雨のいこいサーキット
56.雨のいこいサーキット
その日はざあざあ降りの雨で、いこいサーキットの路面はフルウエット。午前中様子を見に来た客もすぐに帰った。
「お父さん、生きてたらアタシの結婚のことなんて言ったかな?」ツバメは、事務机の後ろでヨガマットを敷いて座っている。筋トレの手を休めて、賀茂田に唐突に聞いた。
「俺は、ジローちゃん、好きだけど、ツバメの結婚相手となるとやっぱ年取りすぎかな。浅野もそう言うんじゃねえか」賀茂田は、ネットで天気予報とレース動画を見ていたが、その画面を閉じた。「でも、浅野なら、ツバメがこの先どう生きて行きたいのか。それには、お前が好きになった男がどういう風にお前と生きて行くのか。ツバメがバイクに乗り続けたいのか、とかを、きっと俺には言うんだよ。ちょっと理屈っぽくな」ツバメは、賀茂田の言葉を聞いた。「でもな、ツバメには、ツバメが好き男と一緒になりたいって言うんなら、そうすればいい。そのほうが、後悔しないだろ、自分の人生だから。お父さんは、ずっとサポートするよって言うんだよ。まあ、けど、それが浅野昇だよ。」
「お父さん、ツバメが結婚できるなんて思っていたのかな」
「ツバメと一緒にいたくて、バイクに乗ることを教えたのかもな。誰にもやりたくなかったんだろ」
ツバメの心に引っかかっていた小さなとげが外れた感じがした。