ジロー、職場で調べる
7.ジロー、職場で調べる
夕方、外仕事を終えたジローとトシは、中曽根設備工業の事務所に戻り事務処理をしていた。
「お疲れさんです。ジローさん、先上がりますよ」トシが自分のコーヒーカップをもって給湯室に片付けにたった。
「なにみてんすか?」
ジローのパソコンにサーキットのホームページが映し出されていた。
「近くにミニサーキットってのがあるって、下妻サーキットの人に教えてもらったんだ。」
「やっぱり、わかりますよ。あのレース観たらちょっと興味出ますよね。もし見に行くんなら、俺も誘ってくださいね」
「ああ、わかった。へえ、ここって、ライセンスすぐにくれるみたいだ。」
「ええ~!ジローさん、走るんすか~!」
「んな訳、無いだろ。サーキットの人が、絶対にケガするって言ってたんだから」
「ですよね~。そういえば、あの人五木田って言ってましたよね。あの人もライダーなんですか?」
「エッ」
「事務所に並んでたトロフィーに五木田って名前が書いてありましたよ。2015シモツマミニロードNS100クラス優勝ってなってましたよ。あのオジさん、現役なんすかね?」
「ホントかよ。あの人多分60歳近いよな」
「俺もそう思いました。だから、ジローさんだって全然大丈夫じゃないですか」
「NS100クラスッと……」ジローはネット検索した。するとその中の五木田がマシンとともに映っている画像が見つかった。
「本当にあの人だ。このバイク、ちっちゃいけどレース用のバイクだよな」そう言いながら、ミニバイク・レース・マシンとキーワードを打ち込むとHRC NSF100という画像があった。
「このバイクだよな」
「そうですね。」トシもモニターをのぞき込んで確認する。
そのとき、奥の部屋のドアが開いた。
「お前ら仕事終わってんならさっさと帰れよ。光熱費の無駄になるだろ」中曽根設備の社長、中曽根義孝が帰り支度で出てきた。中曽根は72歳。すでに現場からは引退して会社には暇つぶしに来ているような状態だ。だが、部下や支払先の業者には、威張った態度で接するような男だった。そのくせ、得意客は、もみ手で愛想笑し、いなくなるとケチ付けるような男だった。
「トシは早く帰って、家族サービスしろよ。家族は大事にするもんだぞ。ジローは一人だからってパチンコとか行くなよ。金は大事に使えよ」そう言い捨てて裏口から出て行った。
「どこ行こうが勝手だろうが。チッ、嫌みなジジイだな。」
「ホントですね。社長、金集めが趣味ですからね」
「トシ、お前が早く独立してオレを雇ってくれよ。給料安くていいからさ」
「ジローさんこそー」
「社長みたいに金集めるのが大好きな人間とか、トシみたいに家族に責任あるやつがやらないと会社なんかすぐに潰れちまうだろ」
「無理ですよ。オレ、金の計算できないっすから」
「智ちゃん、経理やってたんだろ。問題ないじゃない」
「まだ、翔馬と茉莉に手がかかるから、仕事できないっすよ」
「じゃあ、そん時までガマンするか。まあいいや、今日はしまおうや」