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忘れないように…  作者: 火薬
7/10

野良





真っ暗闇から白い線がツゥーっと流星みたいに走っていって、それがやがて視界いっぱいに広がる景色になった。

それは例えば青色だったり例えば緑色だったり、それから黒や茶色に紺色だったりもしたかもしれない。

まぁ、今の俺に表現できることなんて、そんな曖昧さ加減だろう。


ゴツゴツした道路の上を車やバイクが、或いは人間がズカズカと蹴って走っていくのを見て

トラ柄をしたやつがくぁぁっと大きなあくびをして睨みつけていた。

本人曰く、別に睨みつけているわけではないらしい。ただ目ヤニで瞼がくっ付いてしまって訝しげな目つきをしているように見える

らしいのだ。

「眠りの邪魔になって仕方ない。お前もそう思うだろう?そう思うのはワタシだけじゃないはずだ」

眠っているのか起きているのか解らないような顔をしている癖によく言うよ。

そう思って俺は「偉そうに」と言ってやる。

トラ柄は「フンッ」と鼻を鳴らすとドラム缶の上から飛び降りてトテトテと路地裏の方へ行ってしまった。


とはいえ、その騒音を邪魔に思っていたのはトラ柄だけじゃないのは確かだった。

他の奴らだって鬱陶しいと思うから別のところに身を潜めてしまってるんだろうし、

俺もまたその騒音にまどろみを掻き消されてしまった被害者である。

眠ろうと思えばいつだって眠れるわけだけど、どうせこんな喧しい昼間にまた眠ったって

同じようにまたたたき起こされるに決まってるんだ。


俺はそこまで意地になって眠りたいわけじゃない。


「忙しいやつだな。」

「起きてたんだ・・・」

特に理由もなく俺もその場から離れようと思ったらゴミ捨て場から声がした。

別にゴミが喋ったわけじゃない。

積み上げられたダンボールとダンボールの隙間にロクは綺麗に身体を収納していた。

俺達みたいな野良猫の中でどうしてこいつだけ『ロク』という呼び名があるのかというと、

まぁ、気がついたらそういう名前で呼ばれていただけなのだけど・・・・

「ロクな奴じゃねぇ!」とかなんかそんな意味だった気もする。

どのみちゴミ山の中でぐっすり眠りこけてるやつなんてロクな奴ではない。


「寝てたけど起きた。もうそろそろいいかな?って思ってね」

「お前は睡眠時間を自分で調整してるのか?器用だな」

身体のどこかにそういうタイマーでも取り付けられているのか。

実はサイボーグなのかもしれない。

「どこか行くなら一緒にいこうか?」

「別にどこか行こうってわけじゃないよ。お前が無意味に惰眠を貪るのと同じで俺も無意味にフラフラしてるだけだ。」

蛇足してるだけだ。とそう付け加えた。猫だけどな。

ロクはふーんと唸った後、「じゃぁ、僕もついてくよ」とフラフラとついてきた。

「もしキミが僕を騙して自分だけでエサを貰ってたりしたら嫌だしね。」とか言い出す。

別にそんな事をする理由がないわけなんだが・・・・。

ロクは人の話を聞かない。



俺は猫である。

俺が猫だと、猫として生まれたんだと思い出したのは、つい最近の事だ。

物心がついたと言うよりは目が覚めたという感じ、思い出したという感じだ。思い出した。

自分の事を猫だと理解する前は俺は人間だった。

ただ、人間だった頃の俺がどんな人物だったのかとか

人間だった俺がどうして気がついたら猫になっていたとか、そういうのは覚えていない。

明晰夢ってやつなんじゃないかとか最初は思った。

人間だった事が?それとも猫になった事が?どっちもかな・・・。

考え出したら止まらなくなった。

もし元人間だったのならって思ったらムカデの足みたく今、猫として生きてる俺はどう生きてたか分からなくなった事もあった。

猫としての立ち居振る舞いみたいなのね。


とはいえ最近はそんな心の病気にも少し慣れてきた。

流石に横で生臭いカエルの死骸で遊んでるような奴が居たらそれどころじゃない。



先日、雨が降ったようで道路はジメジメしていて、おまけに少し蒸し暑くて焦げ臭かった。

遠くの通りを身体の小さな子供達が列を成して歩いているのが見える。

近所に小学校があってそこに向かっているらしいのだ。

やいのやいのと騒ぎながら歩く子供達とは別に、一人だけ離れたところからフラフラと歩く子供の姿も見えた。

「あんな騒がしいところにいたらトラ柄の奴は死んでしまうかもしれないな。」そんな風にロクは言うもんだが、

確かに言いえて妙ではあった。

「まぁ、死ぬ前に逃げ出すだろうけどな」

あの面倒くさがりのアイツがどんな顔をして逃げ出すのか興味深い。


「みんな散歩が好きだよなぁ。」

ロクは梅干みたいな表情を浮べて言う。それはきっと俺に対しても言っている事なんだろうと思った。

こいつに今更、小学生の事を話したところで伝わらないだろうから

「お前は寝るの好きだよなぁ」なんて返してやる。

「みんな寝てるよ」

「寝るならお前が一等賞だけどな」

そう言ってやるとロクは得意気に「そっか」と威張る。


「キミはなんで散歩なんてしてるの?僕としてはそっちのが不思議だよ。寝てるほうがずっと有意義じゃないか」

寝る事に対してまるで信仰心すら捧げてるんじゃないかと思う有様だ。

まぁ、猫は寝る生き物だから間違いではないんだけれど・・・。


「俺が散歩する理由・・・」


「そうだなぁ・・・なんだっけな・・・」


俺は忘れたなぁ・・・とそう返した気がする。




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