決勝レース、スタート
50.決勝レース、スタート
ライダーたちの前でオフィシャルが赤い旗を頭上に掲げている。最後尾にいるオフィシャルが、すべてのライダーがグリッドに着いたことを確認し、緑の旗を頭上に掲げた。それを確認した先頭のオフィシャルが旗を閉じてピットレーンにとの境の塀を飛び越えた。
見守るピットスタッフやオフィシャル、応援する観客たちも緊張が高まってくる。
それを合図にスタートの合図になるレッドシグナルが点灯した。
『集中』
《今年最後のシモツマバイクイベント。2サウザンオールスターズロードフェス。オープニングは、4ストローク100ccミニバイク、関東ナンバーワンを決める決勝レース。今まさにそのスタートの時刻を迎えました》
いつもよりも大きなサーキット。いつもよりも多い観客。いつもよりもレベルの高いライダーたち。いつもよりも高い緊張感。幅広いコースの先にある少し登坂になっている1コーナー。
《スターティングシグナル、レッド点灯》 ジローは、タコメーターを睨みながら右手のアクセルを一度煽った。
《やや早めのブラックアウト!》 アクセルを開けながら、左手のクラッチを繋ぎつま先で地面を蹴る。
《真っ先に飛び出したのは、P・Pスタート23番釜田聡!そのまま1コーナー飛び込んでホールショット!2番手54番の中野信吾は、やや遅れたか》
15番手のジローが、狙い通り、練習通りの絶妙なロケットスタートを決めた。何台かをパスし、1コーナーへ侵入。
『他のバイクとの接近戦も、ツバメとのバトルのおかげでビビらずにアクセルを開けていられる!』
そこでも2台のマシンをかわし、上位進出を目指し突き進んでゆく。
「4台抜いてる。11番手」ツバメが1コーナーから立ち上がっていくマシンを目で追いながら、ジローの走りを観察した。「大丈夫。ビビってないみたい」
「さすが、ツバメの弟子だな。トップが見える位置で走れれば、いいとこ行けるぞ」
「大丈夫、乗れてる。アアッ!」第1ヘアピンの進入で他車と接触しそうになって、ツバメが思わず声を上げた。しかし、ジローは、スピードを落とすことなくヘアピンを他車の前でコーナリングしていく。その先は、ツバメたちからは見えない。祈るような気持ちでメインストレートに戻ってくるジローを待った。
レースは、1周目、予選4位、2列スタートのゼッケン72番伊東紳吉が、ダンロップコーナーで転倒。マシンの差が無いNSF100は、9台程度でトップグループを作って進んで行く。その中からも、最終コーナー入り口の突っ込みで、じわじわと差を広げるゼッケン23釜田がトップを突き進んでゆく。
《1周目、トップで帰ってきたのは釜田。その後に7番小山、93番高橋、8番岡島、31番原田の4台が集団でコントロールラインを通過》
ジローはトップから4秒差の9位。1周で6台をパスしてきた。
この調子で、バンバン前のライダーたちを抜きたいところだ。しかし、前にいるのは強敵だらけ。ここからは一台ずつ確実に差を詰める慎重な走りに切り替えた。
トップの釜田がじりじり2位との差を広げ、独走状態になりそうな勢いで突き進む。
2位争いは、微妙に順位を入れ替えながら、岡島、原田、小山、高橋が集団で釜田を追いかける。
その後ろ、6位には、スタートで12位まで大きく順位を落とした24番青木がポジションアップ。その後ろに66番ジローが青木の速いペースにくっついて、前を追いかけてゆく。バックストレートではジローのマシンのトップスピードが伸びる。直線で青木のマシンを抜き去り前に出る。決勝を快調に走れていることにわくわくしている。
3周目、一旦は青木の前に出たジローだったが、第1ヘアピンからダンロップ、アジアコーナーと続くところで青木にかわされ、54番中野、11番宇田川の4台で集団を作りながらの走行になる。
その4台も、一段とスピードが落ちる第2ヘアピンでは、前の2位争いをしている4台にぐっと迫る。スリップの使い合いでストレートを駆け抜けるマシン。そして最終コーナーを立ち上がり、コントロールラインを通過。
1位23番釜田聡。約5秒差で2位31番原田哲男、3位8番岡島忠行、4位93番高橋江司、5位7番小山和良、6位24番青木卓也、7位66番ジロー、8位54番中野信吾、9位11番宇田川透が、1秒の間でひしめきながらホームストレートを駆け抜けてゆき、4周目の1コーナーへ突き進む。
1コーナーからコーナーが次々と続くセクション。ジローの前にいた24番青木が、一台ずつパスをして順位を上げてゆく。ジローは、順位をキープするのがやっとで前に出ることが出来ない。集団のまま4周目を終えて5周目の突入してゆく。
5周目。2位まで上がった青木を追いかける5番小山、93番高橋、31番原田の4台の集団。66番ジロー、54番中野、8番岡島、11番宇田川の4台と二つの集団になっていく。その間にトップのゼッケン23番釜田は、2位との差を広げ独走を続ける。第2ヘアピンからのバックストレッチは、直線スピードの差とスリップの使い合いで、微妙に集団がバラケる。ジローのマシンの後ろに、他のマシンが張り付きスリップに利用されすぐ前との差が開く。
最終コーナーへの飛び込み。ジローの前の3台(7番小山、93番高橋、31番原田)が接触、コースアウト。ジローはそのすぐ脇を、岡島に続いて何とか巻き込まれずに通過。
5周終わって、1位23番釜田、2.5秒の差で2位24番青木、その1.5秒差で3位8番岡島、ジロー、宇田川、中野が集団で続く。
1コーナー、S字とクリアしたところで、イエローフラッグが振られている。
アジアコーナーで単独の転倒マシン。トップを走っていたゼッケン23番、釜田のマシンだ。
なんとこれで、トップは24番青木。ジローたち、4台のグループは、2位争いの集団となった。
いきなり単独のトップになった青木は、ここぞとばかりにアクセルを開け、トップを突き進む。最終コーナーで後ろを確認。独走を確かめ、ホームストレートを駆け抜ける。