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下妻サーキット  作者: のーでーく
30/62

シモツマサザンST100クラス・スタート

30.シモツマサザンST100クラス・スタート

グリッドに並んでいる4スト単気筒100ccエンジン、23台が一斉に回転を上げ、吼える。血が踊る。緊張と興奮が高まる。

体の中の血が、煮え立つように熱くなってくる。前に見えるライダーたちの背中から、ゆらゆらと気が沸き立っている。それが、大きな塊となっていく。

しかし、それをさえぎるように、その気の前に、ひとつだけ涼しげな白いゆっくりとしたオーラが、キラキラと光っている。北野の背中だ。

「ハハッ。やっぱり、北野は特別だな」ジローはうれしそうにつぶやいた。

グリッドの上に並んでいる赤信号を、見つめる。

決勝レースは、12周。走りきることが目標だ。

レッドシグナル点灯。神経を集中する。エンジンの咆哮が、響く。

『まだか?』

レッドシグナルが消えた。

スタート!

「ツハッ!」

少しの焦りが、アクセルとクラッチの繋ぎを遅らせた。エンジンの噴け上がりがもたついた。両足で路面を思いっきり蹴る。

タイヤが路面を蹴り、バイクが前へ進む。前のマシンよりも、1拍、加速が鈍い。それでも、アクセルは、ワイドオープン。とにかく前に。


短いストレート。逆チェンジのギヤを踏み込み、シフトアップ。右に大きく廻る1コーナーへ、加速しながら飛び込む。前のライダーたちが、ラインを塞ぐ。ぶつかりそうになり、思わずアクセルを緩める。エンジン回転が下がり、もたつく。

『やばい!ビリか?』

トップはもう、次のヘアピンコーナーを入っていく。

『ホールショット、北野か』

白いキラキラした気を発している北野が先頭だ。その後を楔形に、5台くらいが追いかける。

赤く膨らんだ気が、北野に襲い掛かろうと突き進んでゆく。

しかし、ジローが今、気にすることじゃない。とにかく前でダンゴになっている集団に食い込んでいくしかない。

『それにしても、前がつまっていてコーナーの入口で突っ込みそうになる。さすがにレースだと、後ろから突っついても、前を譲ってくれるヤツはいないな。邪魔でまともにアクセルが開けられない。オレの前を塞ぐなっつうの!』

ジローは、そんな思いと、舌打ちやうめき声を発しながら、ブレーキやアクセルを小刻みに忙しく操作し、マシンを突き進める。

神経と血が、ジローの体を駆け回る。手足をすばやく動かしながら、マシンを操る。

前のマシンに張り付く。次のコーナーでイン側になる位置で、先に立ち上がり、加速する。

ジローの体の気が膨らみ、前のマシンに襲いかかろうとした。

コーナーが迫る。

『オレが、内側だ。寄ってきたら、ぶつかるぞー。早くブレーキをかけろ』

ジローのマシンが、横に並ぶ。隣で、マシンの倒しこみが遅れる。抜いた。前に出る。

「クッ!」

一瞬の恐怖を押さえつけ、路面の先を睨みつける。息を詰める。

マシンのタンクを力いっぱい締め付ける。右手のブレーキレバー。右足でブレーキペダル。ブレーキング。

「クウッ。曲がれー!」

突っ込みから、マシンを右に傾ける。マシンにぶら下がるように自分の体を下にずらす。右膝に着いているバンクセンサーを、路面に擦りつける。

コースが目の前を凄い勢いで過ぎてゆく。

左足内側とステップの根元に、体重をかける。タイヤの内側のゴムを路面に押しつけながら、クリッピングポイントをクリアする。

「ヨシッ!」

一瞬の安堵と共に、マシンを起こしアクセルを当ててゆく。

同じマシンに乗り、レースに出ているライダーをひとり、ジローが抜いた。

「ヤツよりも、オレのほうが、速いぜ」

ブレーキングの恐怖とコーナリングのスリル。加速が、ジローの体を波のように揺さぶる。

「うっくっくっく……」

歓喜の唸りが、口から漏れる。

コーナー出口を睨む。アクセルを、開けて立ち上がる。

「ガバッと、フルスロットル!」

メインストレート。また、一台抜いた。

コントロールラインを抜ける。

一瞬、コースの外にピンクのタオルを振るピンクのシャツの人物を見た。

「ツバメだ」そう思った後、すぐにコーナリング動作に入る。

《ジロー GO!!》そう叫ぶ声が。ジローに力が沸き上がってきた。


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