難の業であった。しかし、そうであるが故に、秘密の会合を開いたり、非公式な集会を開くにはもってこいの場所でもあった。


 そんな王国宮殿の某所において、少数の男たちが狭い部屋に集っていた。正確には、それなりに広い部屋の真ん中に御簾が垂らされ、一人の人物がどの一方に、他の者たちは他方の空間に押し込められている、といった状態であった。


 狭い方にいた男が、恭しく御簾に向けて言葉を発した。


「既に、陛下におかれましてご覧いただいた通り、愛国主義戦線は、軍の攻撃を完全に破砕いたしましてございます。全ての防御用設備は滞りなく機能し、戦線の損害は極めて軽微であり、軍の損害は相当に大きいものでございます。


 しかし、今後の戦闘に思いを致しますに、このままでは、やがて防衛体制が先細りしていき、その未来は決して明るくないものとなるでしょう。戦線と致しましては、更なる御支援を、閣下より賜りますように、お願い申し上げる所存であります」


 御簾の中の人物は、どこからか現れた影に何事かを申し向けた。影は、御簾の近くに行き、御簾の外側の者たちへと言葉を告げた。


「閣下は、あい分かった、これからも諸君らに手助けを行う、と仰っている。戦線には今後とも閣下のために働き、閣下の目的を達成するために頑張って欲しい、とも仰っている。……詳細はいつもの通り伝えられるだろう」

「はっ! お待ち申し上げております!」


 御簾の中の人物と影は、いつの間にか消え失せた。男たちもまた、部屋から出て行ったが、建物の入り口から出てきた者は一人もいなかった。


 最近は曇りがちであった空から少しずつ雲が溶け、明るい陽射しが地面を照らし始めた。穏やかな冬の一日らしい、カラッとした気持ちの良い陽気であった。しばらくは、こんな天気が続くように思われた。




「…………。…………。……! や、やっと終わった……」

「お疲れ様です。お茶、入れてきますね」

「ああ、ありがとう」


 あの悲劇から二日ほど経った。


 あの後、俺は、ふと思い立って、戦死した兵士たちの遺族に向けて、お悔やみの手紙を書くことにした。戦死が確定した百八十三名の勇敢な兵士たちの、その一人一人に対して、その人柄や活躍の様子を記したものであった。何となく始めてみたのであるが、なかなかに骨の折れる作業で、今は徹夜明けであった。


(……まあしかし、これで少しは供養になるだろう)


 遺品や遺骨は可能な限り集めてあるし、後は、この手紙と一緒に送るだけとなっていた。このような作業はなかなか負担になるといってほとんどの部隊では行われていないらしく、周りからは若干奇異の眼で見られはしたが、指揮官としては大切な任務であるように思う。こういった任務こそが、真の指揮官の一歩と言っても良いだろう。こうすることで、今後の作戦の犠牲をなるべく減らし、犠牲となった兵士たち一人一人に思いを馳せ、その死を無駄にしないことを誓う。それらが、指揮官の心を作り上げていくのだ。


 ……みたいな感じのシーンが、俺の昔観た戦争映画にあった気がする。なんて題名だったかな……。子供心に、あのシーンは印象に残った。あのおっさん俳優も凄く格好良かった。


 それはさておき。


 多少の慰めにはなりこそすれ、嫌がられることはないだろう。……ないと信じたい。そう祈っておこう。


「そういえば、偵察部隊の者たちはどうなったんだろうか?」


 俺は、傍らで謎の柔軟体操に勤しんでいた少尉に話しかけた。少尉はヨガとラジオ体操を混ぜたような不思議な動きを続けつつ、応えた。


「そういえば、報告はまだですねぇ。んっ、いやでも、まだ二日しか経ってないですし、……よっと、……まだ終わってないんじゃないですかぁ?」

「……まあ、そう言われればそうだな」

「中将が慌てても仕方がないことですよ。落ち着いてどっかりと構えていましょう」


 お茶を持ってきた中尉が言う。この世界にもあった緑茶は、やはりとても旨いものであった。何杯でも飲みたいところではあるが、このような嗜好品がいくらでもあるわけがないので、一杯で我慢しておくことにしよう。


 それにしても、彼らはしっかりと生きて帰ってくるのだろうか。送り出してから二日間、時を追うごとに不安が募ってきた。研究と訓練をしているとは言っていたが、あの悪夢でしかない山の中で、果たしてそれが通じるのか、心配でしかない。もうお悔やみの手紙を書く元気は俺にはない。ペン蛸辛い。腕の筋肉痛酷い。


 そんな感じに思っていると、扉を叩く音が聞こえた。どうぞ、と声をかけると同時に、扉が開き、少し汚れた軍服を身に纏った兵士が入ってきた。兵士の男は、綺麗な敬礼と共に、びしっと決まった表情で、俺を見据えた。


「第三五六偵察大隊、ただいま帰還いたしました!」


 第三五六……? って、ああ、二日ほど前に送り出した偵察部隊か。もう帰ってきたのか。

 うん?


 マジで?


 いやいや、だって、ついさっきまだ帰ってこないよね、って話をしたわけで、いくら何でも二日であの山岳要塞の偵察などできる訳が……。ああ、もしかして失敗の報告か?


「よくぞ帰還した! それで、結果は?」


 中尉が威厳に満ちた声で問うた。隊長も、それに応えるように、大きな声ではきはきと話した。


「はっ! 我が大隊は、指示を受けた任務を全て完遂致しました。要塞入り口をはじめ、要塞内部のほとんどの坑道を探索し、記録致しました。今、部下たちが結果をまとめておりますので、後ほど報告書を提出いたします。少々お待ちください」


 やはり、そうそう上手くいくわけが……、って、完遂致したのか!?


「完遂、したのか! なんという……。犠牲者は出たのか? どのくらいだ?」

「はっ、複数の負傷者が出たものの、死者はおりません。全員健在です」

「それは……、良かった。報告書が完成したらゆっくりと休養を取ってくれ。ご苦労であった。……ありがとう」

「はっ! 恐縮です!」

「……ああ、そうだ。大隊長。貴官の大隊はこれからジェバンニ大隊と名乗ってみないか?」

「へ? は、はあ、承知いたしました……?」


 不思議そうな顔のまま、隊長は部屋を後にした。


「……なんですか、ジェバンニって?」


 少尉がしょうもなさそうな顔で、しかしコサックダンスのような足の動きをしながら俺を見つめてきた。

「……なんでも一晩で完璧にこなす凄い奴のたとえだ。オスティウムだかどこかの諺であっただろう?」

「そう……言われるとあったような気がしなくもないような……?」


 …………は!


 あまりの驚きで訳の分からないことを口走ってしまった。ジェバンニってなんだよもう。


 まあしかし、もう終わったというのであればそれに越したことはないのだ。後は報告書を見て、敵の弱点的なサムシングを発見し、そこを重点的に攻めるだけだ。なんと簡単な作戦なのだろう。


「……証拠?」

「……? 証拠って何です? 何の証拠ですか?」


 少尉に釣られて不思議な動きをしそうになっていた中尉が、我に返ったように俺に訊ねてきた。


 俺は今、ふと何とかいう中佐だか少佐だかが言っていたことを思い出した。確か、愛国戦線と国王に何らかのつながりがあって、その証拠をどうにかして探してこい、とのことであった気がする。要塞にいるかもしれない知事も探してこい、とかいう命令も受けたかもしれない。そうすると、今後どんな作戦をするにしても、この二つは先に片づけておく必要があるように思う。……面倒なことを思い出してしまったが、やらない訳にもいかない。偵察部隊が、ジェバンニ大隊がこんなにも優秀であるなら、ついでにこれも頼んでおくべきだった。惜しいことをした。


 そんなことを少尉と中尉にポツポツと話すと、逆立ちをして謎の足の動きをしていた少尉がふと直立した。


「そういうことなら、私がやってきましょうか?」

「はえ? できるのか?」

「流石に何も情報がないなら厳しいと思いますけど、偵察してきた情報があるならそれほど困難なくできると思いますよぉ」

「まさか、一人で?」

「もちろん、一人で。ご命令があれば、今すぐにでも行って参りますよー。どうします、中将?」


 さっきから頭が混乱してクラクラしているのだが、少尉なら本当に何でもやってくれそうな気がしなくもないのは確かだ。こうなったら、勢いで頼んでしまうのもアリなのかもしれない。俺はそう思った。


「そう、だな。じゃあ、お願いできるか? 要するに、連中と国王とのつながりを示すような文書なり何なりの証拠を見つけて、ついでに死んでいるのか、捕まっているのか、招待されたのかは分からんが、恐らくあの要塞の中にいる知事連中若しくは知事だった連中を連れてくるなり、写真に撮るなりしてくれれば良い」

「はーい。……三十六時間以内に帰ってこなかったら、……まあそういうことだと思って下さい。では行ってきます」


 そう言うと、少尉は忍者の如くに部屋から消えた。……もちろん、扉から出て行ったのだろうが。


「……大丈夫ですかね?」

「心配なのか?」

「……まあ、そう言っても差し支えはないです。彼女は、やっぱり不安定というか、そんな感じがしますし」

「まあ、言いたいことは分かるが。きっと少尉ならやってくれるよ。たぶん。きっと。それより、そろそろ作戦考えないとな……」

「そうですね。……にしても、今日はまた一段と乾燥してますね。加湿器とかいうの持ってくれば良かったかしら。知ってますか、加湿器? ついこの間王都で発売されたらしいですよ。なんでも、乾燥を和らげてくれるとか。凄いですよね……。欲しいなぁ」

「加湿器か……。確かに今の時期は欲しくなるよな。……乾燥か」


 窓の外には、雲一つない青空が広がっていた。そういえば、天気予報は数日間この晴天が続くと言っていたか。気分はいいけどな……。


「…………乾燥、ね」


最近遅れが続いていたので、今回は二日連続してお送りいたしました(長くなった一話を分割しただけ)。

タシュケントが来ません。

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