ジロー、いこいサーキットに行く
9.ジロー、いこいサーキットに行く
県道を結城方面から千葉県側に向けて車を走らせる。道路標識が直進花咲橋を知らせたところで市道を右折。片側1車線の畑や雑木林の横をしばらく走らせる
『コノ先300m左折デス』ポータブルナビがそう告げる
「トシ、あそこ左折だ」
言われてトシは車速を落とし停車する。
『左折デス』ナビが曲がれと促す。
入口手前から中をのぞき込む。未整備未舗装の4m程度の道路。両側に草が生え先には木も何本か生えている。
「農家の入口みたいですけど、大丈夫なんすかね?」
「ネットで確認した感じとちょっと違っているけど、行ってみようや」
雑木林が道上まで枝を伸ばし、トンネルのようになっていて日が陰る。そこを抜けると道が下りになり、下りきったところが所々錆びたネットフェンスで仕切られている。
『目的地ニ到着シマシタ。案内ヲ終了イタシマス』ナビがまたそう告げた。
そのフェンスが途切れたところに『いこいサーキット』のかんばんがあった。
「ここだ。有ったな」
「だいぶ下妻サーキットとは違いますね」外側は、背の高い雑草に囲まれて、お世辞にも手入れが行き届いているとは言えない。
少し肌寒くなった10月後半の平日の朝9時すぎ。いこいサーキットの入口をくぐると右側にプレハブの建物がある。そこが事務所のようだ。その奥がトイレ。左側に駐車場があり、その先にテントとベンチが置いてある。そしてその奥がサーキットコースになっている。
外からの印象よりも中はさっぱりとしてきれいだった。フェンスの境まで雑草を刈ってあり、ゴミなども見当たらない。
駐車場には手前側に幌付き軽トラックが駐車しているだけだ。ジローとトシは少し間を開けてさらに手前事務所側に駐車した。そして、すぐに二人とも車を降りてそれぞれに身体を伸ばしほぐした。
「やっぱ、バイクと装備と諸々積んで、二人乗車だと軽はキツイな」
「最低でもハイエースクラスですよね。」奥側の車を羨みながらトシが言った。「カワイコちゃんなら、狭くて全然オッケーなんすけど」
「賛成。トシみたいにちゃんと運転できるカワイコちゃんなら、最高だよな!」
二人は、ミニバイクレーサーNSF100を、軽自動車から降ろした。
中古の皮ツナギ、ライディングスーツもドアの内側の手掛けにぶら下げた。このツナギも偶然だった。
仕事先のバイクショップ、モトピット・マルヤが、20年以上前にレース活動を盛んにしていたことがあった。その時サポートしていたライダーのために作ったツナギが残っていた。ジローがNSF100を手に入れたことを伝えるとショップオーナーが小柄なジローなら合うかもしれないから、良かったら着てみるといいと勧めてくれた。それが偶然にもサイズがぴったりだったのだ。どうせ使わないから好きなだけ使っていいと貸してくれたのだ。またしてもジローは運命を感じた。
白無地のフルフェイスのヘルメット、レーシンググローブ、ブーツは最新のものを揃えた。バイクの積み下ろしのためのラダーは、会社の備品を借りた。見た目だけは、上級者に見える。