ジローとバレとケンちゃん
44.ジローとバレとケンちゃん
そんなジローの様子を見に、いこいサーキットの常連のケンちゃんとバレが来た。
「ちゃんと飯食ってる?たこ焼き買ってきたから。金は、こいつが出したんだぜ。ジローちゃん、知ってた。こいつ結構いい稼ぎしてんだぜ」親指でバレを指さした。バレは、顔の前で手のひらを横に振っている。
「さっき、会社の事務所にちょっと、ジローさん、いますかって入ってったんだ。そしたら、中の爺さんが、人のことじろじろ見やがって、クセー顔して、そっちだって偉そうに足で指して教えやがった。何?もしかして、あんなのが社長とか?ジローちゃんがいいって言ってくれれば、生意気なこと言ってるから、ちょっとシメちゃおうかうか?」
「ケンちゃん、大丈夫だから」ジローは、ケンちゃんならやりかねないと思った。
「ジローさん、こんなのやってるんですか?」バレが、Gチャンを興味深そうに眺めた。
「言ってなかったっけ?」
「俺はトシから聞いてたぜ。お前、人の話聞かないで、自分のバイクのことしか話さないからダメなんだよ」ケンちゃんが、自分のことを棚に上げそう言った。
「なんか上達が早いなって思ってたんだ。こんなところに秘密があったんだね」バレは興味深そうにシミュレーターを眺めた。
「まあ、俺も現物観るのは初めてだけどな」ケンちゃんもそう言う。
「物は手作り感たっぷりのオモチャっぽいけどね。自分の妄想力をフルに使えれば、イメージトレーニングにはなるし、クラッシュしないし」
「オモチャっていうよりゴミと芸術の間じゃないのか。バレ、動かしてみろよ」ケンちゃんが促した。
「いや、動かすのは自力。動画に合せて自分でバイク、傾けたりするだけなんだ。やってみる?」ジローはバレにそう聞いた。
「う、うん。」バレは首を何度も縦に振った。
「じゃあ、跨って」そう言うより早く、バレは、Gチャンに跨っていた。ジローは、パソコンで動画を再生した。
「あっ、いこいサーキットのピット側からなんだ」画像が、バイクがメーターを画面下に舐めながら、いこいサーキットの本コースへと入って行く。
「バレがよく知ってるコース。ツバメコーチのライディング。30秒位のラップで丁寧に乗ってもらってる。1周目はウォームアップラップ。」ゆっくり流れる画面。「スターティング・グリッドから、12周のラップでゴール。で、1周流してピットアウト。で、1セットになってるから、何度か繰り返してイメージを固める」
「ほら、バレ、しっかり動かせよ。画面より遅れてるぞ」ケンちゃんがシミュレーターの後ろからバレの動きとモニターを見つめる。
「うん。これ、もう少し遅く再生したりできるんでしょ」バレが、ぎくしゃくしながらマシンを動かす。
「もちろん。適当だけどね」ジローも他人がGチャンをやっているのを初めて見て、興味深そうに眺めたいた。
「ジローさん、また、時々、来てもいいかな?」バレは照れくさそうにそう言った。
「ああ、何時でも来てよ」ジローがうれしそうに答えた。
「じゃあ、早く降りろよ。俺にもやらせろ」ケンちゃんもそう言った。