ジローのバトル
51.ジローのバトル
6周目。2位争い4台のうち、3台がシモツマサザンサーキットのシリーズ上位ライダーだ。このレースで先にチェッカーフラッグを受ければ、シモツマライダーで一番速いNSF100ということにもなる。ジローの集中力が一段と高くなる。
この4台は、ラップタイムの差がほとんどない。だから、4台の中でお互いの位置によって、スリップストリームを使いあい順位を入れ替えることはあっても抜け出すことが出来ない。集団のままホームストレートに帰ってくる。
トップはゼッケン24番、青木卓也。2位との差を4秒に広げ独走状態。安定した走りで周回を重ねる。
ジローは2位集団の中で、トップでコントロールラインを抜けるための位置取りとシミュレーションをしながら走り続けた。
7周目の第2ヘアピンからバックストレッチ。2位集団4台のうち、宇田川がミスをしてストレートで少し離れる、ジローは、前の2台の後ろでスリップに着く。最終コーナーを並んで侵入する2台。内側の中野が前に。それに続いてジローも岡島をかわす。そのままコントロールラインを通過。
1位青木。4秒開いて、54番中野、66番ジロー、8番岡島、11番宇田川と続く。
《ファイナルラップ、突入!》実況が叫ぶ
1コーナー。S字コーナー。第1ヘアピン。ダンロップコーナー。
《トップの青木は、後続を引き離して独走。勝利は確実か。しかし、2位争いは4台が集団になって、誰が先にチェッカーをくぐるのか、熾烈な争いを繰り広げている!》
自分の走りを信じてアクセルを開け続ける。
「ジローちゃんが来た時のこと覚えているか」ピットからは見えないところを走っているジローを、待つ賀茂田。
「まあ、なんとなく。」
「俺もだ。でも、ツバメにコーチを頼んだろ。あれからだな。印象に残ったのは」
「アタシも。チョコくれたんだ」
「あのころ、ツバメがバイクに乗ること、ビビってただろ。だから、ジローちゃんがなんかのきっかけになればいいと思った」
「アタシは、チョコ貰った分のお返しだったけど」
「最初は危なっかしくって、これじゃあ続かないって思ってた」
「そうだね。すぐ飽きちゃうんだろってね。歳とってんもんね」
「でも、意外と長く続いて。あのツバメの8の字練習の動画、ずいぶん研究したみたいだぜ。バイクに乗らない時も、ずっと見てたみたいだからな」
「バイクって、他のスポーツと違って、ケガするリスクが大きいよね。ジローさんも鎖骨折ったし。それに、実際にバイクに乗って練習するって、時間や環境に縛られるから、意外とできないんだよね。それなのに、ジローさん、結構上達してったから、感心した。」
「俺も、ああ、一生懸命やる人だな。バイク乗るの、楽しんでんなって。いつの間にか、ジローちゃんがバイクに乗ってるのが、普通になっちゃったもんな」
「きっと、ずっと走ってたんだね」
「だから、あんなとこ走れるようになっちゃって、びっくりだよ。頑張ってるから、手伝いたくなっちまうよな」
「アタシも頑張ろうって思っちゃった」