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下妻サーキット  作者: のーでーく
43/62

ツバメと典行

43.ツバメと典行

手術の日。典行が付き添いにも来てくれた。手術自体は1時間程度。麻酔の時間を含めても3時間程度。ツバメも典行と一緒に手術の付き添いをした。

「すごくいろいろ、父さんのことでご面倒を掛けちゃってすみませんでした」

「イヤー、なんかジローさんとはここんところサーキットで関わりが多くて、お互いさまってこともあるから気にしないで」

「でも、父さんがバイクのレースに出ているなんて、知らなかった。ちょっと意外だった」

「そうね、もともとバイクがすごく好きでレースに興味があったんじゃなかったみたい。ジローさんて水道屋さんでしょ。その仕事もきっかけになって。ウチのいこいサーキットでも、いろいろ仕事頼むようになったんだ。でも、なんかバイク乗り始めたら、面白いの。」

「面白い?」

「すごく練習熱心で、サーキット来れない時もイメージトレーニング用のマシンとかつくっちゃって。それが、公園にある子供の遊具、パンダとかの、乗って自分で揺らして遊ぶやつ、あるでしょ。それを真似て作って。でもね、それに乗ってるとこは見たことないんだ。ヤッパ、恥ずかしいんじゃない。可笑しいよね。ジローさん、47歳だっけ。きっと、本気なんだよ。一生懸命練習してるの。意外と使えてんだと思う。だって、ジローさん、最初と比べるとすごく上手く走れるようになってるんだもの」

「ボクも、そのマシン、見てみたいな」

「男ってそういうの好きだよね」

「ツバメさんは、もしかしてチョコレートとか好きなんですか?」

「え?そうだけど、なんで」

「最近、お父さんがチョコの美味しい店とメールで聞いてくるんで、だれか知り合いでチョコ好きの人がいるんだと思ってたんだ。ボク、パティシエの修行中で、筑波の駅近のケーキ屋《焼菓子屋》っていう店に勤めているんですよ。焼菓子より生ケーキのほうが多いんですけどね」

「そうなんだ。じゃあ、貰ったチョコで、典行さんが作ったのもあったのかな」

「まだ、2年目なんで、人に出せるようなものは作ってなくて。でも、貰ったチョコとかってどうでした?」

「うん、もう最高。最初に貰ったやつから絶品!ベルギーチョコのピエール・マルコリーニセレクション。あれなんか、よくテレビの食レポなんかで聞く、甘みと深みと香り、ほのかな苦みのコラボレーションみたいなことが、本当にあるんだって感動もんだった。忘れらんない」

「良かった」そう言った典行の笑顔がジローに似ていたから、ツバメも笑った。


「何か飲みますか?」自動販売機の前で典行がツバメに言った。

「大丈夫、お茶があるから」そう言って、水筒を見せた。

「ツバメさんもライダーなんですよね」手術の間、談話室でジローを待つ二人。

「ハハ、それほど若くもない女なのに、レースなんかしてるのって、変よね」窓際の席で、外がよく見える。入院患者の気晴らしになる良い場所だ。

「いや、そんなことはないけど。怖くないんですか?」

「うーん、あんまり、怖くないんだよね。走っているときなんかは、全く。もちろん、転びそうになったときとかは、ヤバイ!って思って、ぞっとして汗かくことはあるけど、それも一瞬だけ」

「でも、よく知らなくて想像なんですけど、ケガするリスクとかすごく多いし、命の危険もあるじゃないですか。それに、自分一人だけじゃなくて、他の人ともぶつかる可能性もあるし。事故になったら、生活とかにも影響するんじゃないんですか?」

「鋭いね。その通り。ジローさんの事、心配?」

「なのに、なんでレースなんか。それも、プロでも無く、お父さんなんか、ただの遊びなのに、大して上手くもないのに命がけって。自分の人生だけじゃなく、周囲も巻き込んで、リスクが大きすぎませんか?」典行は、ツバメの問いには答えず、自分の中のモヤモヤしたものを吐き出すようにそう言った。

「そうだね。そこは本当に大きな問題だと思う。そこでちゃんと考えて乗らないか、乗りたいっていう気持ちのままに走るか。それがライダーかそうじゃない人か、なのかな。」

「お父さん、ライダーなんですか」

「まあ、山登りする人と同じじゃない。危険でも、登りたくなる。そういう種類の人って結構いると思う」

「お父さんは、バイクに乗るのが好きだって言ってた」

「アタシも、好きなんだ。」

手術は順調に済んだ。


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