チェッカーフラッグ
52.チェッカーフラッグ
アジアコーナーから第2ヘアピンを抜け、バックストレッチに突入。
スリップから岡島が外から並びかかってくる。ジローも中野のスリップストリームについている。その後ろにもピタリと五木田が張り付いている。中野は、後ろの3台に引っ張られるようにスピードが載らない。
《トップの青木がホームストレートに帰ってくる。その後ろ、2位集団4台が入り乱れるように最終コーナーへ》
先に飛び込んだのは、ジローだ。しかし、外側から中野が上がってくる。五木田がクロスラインで内側に入ってくる。
コーナーの出口を睨み続けるジロー。「風が、止んだ……」マシンが、ジワジワとスピードを上げてゆく。
ピットから身を乗り出して、ジローたちのバトルを見つめるツバメ。
コーナー立ち上がり、ジローの目に飛び込んできたチェッカーフラッグ。並ぶようにゴールラインを抜けた。
《勝ったのは、ゼッケン24番青木卓也!2位以下は写真判定だ》 そうアナウンスされた後。電光掲示板のランプが、表示された。
《2位は、ゼッケン66番、斉藤次郎!3位が54番中野。以下、五木田、岡島、宇田川の順》
1コーナーをゆっくり回った。S字コーナー手前で、金網の向こうで手を振る観戦者たち。その中で、ピンクのタオルを振り回している。
「ツバメだ」
「ジロー、やったね!2位だよ」叫んでいる声は聞こえない。しかし、ツバメの指さす先の電光掲示板の上から二番目に66が点灯している。
「前だったんじゃないかと思ったけど、間違いじゃなかった」ジローが、遠慮がちに、軽く左手の拳を上げた。
ゼッケン66番斉藤次郎。シモツマ2サウザンオールスターズバイクフェス
決勝2位フィニッシュ。サーキットのオフィシャルたちが、旗を振ってたたえてくれる。歓喜と疲労が混ざり合った身体で、手を振りながら、さっきまで必死で走っていたコース上を、ゆっくりと見回しながら走り続ける。
そして、ウイニングラップを終えてグランドスタンド前に帰ってきた。
ツバメや賀茂田がグリッド上に迎えに来てくれた。
「おめでとう。バトルに勝っての2位だよ。凄いよ。頑張ったね」ストップしたマシンを支えてジローがバイクから降りた。
「ホントにスゲエな。まさか、2位になっちまうとは思わなかったぜ。おめでとう」少しふらつくジローを支え、ツバメからマシンを受け取った。
「オレも、思ってなかった。いやー、うれしいなー」
「オメデト」ジローが外したヘルメットとリムーバーを受け取った。
「ありがとう。ツバメコーチのおかげです。」そう言った後、大きく息を吐いた。
「ツバメはオレにとってのバイクの神様だ」
「ううん、ジローこそアタシのバイクの神様だよ。バイクが楽しいから、バイクに乗りたいって思ったのはジローのおかげだから」そう言って笑うツバメの顔を見られたのが、何よりもうれしかった。
表彰式が始まり、インタビューを受けるジロー
《凄いバトルでしたが、それを制し2位になったお気持ちはいかがですか?》
「まさか自分がこんな場所に立てるなんて、思っていませんでした。一緒にレースに来てくれた仲間と、コーチに本当に感謝します」
ツバメや賀茂田、トシ、ケンちゃん、バレが拍手で称えてくれる。みんなの笑顔がはじけた。