一ノ瀬柚子 2
みんなが登校してくる時間には、
気がついたら先ほどの青年はいつのまにか姿を消していた。
というかあの青年は誰だったのだろう。
先生という感じではなかったので普通に不審者だったのだろうか・・・。
勝手に決め付けられることが嫌い。
プライドなんて大層なものがあるわけじゃないけど、それでも少し腹が立ったのだ。
自分で思ったり言ったりするのはいいけど人に言われるのは嫌みたいな、まぁ都合のいいものだ。
人権を主張しているわけではないんだけど、単純に気に入る気に入らないというはなしだ。
「・・・溺死はやめた方がいい・・・っか」
死んだあとの自分の姿なんて関係あるものか。
しかし、私自身何故溺死がいいと思ったのかという動機を問われると明確な答えはない。
死に方なんていくらでもあるし、そもそも死ぬのならどれも一緒だとさえ思える。
カッコイイ死に方も何もないだろうってそう思う。
それでもどうしてか、死ぬなら溺死がいいと率直に希望している。
「いらっしゃい。今日もお遣いかい?」
スーパーのかごに夕飯の食材を積めていくと近所のおばちゃんが手招きでレジへ通してくれた。
因みに私は列の最後尾に並んでいたのだけど、どういうわけか他の並んでいたお客さんも
どうぞどうぞと先を譲ってくれた。
「順番は護るべきでは?」
「いいのいいの。こういうのは早い者勝ちだから。」
はなしが噛み合わないというよりは自分がルールだという具合に胸を張る。
おばちゃん・・・サチコさんは別に店長とかではないのだけど風格は既に店長を超えているのでいいとかそういう訳ではないんだけど、
どうにもこのスーパーに一歩脚を踏み入れたら叶わないところがあるようだ。
「今日カレーなのね。唐揚げおまけしとくわね。」と勝手に惣菜コーナーから唐揚げを拝借してきて袋に詰めだす。
先ほども言ったけど店長すら適わないような存在なので、もはや否応なしだ。
すると私があたふたしているところへサチコさんは言った。
「唐揚げ嫌いだったかい?」
「好きですけど・・・」
「子供は食べきれないくらい食べればいいの。もちろん全部食べてくれたほうがいいんだけどね。」
お腹がすくと、もっと食べておけばよかったって思うもの。
と、そう言った。
そう言いながらサチコさんはコロッケの入ったトレイまで袋につめていた。
その日、私は油で胸焼けしそうな思いをして死にそうにな気分だった。
何とも贅沢な死に方だと甚だ可笑しくて仕方がなかった。




