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忘れないように…  作者: 火薬
10/10

野良 4




地面に張り付く干からびた奴を見た。

そいつを口に咥えて僕はトテトテと固いコンクリの上をいつものように歩いていく。

「ドンくさいな。君はそんなもので飽きないのか?とてもじゃないが、真似できないな」

ツンと生臭い雨と地面が焦げるような臭さが入り混じるのに我慢できなくて、

あと「いつもの場所」が騒がしくなってきて薄暗い路地裏に入って来たのだけど、そんなタイミングで

茶トラの奴に出くわし、そして出会い頭にそんな風にいつものお節介を言われた。

コイツの場合はお節介でもないか。

「今が君の言う『とても』な状況なんだよ。」

すがる様な思いで、地面を這いずり駆けずり回ってようやく見つけてきた晩御飯だ。

「それに飽きる飽きないの問題じゃないと思うんだけど?」

「ふん。」そう鼻を鳴らし塀の上をズケズケと身体の大きい茶トラは歩き去っていった。


つい最近、僕はご飯の宛を失った。

いつも食べるものをくれる頼みの綱である白髪頭の人間が突然居なくなった。と聞かされた。

あの白髪頭と同じくらい真っ白な猫に聞かされたことだ。

その子はそう淡々と僕に述べた。

今思えば、ずいぶんと図々しい事かもしれないけど

空腹を満たされた僕は、あろう事か今度は彼女に食って掛かった。

「冗談じゃない!」とか「そういう嘘はやめて!」とか自分でよく覚えてないのが無責任なところだけれど、なんだかそんなような事を言った。

だって食に関する事だし、命に関わる事だし

「いや、仮にも野良猫なんだから自分で食べるものの確保くらい出来るでしょ?え?ひょっとして出来ないの?男としてそれはどうかと・・・」

驚きと呆れ。

そんな差別入り混じった口調で罵られた。強かに・・・。

自慢ではないが狩りなんて出来ない。茶トラが言うように僕はドン臭いらしい。悲しい程に・・・。

悲しい上にみすぼらしい。との事だ。みすぼらしいは余計だけど・・・。

しかし、みすぼらしくても飢えるわけにはいかない。

「今までどうやって生きてきたの!?つか、何食べて生きてきたの!?どう食べてここまで立派・・・?に育ってきたっていうの!?」

畳み掛けるようにして質問された。

「いや、まぁカエルの死骸とか?」

「うげぇぇ・・・」

発光するように綺麗な白い彼女から吐き出すようなうめき声が聞こえた気がする。

「あとは魚の死骸とか、虫の死骸とか、あぁ、昨日は烏の死骸とか・・・」

「なんで死骸ばっかりなの?その死骸に対するひたむきな拘りは何なの?」

信じられないという声が迫る。

この死骸に関する僕のレパートリーを語りに語っても、これ以上は彼女をガッカリさせてしまうだけなので省略することにした。

その旨を伝えると彼女は胸を撫で下ろすように溜息を吐いた。吐き出した。

「貴方、本当にその名前に恥じないロクでなしっぷりね。」

「そう?はじめて言われたよそんな事。ありがとう」

「皮肉のつもりなんだけど・・・」

まぁ、自分でもカエルの死骸とかがそんなにいい物だとは思っているわけではない。

干からびたようにペシャンコに潰れたカエルの死骸と、ツヤツヤでプリプリの魚の缶詰、どっちがいいかと二つに一つと迫られれば

否、迫られるまでもなく僕は缶詰を選ぶに決まっている。

(まぁ、飽くまで例え話で缶詰なんて言い出したけど当然食べたことなんてない。

あるわけがない。)

しかしだ。

当然、ないものねだりなんてするわけにはいかない。

そんな余裕、僕に、僕等にはないはずなんだ。

食べられるものがあれば、当然食べる。それが僕だ。

帰るべき住処のある子にはわからない事だけれどね・・・。


「まぁ、また食べにおいでよ」彼女は僕にそんな言葉を投げてよこした。

まるで白髪頭のあの人間と同じだ。そう感じた。






俺が裏路地に戻ってきたのは雨があがってしばらくした後だった。

本能的に俺は雨に濡れるのを嫌がる傾向にあるらしい。

人間の頃はそんな事もなかったのになぁ。

むしろ、タイム・イズ・マネー。傘を買いに行く暇があるなら雨に濡れてでも時間を大切に扱っていた。

そんな奴だった気がする。

いやまぁ、飽くまで「気がする」だけなんだけれど・・・。

「今日はあいつとは一緒じゃないのか?あのカエルばかり食べる汚いやつ。」

「ロクの事か?」

「カエル」「汚い」という2つの検索ワードで誰の事を言っているのか分かってしまう自分も自分なので何も言い返さなかった。

実際、汚いし。野良猫とはいえ自分で毛並みの手入れもしないアイツ本人の責任だろう。

「そんないつも一緒なわけないだろう?猫なんだし自由にフラフラしてるんじゃないか?何?アンタでもアイツの事心配なのか。こりゃ雨が降るな」もう既に降ったあとだけど。

そんな皮肉めいた事を言ってやればコイツは気分を害してどっかへ逃げるかと思った。が、今日はそういうわけじゃなかった。いや、目障りだから帰れよ。

「アイツはロクなやつじゃない。アイツに関わっていると君もロクな目に遭わないぞ。」そう思っているのは私だけじゃないはずだ。なんていつもの口癖を言う。

助言なのか、いつものお節介と皮肉とセットでだ。フルコースじゃないか。

「生憎だ。ロクでもない目になんて既にあってるさ。帰ってきて早々、ろくでもない奴に出くわしちまったから俺は気分が悪い。腹を下したかもしれん」

皮肉には皮肉で返す。目上の相手だろうがお構い無しだ。だから早くどっか帰ってくれ。

そんな心情を察したのかはしらないけど、ようやく茶トラはいつも通り「フンッ」と鼻息を鳴らし

後ろを向きどこか薄暗い裏路地の奥へと身を隠しだした。




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