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下妻サーキット  作者: のーでーく
26/62

ジローのトレーニング

26.ジローのトレーニング

ジローは、時間が取れるといこいサーキットに通うようになる。そして、毎回来るたび、延々と8の字走行の練習をする。その日は、ジローが一人で来ていた。その様子を賀茂田がジローのトランポの軽ワンボックスのそばで見ている。ジローのバイクは、転倒時のダメージを軽くするため、カウリングやフロントフェンダーを外し、ゼッケンプレートが走行券を張り付けるためにつけてある。そして、エンジンやフレームにトシが製作したガードパイプが取り付けてある。教習所のバイクや白バイに付いてものを真似た鉄の水道パイプを加工したものだ。ジローが着ている皮ツナギにも、通常の膝に付いているバンクセンサーの上に更に硬質のプラスチック板の張り付いたサポーターと、肘にも同じようなガード付きサポーター。そして、手首の内側にもガードを張り付け、ダメージから身体を守っている。つまり、ジローのライディングがぎこちなく、何度となくバイクを倒している為の対策だった。

「やっぱ、リアルだと難しいってか、ミスるな」こすれた肘と膝を手で払いながらジローが言った。そして、軽ワンボックスまでミニバイクを押して戻り、ヘルメットを取り休憩する。

「少し上手くなってきたじゃねえか」賀茂田が半笑いで冷やかす。

「シャーってイメージだけは出来てんだけど、ちっともリズミカルに、スムーズにいかないっすね」クーラーボックスから缶コーヒーを出し賀茂田に手渡し、自分は2リットルペットボトルのスポーツドリンクをラッパ飲みした。

そこに、ツバメがしかめっ面で来た。

「低速なんだから、アクセル雑だとバイクの挙動がギクシャクして、慌ててオンオフするからコケルんだよ。バイクも人間も転べばダメージがあるんだから、優しくしなくちゃ言うこと聞かないよ。ちぃっとも速くならない。そんなんだと、周りのお客さんにもバイクが怖いってイメージ与えて、お客が減っちゃうでしょうよ。もう、迷惑だから、やめたほうが自分の身体の為にもいいんじゃない?」矢継ぎ早に注意する。今日は機嫌が悪いのか?ジローは、縮こまってそれを聞いた。

「うっうん」ジローの隣で賀茂田が咳払いをした。そして、ジローのバイクのゼッケンプレートに張ってある年間パスポートのステッカーを指さした。

「スタッフとして働いているんなら、お客がケガをしないように適切なアドバイスをするのも仕事のうちだよなあ」と賀茂田。その言葉に一瞬ひるむツバメ。

「あっ後でと思ったんだけど、もしよかったらこれ」すかさずクーラーボックスから差し出したチョコ菓子。それを見て一瞬目が輝くツバメ。

「……わかったよ。最低限、必要なことだけは教えるよ」鼻の穴に力が入った顔でそう言って、事務所に戻って行った。その後姿を見送って賀茂田が言った。

「上手くかわしたな。そんなふうにコーナリングできれば、バッチリだ!」そう言って親指を立てて見せた。



ジローとツバメのトレーニングが始まる。

「コーナリングの時に注意すること」そう言ってツバメに渡された紙をジローが開いた。

1、スロットルオフ

2、ニーグリップ膝ステップ

3、体重移動ヘソを引き腹筋意識

4、リアブレーキ

5、フロントブレーキ

6、シフトダウン

7、イン側膝開く

8、ブレーキリリース リア軽く残す

9、インステップ90%荷重アウトステップ外へ踏み込む

10、外足太腿膝タンクに当ててニーグリップ

11、ハンドルインに切る

12、尻を曲がる方向に押し込みバイクを引き倒す。イングリップを下へアウトグリップを上へ荷重かける

13、インステップ荷重からシート荷重へ徐々に移す

14、スロットルを徐々にオン

15、最大バンク角シート90%荷重 外足太腿膝踵を車体にくっつける

16、クリッピングポイント インステップで旋回率調整 スロットル併用

17、引起し 膝を閉じ上半身を中央に戻す。アクセル併用

18、加速 上半身の前傾角を深くし前輪に荷重を載せる

「何だこれ?こんなにかよー!」

「なんでそんな言い方!言葉にするの大変だったんだぞ」

「それは、見ただけでわかる。けど、コーナリングって一瞬じゃない。それなのに、これ。18番まで番号有るぞ」

「順番にするとそうなるだけで、それを、1,2、3ってやってくわけじゃないから。コーナリングの中でそれを注意できるように体に覚えさせる。それが、練習じゃない。いっぺんにできるようになれって言ってないし、出来ると思ってないから」

「……」

「腹筋してるんでしょ」

「ああ、少しだけど」

「それだって、毎日してれば筋肉が少しずつ付いて、苦しさが少しずつ少なくなっていくじゃない。それと同じ。少しずつだよ」

「ああ」そう言ってもう一度その紙をじっと見た。「でもこれ、大変だったろう」

「大変だった」少し照れたような、すねたような言い方だった。

「ありがとうな。大事にするよ」ツバメが自分のために書いてくれたメモがうれしかった。



ジローの熱心な練習の継続により、ライディングが上達してゆく。

「ジローさん、今日も来てるな。どうなんだ?」

「まあ、がんばってる分だけ少しづつバイクに慣れているね」

「イメージトレーニングもやってるみたいだしな。そろそろレースでもイイんじゃないか?」

「レースか……でもまだ無理、ジローさんじゃ、歳なんだからケガしたら治んないよ。」

「でも、結構ツバメの言うことできるようになってるぞ」

「いやあ、本人レースなんて考えてないみたい。だから、いいよ、レースは」

バイクに乗る楽しさがどんどん増してゆく。

コース練習を始める。

筋トレ、ストレッチ、ランニング、動体視力、反射神経 ほんの少しずつ体に染み込ませていく


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