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下妻サーキット  作者: のーでーく
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ジローの動画

60.ジローの動画

「えっと、今日はシモツマスペシャルバトルの前日、夜の9時を回ったところです。私の名前は、斉藤次郎です。47歳なのにバイクレース参加します。他の人たちよりも事故のリスクが高いので、私が話のできない状態だったとき困らないようにメッセージを残します。」ジローは、視線を目の前に置いてあるノートからいったん上げ、そのノートの両側を持ち、立てた。ノートの表紙にエンディングノートという文字が書かれていた。そしてそれをまたテーブルの上に置いた。

「私、斉藤次郎が事故などにより延命措置が必要となったときは、AIDや心臓マッサージで蘇生する見込みがある場合、10分から20分程度の蘇生処置をお願いします。それ以上は必要ありません。そのまま死なせてください。脳死の場合も同様とします。死んだ後の葬儀等、また残ったものの処分などについて思いつくだけはエンディングノートに書きましたので確認してください。ここに置いておきます。」そう言って、ノートを持ち上げ、そのままテレビの下にあるブルーレイレコーダーの上の隙間に差し込んだ。

「それから、私が死んだ場合、お悔やみを言ってくれる人がいたら、伝えてください。ちょっと編集しやすいように一旦引っ込むから。」そして、フレームから消え、ちょっと間を置いてフレームインしてきた。そして、カメラに向かって一礼した。「わたくし、斉藤次郎と生前お付き合いいただき、まことに有難うございました。また、お悔やみの御言葉も頂き、本当に感謝いたします。このたびは、自身の未熟さにより、命を落とし、そのことにより皆様を煩わせたことを深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。この先、私自身は皆様の前よりいなくなりますが、残された家族に変わらぬお付き合い、お力添えをお願いいたします。生前の私との関わりを感謝し、御礼の言葉とさせていただきます。有難うございました。」そう言って深々とお辞儀をした。「それから、典行。私の子供でいてくれてありがとう。お前が頼りになる大人になってくれて、非常に助かったよ。お前も自分の信じた道を、一生懸命生きてください。ありがとうな。」

「そして、ツバメへ。オレは、ツバメに出会って、バイクに乗って、レースして、一緒に練習して、一緒に走って、本当に、本当に幸せだった。レース前、ツバメといこいサーキットで一緒に走ったよね。それがすごく楽しかった。だから、今度は本気で勝負するレースをいこいサーキットで企画しようよ。ツバメもライダーで出てオレと優勝争いしよう。それと、ツバメと同じチームで耐久レースも企画して、一緒に優勝を目指して走る。それから、日本全国のサーキットにトランポで回って、各レースを転戦するなんてのもいいよね。それも、夢だな。そんな夢を持つこともできた。ツバメと一緒に過ごし暮らすことができて、バイクで遊べて本当に幸せだった。ありがとう。ツバメ。オレがいなくなっても、ちゃんと飯は食えよ」そう言いながら、手を振った。「最後に、オレは、なんでバイクに乗っているんだろうって考えたことがあります」少し真面目な顔でそう言葉を続けた。「偶然に興味を持ったら、その魅力に取りつかれた。なんてことかと思っていた。でも、もしかしたら違うのかも。バイクに出会ったとき、オレは家族が無く一人だった。それが寂しかったのかも。一人になる前の家族とは、自分の示す愛情と相手が欲しいものとのギャップに気付くことができず、上手く家族でいることができなかった。でも、一人だったオレを、バイクはその寂しさを埋めてくれた。そのうえ、友達もでき、仲間ができ、また家族と呼べる人もできた。バイクに乗っているやつらって、みんな結構寂しがり屋なんじゃないか。それを埋めるためにバイクに乗っているんだ。でも、オレはバイクのおかげで寂しさを埋めるだけじゃなく、新しい愛を得ることができた。本当に幸せで充実した生活だった。本当に、ありがとう。」そう言って本当に幸せそうな笑顔を見せた。

「これが、気絶しているだけで普通に目が覚めたら、超恥ずかしいな。でもその時は、夢に向かって走るから、引き続き宜しくお願いします。あっ、そしたらこのメモリーカードのデータは、一旦消去して無効としますからね。内緒でコピーとかしないでね。じゃあ、申し訳ありませんが、あとはよろしくお願いいたします。なんてね。必要ないときは、みんなに見せないでね。」

                                      

「お父さん、これ本気で言ってんのかな?」そう言った後、目の前でベッドに横たわるジローを見た。「ふざけんなよ……」典行は、いろんなことが現実なのか混乱して目をツバメに移した。


「なんで夢なんて語ってんの?それって将来のことじゃん。ちっとも死んじゃうなんて思ってないじゃん。ホント、許さない。なんで?そんなこと言ってんの。約束したじゃん。早く起きてよ。すぐに元気になって。バイクに、乗ろうよ……」ツバメの目から涙が流れ続けている。ジローの手を握り、目を覚ますのを促すように手を揺らし続ける。

「ジロー、ジロー、起きてよ……」


ツバメと典行は、ともに医師にジローの意思を告げた。

そして、病院の駐車場に行った。そこには、レースに来ていた仲間たちみんなが、待っていてくれた。

賀茂田が、ツバメに気付き車から降りてきた。

「ジローからみんなに……」ツバメは、ビデオカメラをトシに渡した。トシがそれを受け取った。みんなが取り囲み、小さな画面を見つめた。再生ボタンを押した。ツバメは、賀茂田の背中のシャツを両手でぎゅっとつかんで顔に押し付けた。「う・う・う・う・う」呻くように声を上げ、泣き続けた。仲間たちみんなが、ジローを失ったことの悲しみの痛みと焦燥感に包まれた。


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