ジロー、北野晴夫を知る
28.ジロー、北野晴夫を知る
エントリーしてから、ジローは自分の出るレースを調べた。SB43とは、シモツマのビギナーで1周のタイムが、43秒未満ということだ。しかし、出場エントリーが少ないため、他のクラスとの混走になる。そのクラスは、バイク自体はジローと同じNSF100だが、速さのレベルが格段に違う。
ホンダレーシングカンパニー、HRCが主催するNSF100チャンピオンシップ。日本各地のサーキットでシリーズ戦が開かれ、全国大会で日本一を決める大会があるほどクラスだった。だから、同じようにスタートしても二つに分かれて争うレースなので、ほとんど絡むことが無い。エントリー数と競技進行の効率化のための混走らしい。
去年のレース結果や、各地のサーキットのコースレコードタイム。
「あっ、また同じ名前だ……」
そこに、何度も出てくる名前に気付いた。なぜか、すごくジローの印象に残った。北野晴夫。そのプロフィールを探してみた。歳がまだ13歳の中学一年生。写真で見る限り、小柄で痩せ型。身長も150cmあるのだろうか?体重も相当軽いに違いない。下妻サーキットでの予選タイムが、ダントツに速い39秒482。
「待てよ。ってことは、1周当たり3.5秒速いとすると、12周だと……42秒。こりゃ、かなりの確率で周回遅れになるな。」しかし、ジローがそれをどうにかできるわけではない。
「ツバメが言うように、コケない、失敗しない。だな」なんにしてもジローにとって未知のことなので、対応も何もない。なるようになるだろうと思うしかない。とそのとき、携帯電話に着信が入った。マルヤからだ。
「ジローさん、すみません」桃川からだった。
「お疲れさま。どうかした?」
「実は、エントリーミスがあったんです。自分、間違えてST100クラスにエントリーしちゃってたんです」
「エッ?STってどんなクラス?レースは出られるんでしょ?」
「はい、バイクはNSF100のノーマルだから、問題ないんですけど。だけど、初心者クラスってわけじゃなくて、普通のある程度走れるクラスなんですよ。それが、前言っていたNSFチャンピオンシップと混走になるクラスだったんです」
「へえ、じゃあ桃川君は、がんばって速く走らなくちゃなんなくて、オレは、初心者のSB43でいいんでしょ」
「いや、違うんです。ジローさんもST100クラスでエントリーしてるんです」
「ウソー!無理でしょ。さっき、ネットでNSFクラスのサーキットタイム見て、ビビってたんだから」
「エントリーの受付票確認してもらっていいですか?」ジローは、ファイルに挟んであった書類を確認した。
「あっ、本当だ」エントリークラスがST100になっている。
「どうします?」
「どうしますって、出れないわけじゃないよな」
「エントリ台数が少ないから、予選落ちは無いと思います」
「じゃあ、ST100に出るしかないよな」
「そうですよね。今更クラス替えられないですし。」
「わかった。ちょっと、プレッシャーが重くなったけど……」そう言って電話を切った。不安が大きくなり、落ち着かない。眠れない夜になりそうだ。