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忘れないように…  作者: 火薬
4/10

巽ヶ丘空人4



書き物をしているとき、例えば油性のペンなんかで間違ったことを書いてしまったとき

みんなは、その紙をクシャクシャにして捨てるだろう。少なくとも俺はそうする。

死ぬ前、大学の課題や論文、それにバイトの履歴書なんかはそうだ。

最近では消せるインクペンなんてものも流通してはいるものの

人生なんてそうはいかない。


間違いを犯しやり直したいといっても紙の上のインクみたいになかった事にはできない。

そうなると、そうなってしまうともう燃やすしかない。

だけれどそうはいかないし、そういうわけにはいかない。


俺の書き殴った紙は確かにあった事だし、そしてなくならない

これは俺の記憶の中に確かに存在している。

だけれど今の俺にはないのと同じだ。



「いってきます」

あの時俺が誰も居ない部屋に投げかけたセリフだ。

なんだか交通事故を起こすその日を思い出してしまいそうになり、そのセリフすら死亡フラグに思えた。

そんな死亡フラグを背後に呟きかけると父さんも母さんも「本当に大丈夫なのか」とか「送っていこうか」とか心配してくれた。

「大丈夫だよ」とひとこと言うと俺は都内に建てられたアパートの一室を出て学校に向かった。

通常の通学路とは少し離れた位置にあるらしく俺の他には小学生は見当たらない。

とはいうものの目的地に近づくにつれてチラホラと小学生の姿が見られた。


「・・・・・・・・・」

自分が今小学生だという事は理解しているのだけど頭の中、精神的には大学生の状態なので

なんだか不法侵入しようとしている気分だ。

いや、これは多分それだけじゃないかもしれない。

単純に不安なだけだ。

新しい世界に踏み入れる瞬間というのはワクワクして胸が高鳴るものだけど

俺は嫌な思い出しかない。

嫌な思い出を振り返る場所という気もして腹の辺りが痛くなった。

帰ってしまいたい気にもなった。

そして、今ならそれが出来る。

『あのとき』は気がついたら学校に居て、気がついたら教室の前に居て、気がついたらクラスメイトを突き飛ばしていた。

けれど今の俺は違う。

今の俺は学校の前でそこに居るという事に気がついた。

今の俺は自分で決めて自分の足で学校までやってきた。

今の俺は取り返せる。やり直せる。ここで帰ってしまっても父さんも母さんも俺を責める事はない。


そう思い出したとき、既に俺の身体は角度を変えて

学校の正門に背中を向ける形になっていた。

「ハァ・・・ハァ・・・」とまるで喘息のような呼吸も学校から距離をおくにつれて穏やかになっていく。

そのままの調子でゆっくりゆっくり確実に学校から身体を離していき元きた道を戻ろうとしていると

「あれ?お前ひょっとして!!そーらっとぉぉおお!!!!」

「ぐっ!?げほ!!」

同じ学校と思われる少年が目の前から突風のような圧でL字型に折った腕を俺の首に引っ掛け体当りをしてきた。

「もぉおお!空人ぉぉお!!お前全然がっこう来ないからてっきり死んじまったもんだと思ったじゃんかよぉ!!」

締め上げられてそのまま身体を何かのアトラクションかというくらいにブンブン振り回され首と胴体が分離するんじゃないかと思った。

「かっちゃん、絞まってる絞まってる。空人くん本当に死んじゃうよ?」

「お?そっか。すまんすまん空人生きてるか!?生き返れ!!学校だぞぉ!今日の給食からあげだぞ!?」

横に居たもう一人の少年に止められて落ち着きを取り戻したのか俺は解放される。

しかし、これまた勢いよく揺するものだからまったく解放とはやはりいえない。




「みんな心配してたんだよ。大丈夫?」

そういう風に聞かれると「大丈夫」とは言えないんだけど「大丈夫」としか言っていない。

言ったって仕方ないと思っているのかどうなのか自分でもよくわかっていないのだ。

というか正直さっきのジョットコースター2連発を思えば出来れば保健室にでも行きたいと思ったところだ。

帰ってしまおうという衝動は先ほど俺に体当たりをした少年、かっちゃんこと梅田勝平に根こそぎ持っていかれた。

というかそのタイミングを失われた。

もう済し崩し的に校内へと連行された。


「事情は聞いてるんだ。」

カタンっと下駄箱から上履きを落とし高槻は言い出した。

梅田の薄汚れて灰色になった上履きと違い高槻の上履きはまるで新品のように真っ白だった。

因みに俺のは母さんが新しく買いなおしてくれたらしく新品だった。

「家の事さ・・・。」

「あぁ。」

「君の身体の事も心配だったんだけど・・・、触れるべきなのかどうか迷ってたところなんだけど、だけど遊びに行った事もあるし知らない場所ではないから僕としてもショックだったからね。」

記憶飛んでるから・・・なんて俺が言ってもそれでも彼らにはあるんだって思うと少し悔しかった。

自分の家なのに俺の記憶にはそれがなくなってしまっていて、でも彼らの中では燃えずに残っているんだ。

だから高槻や他のやつらが気にして何も言えなかったんだ。

「気にしてないとは言わないけど、なってしまったもんは仕方ないだろ。」

燃えてしまったというなら仕方ない。

少なくともその時の俺は生き残る事ができたんだから良かった。と思うしかない。

その時はそう思った。


「え・・・!?」

廊下に出ると、下駄箱の陰にその子が立っていた。その子・・・と表現していいのか

見知った、見覚えのある少年が俯いて立っていた。

その子が誰なのか記憶なんてなくてもわかる。覚えている。

何故なら彼は紛れもない「俺」自身だったのだから。

「・・・空人?どうした?遅刻するぞ?」後ろから梅田の声がすると、その「俺」は気化していったみたいに姿を消した。

幽霊のように見えた。でもそれは幽霊というより幻覚といった感じだった。

だってその「俺」は、あの時の「俺」だったのだから。

あの時、学校に復帰して失敗してしまった、あの「俺」だったのだから・・・。








お久しぶりすぎました。

まずは『忘れないように・・・』の閲覧ありがとうございました。

言い訳をしますと、他の投稿作品に浮気しててどうにもこちらに手が回らずにいました。

投稿主こそ『忘れないように』!!って感じですね。

何はともあれ年を跨ぐ前に投稿の目処がたってよかったと思っています。


来年もまた忙しい事があるのですがしっかり投稿していくので、また読んでいっていただけると嬉しいです。

では重ね重ね閲覧ありがとうございました。

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