関東ナンバー1決定戦
48.関東ナンバー1決定戦
2012年12月16日土曜日。まだ朝というには暗すぎる午前5時。4番ゲートの入口から路肩に列をなして開門を待つ車の列。その中でジローとトシの乗った軽のワンボックス。その後ろに賀茂田とツバメの乗ったいこいサーキットのハイエースもいた。昨日は、関東の空っ風がもろに吹き付けた下妻サーキット。しかし、今日は風がやんで絶好のバイク日和。シモツマ2サザンオールスターズバイクフェスの決勝戦。
「しっかし、みんな早いっすね。なんか、久しぶりだな。ちょっと、子供のころの遠足気分で、眠くないっすね」
「でも、ミニバイククラスのレースが一番だから、昼前には決勝も終わっちまうし、あっという間なんだろうな」
「決勝、10周ですよね。てことは、1周1分30秒位として、トータル15分ですね。その15分に1年間の総まとめ。斉藤次郎、ライダーとしての結果をそのレースで出す。てわけですね」
「トシ、余計なこと言うなよ。緊張すんだろ。でも、いつもより高いレベルの中で、トシやツバメ、カモさんにハジかかさない走り、したいなー」
「大丈夫、ライダージロー。進化しましたよ」
「カモジー、来シーズンまた、シリーズ戦、年間エントリーするよ」ジローたちの車のすぐ後ろ。いこいサーキットのトランポにツバメと賀茂田がゲートオープンを待っている。
「だろうな。ジローちゃんと走ってんの見て分かったよ。でも、マシンはどうすんだ。前のまんまじゃ勝てやしないぞ」賀茂田は、運転席のシートを倒し、いこいサーキットのピンクタオルで顔を隠して少しでも身体を休めるように横になっている。
「もうちょっと考える。でも、走んのは、決めた。」助手席で、暗い外を眺めながらツバメが言った。
「ジローちゃんとツバメ、似てるよな」
「そうかな?」
「レースに対する真剣さとストイックに頑張るところ」
「なんか、刺激されるよね。ジローさんのレースって、他人との戦いが優先じゃないみたいで不思議。なんか、バイクを操る仲間たちが、そのレースで競い合うことで、勝ち負けだけの順位をつける競争じゃないって思っているような走り。だから、他人よりも遅い原因が有れば、またそれを克服するよう練習して。新たなレースでその力を発揮すれば、前回よりも満足する結果が得られる。自分との勝負でちゃんと戦うことを優先してる感じ。そういうふうにもレースって楽しめるんだって気付かされた」
「レースに出るなら、ちゃんと飯食ってんだろうな。ジローちゃんにもピットスタッフ頼んどけよ」
「セルフコントロールだろ。自己管理。ジローさんにも言ってるから、自分でもやってるよ。今までよりもきっと楽しく乗れるよね」
グリッド上に、いこいサーキット・中曽根設備でサポートしているゼッケン66番、斉藤次郎が立っていた。
周りには、千葉3サーキット、茨城県3サーキット、埼玉3サーキット、栃木3サーキット、群馬1サーキットの関東13ヵ所のサーキットで行なわれたシリーズ戦の上位3位までのライダーのうち、複数でランクインしているライダーと辞退者を除いた35名が並んでいる。
ポールポジションは、ミニバイクレースで数々のチャンピオンを獲得している埼玉アラカワの覇者、ゼッケン23番、釜田聡選手。僅かの差でMOバラチャンピオンゼッケン54番、中野信吾選手
3番グリッドには、群馬県ハルノブから参戦、16歳のゼッケン24番、青木卓也選手。そして2列目、4番手には、シモツマサザンコースシリーズ2位、ゼッケン8番岡島忠行選手が並ぶ。ジローはそれより2列後ろ、5列目、15番グリッドからのスタートになる。
「ジローさん、初めてのフルコースでのレースだね」ツバメがマシン脇でいこいサーキットのピンクの傘を差し掛けながらそう言った。「その割には、上々の予選結果だよ」緊張するジローの気持ちをほぐすように声を掛ける。「みんな関東のライダーだから、大きいバイクでこのコースを走ってる人たちばかりだよ。ジローさんが真ん中より上なのが凄く出来すぎなくらい。あとは、スタート。マシンの性能差がほとんど無いんだから、少しでも前にいる方が断然有利だからね」
「ハハ、がんばるよ」緊張で胸がざわざわしているジロー。
「ジローちゃん、あれ」賀茂田が2列ほど後ろのライダーを指さした。マシンとライディングスーツに下妻サーキットのロゴがプリントされている。「3年前のチャンピオン。シモツマの事務長の五木田さんだ。主催者推薦で、ほぼ立候補だろって言われて、クレームもんだよな。」
「オレ、あの人にいこいサーキットの事教えてもらったんですよ」
「予選19位だったのか。けど、実力からするとそんなもんじゃないはずだぜ。三味線弾いてる可能性があるから用心しときなよ」
「オレ、ちょっと挨拶してきます」ジローは、小走りで五木田に向かった。