一ノ瀬柚子
世の中というものは選べないものや出来事が多いと私は思うわけだ。
選べないことが多い。
というより選ぼうと右手を挙げて「お断りします」という拒否権を選択する前に既に決まっている。
決定付けられている。
今やどこにでも売られているロールプレイングゲームに登場する勇者だって、「はい」か「いいえ」か
の選択肢が与えられているものだ。
確かに拒否権のないシーンも中にはあるものの、それでも私程ではないだろう。
自負できる。
選択肢のない私は、胸を張って自負できる。
さっきも言ったが私くらいになれば瞬きをする間もなく私の事が決まっていく。
瞬き?いやいやそれどころじゃない。
もはやこれは私が気がつくか気がつく前から既に決まってしまっていることだ。
私の事だというのに気がついたら私は既にこの世に生まれていて、
私の事だというのに気がついたら私の名前が決められていて
私の事だというのに気がついたら私の通う幼稚園も学校も決められていて
そして、今日も私は勝手に決められた服に身を包み勝手に決められた靴を履いて学校に向かうのだ。
もう夏だというのに、学校の水道の水は冬みたいに冷たい。
教室の花瓶に水を汲むのは本来ならば、その日の日直であるはずなのだ。
それを毎朝私が行っているというのはいかがなものなのか?
これもそうだ、気がついたら私が行っていた。という事なのだ。
「学級委員の仕事だろ?」
いつだったか誰かが言った一言だ。人事のような一言だった。
おそらく彼がその日の日直だったのだろうと思った。
日直は二人一組で毎日変わりばんこに決まっていくのだが、
この時からか『日直』という言葉が都市伝説のように扱われはじめた。
都市伝説というより、幽霊という感じが近いかもしれない。
そうだ、幽霊だ。
黒板も適当に全部消してしまうから現在誰が日直なのかもわからないという有様だった。
適当なのだ。
適当だから掃除も適当だし、花の水変えも適当だ。
黒板消しや日直日誌でさえも適当な扱いで、その存在を担任の先生だって曖昧なのだ。
だからこうして学級委員だって適当に決められてしまう。
私が何か言い出すか言い出さないうちに決め付けられてしまうのだ。
本来の日直日誌の行方がわからないと知ったあたりから、私自身が自主的にこうして書いて
書きなぐっている日記は、もうすっかりただの愚痴で埋め尽くされている。
「言いたい事は言えばいいじゃん」で殴られている。
言えていたら苦労はしない。
いや、だから言おうとして気がついたら終わっていたんだってば。
気がついたら拒否権すらなくなっていたんだってば。
遅いんだ。果てしなく私は遅いのだ。
そうして私は、私自身が気づいたときに愚痴り日記にしてしまったノートを
棄てることにした。見られると堪ったもんじゃないと思いビリビリに破いて捨てることにした。
いやいや、もしも復元なんてされたら堪ったもんじゃないと思い、更に火をつけて燃やすことにした。
火なんて小学生の私には扱いが難しかったけれど父親のライターをこっそり借りて
近所の河原で燃やした。
足元に何匹もプードルを引き連れて散歩していたお婆ちゃんに見つかってしまったものの
「学校の宿題です。」と言って誤魔化した。
一体なんの宿題なのか自分に訊きたいところだけれど、お婆ちゃんはどうやら納得してくれたようだった。
「・・・・・もし死ぬなら溺死がいいかもしれない」
気がついたときには注いでいた水は花瓶から溢れだして手をビシャビシャに濡らしていた。
感覚を思い出すと、その冷たさが堪らなく痛く感じた。
愚痴り日誌の代わりに書き始めたのがこの未来日誌だ。未来というと大仰かもしれないが
まぁ、どっちかというと寧ろ希望表という感じだ。
やる事なす事遅い私は希望を主張するのも遅いから思いついたら、気がついたら希望を書くことにした。
それも出来るだけ遠い未来になるであろう希望だ。
生まれたこと、名前をつけられたこと、学校へ通うこと、全てにおいて勝手に決められてしまった私が
自分の意思で決めることの出来るノートだ。
例え紙切れの中の絵空事であっても「はい」か「いいえ」かどころかもっと沢山の自己主張が出来る日誌だ。
「でも、溺死はやめたほうがいいよぉ?身体が水を吸ってブクブクのゴム風船みたいになっちゃうしブサイクだよ?お兄さんはそう思います。」
気がついたらその人は居た。
私が気がついたときには決まっていたように教卓の上に座っていた。
あろう事か先ほど私が置いておいた花瓶から花を乱暴に引き抜いて、その水をグビグビと飲んでいた。
「かと言って焼死もオススメしない。この蒸し暑い夏でもう絶望的なのにあんなサウナ地獄耐えられるわけないもんねぇ。うん。今では痛みも苦しみもなく死ねる機械があるらしいからお兄さんはそっちがオススメかなぁ。うん」
「・・・・・・痛いのが嫌だからとか、辛いのがいやだからとかっていう理由では選びたくないわ。そんなの卑怯じゃない。」
私がそう言うと教卓にどっしりと腰掛けたお兄さんは困ったように笑った。
いや、実際には困っていないかもしれない。どこか演技っぽい笑い方だ。
「それにそんな機械があったって、どうせ手の届かないくらい高いんでしょ?」
「僕にお金の話したってわかんないなぁ。まぁ、高いかもしれないね。それを買えるくらいお金があったら僕ならきっと、すっごい買い食いしちゃうかな。ゼリーとかプリンとかね。お兄さんはそう思うなぁ」
ならば何故、そんな機械を薦めたのだろうと疑問に思った。
「必要のないものは得ても忘れちゃうよねぇ。興味がある事じゃなければさ。」
だからその存在を知っていても詳しくは知らないんだとか、そんな風に言う。
「君が君の事を理解していないのと同じだね。あ、あと皆が日誌の有無を忘れているのと同じかな」
「私の事は私が一番理解しているわよ」
自分でもびっくりするくらい大きい声でそう言うと彼もまた「おっとでっかい声だね。」とおどけた。
そのわざとらしい笑い方にも腹が立ったが、自分の事を理解していないみたいに勝手に決め付けられたことにも腹が立った。
そうだ、私は勝手に決め付けられることが嫌いだ。
こんばんわ。火薬です。
『わすれないように・・・』を閲覧どうもありがとう御座います。
最近は毎日ギックリをやらかさないか不安です。たとえ若くても身体の使い方を間違えると簡単に身体を壊してしまうので気をつけてください。
いい仕事をしたいのならよく食べて、よく寝て身体を労わってあげるのです。
そして自分の発言なのに自分の耳が痛いことこの上ないです。
新しい主人公の登場です。
やはり小学生なのですけど、どうしても小学生らしくない口調の女の子になってしまいました。
女の子というか少女というか・・・。
気にしても仕方ないですね。
ここから彼女の生き様を書き上げていくつもりなので、また読んでいってください。




