ジローと典行
42.ジローと典行
〈ピンポーン〉照明も付いていないアパートの一室で、ベッドの横たわるジロー。その部屋にチャイムの音が響いた。起き上がろうとするジロー。もう一度響くチャイム。そしてドアノブを回す音。鍵はかかっていない。その間も体を起こし、ベッドのふちにやっと腰掛けるジロー。
「誰?トシか?」引違いの戸を開けるジロー
「父さん、ボクだよ。典行。おにぎりだけど買ってきたから。それと骨付きチキンとスポーツドリンクも」
病院診察日。ジローとツバメは診察の順番を待って長椅子に座っている。
「昨日、典行が家に来たよ。あいつのところに行ってくれたんだってな」
「余計なことだったらゴメン」
「典行のやつ、父さんはどうなんだって。手術したいのか?レース出たいのか?だって」
「なんて言ったの?」
「そりゃあ、もちろん、出たいって言ったさ」
「そう、素直だね」
「まあ、あいつはオレより立派な大人だ。親子だから、迷惑かけるけど、気い使ってウソついてもな」
「……そうなんだ」
その二人の前に典行が現れた。
「遅かった?」
「いや、まだまだしばらくの間、待ちぼうけだ。」
ジローの手術の同意書にサインをしてくれた。