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下妻サーキット  作者: のーでーく
27/62

ジローのレースエントリー

27.ジローのレースエントリー

「エッ?レース?マジなハナシ?」ジローは、タイヤとオイルの交換でNSFをバイクショップ、マルヤに持ち込んだ。

「もちろんですよ。自分だって、レースを走るのは初めてですから、一人だと不安じゃないですか」桃川が作業をしながら、ちょっと照れたようにそう言った。

桃川は、30歳。メカニックとしてのキャリアは、5年。このショップも3年勤めている。器用でセンスがあり、人当たりもいい。細身で、目がでかくて、きれいな顔をしている。

話しながらも、手を休めることなく、スムーズに作業を進めていく。

「やっと近場のコースを走れるようになったばかりだぜ。オレなんかが出たら、邪魔になるだけだろう。」

「そんなこと無いですよ。43秒台出てるじゃないですか。自分、こんなに速く走れないですよ。2秒落ちくらいですから」

桃川は、タコメーターの隣に付いているラップタイマーをチェックしながらそう言った。

「アラカワのAコースで、このラップなら、全然邪魔になんかなりませんよ。一緒に出ましょうよ。」そう言われて、まんざらでもなかった。

サーキットに通い始めたころは、いこいサーキットでもコースさえ、どこを走っていいのかさえも分からなかった。しかし、今は、もっとテクニカルなアラカワスポーツウェイにも走りに行っている。

高齢者のマークはついたままだが、初心者マークは、やっと取れた。

「でも、どのクラスで出る?桃川君の造ってるバイクとオレのとじゃあ、性能差が有りすぎるだろう」

「あのマシンは、白井さん用にセッティングしてますから。自分なんかじゃ乗りこなせませんよ。それに、壊したら大変ですからね。だから、2階に置いてある宮本さんのNSFです。ジローさんのと同じ、ノーマル。塗装してないですけど」

白井徹也は、地方選手権で活躍したライダーで、仲間には全日本選手権ライダーがたくさんいる。マルヤが雑誌の企画で単気筒レーサーを造った時に、テストライダーとしてインプレッションした。白井は、子供のころ、2003年に日本人初の最高峰モトGPチャンピオン、佐藤大地にアマチュアレースで勝ったこともある。

その白井が、ミニバイクレースにも参加していた経歴もあり、マルヤがミニバイクレーサーを造るようになった。その担当が桃川だった。

「同じバイクってことは、同じレースを走るってことか?」

「そうです。下妻サーキットのサザンコース。初心者クラスですよ。だから、タイムスケジュールとかも同じです。いっぺんに始まって、終わるのも一緒。だから気も楽じゃないですか。レースだって言っても、優勝しようって訳じゃないですから。もちろん、ジローさんは、勝っちゃっていいですよ」桃川が笑いながらそう言った。

「ビリ争いだろうけどなあ。レースかぁ……まあ、面白そうだなあ。じゃあ、付き合ってみるか」

ジローの心臓の鼓動が、大きく全身に響いた。

自分がレースに出場する。そのことに、大きな不安があった。でも、出ると答えたとたんに、期待と興奮が胸の中でじわじわ膨らんでいった。ツバメがなんて言うか、反応も気になった。


「エッ?ジローさんがレース?」いこいサーキットの走行受付用紙に記入しながら、マルヤでレースに誘われたことを報告した。

「レースって言っても初心者クラス。シモツマサザンコース。1周43秒未満じゃないと順位もつかないクラスなんだと。マルヤで造っているミニレーサー担当の桃川君が、社長の宮本さんに言われて参加するんで、オレも一緒にって言われたんだ」

「SB43クラスか。」ちょっと考えているように黙るツバメ。「まあ、いいんじゃない。問題無いでしょ。」まだ下手で危ないからダメだと反対されるかと思ったが、意に反しすんなりと同意してくれたツバメに、ジローはホッとした。

「まあ、目標は優勝だね。レースなんだから、勝つことを目標にするのは当然でしょう」ライダーのツバメの言うことなので本気か冗談か判断できない。

「優勝?それはちょっと、無理」

「設定タイムがあるんだから、速けりゃ勝つってわけじゃないでしょ。ジローさんなら、シモツマ、43秒より速く走れることはないだろうけど、やたら遅いわけじゃない。コケたり失敗しなけりゃあ、十分優勝の可能性があるよ。優勝目指すのは、当たり前でしょ」ツバメは、インターネットでレギュレーションを確認しながらそう言った。

「優勝?オレが?」レースのことが何もわかっていないジローは、ライダー経験の長いツバメの言葉をどう判断していいのか、まるで分らず困惑した。

「勝たなきゃ、とりあえず勝つつもりじゃなきゃ、二度と教えてあげない」

「じゃあ、ツバメコーチもピットクルーとして一緒に来てよ」

「エッ?下妻サーキットは……」ツバメは、昨年の事故以来行ってないから、関係者に合うのが気まずく、行きずらい。

「サザンコースで主催するのもモトサークルだからいいでしょ。未熟な弟子の初レースなんだから、頼みますよ」そう言いながら、チョコの入った小さな紙袋を差し出すジロー。

「う~ん……」迷っているような顔をするが、チョコには手を出すツバメ。


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